第三章9『任務:ギザギザの葉を見つけましょう(前編)』
火山の麓にある森林。
一言で言えば、ついさっきロギ族の集落に向かうために突き進んでいた道中。
「あーあ、まさか直ぐUターンすることになるなんて。だったら、ギザギザの葉だか何だか知らないけど、適当に手に入れとけば良かったわね」
「そんなこと言われたって、きっと気づかないでしょう?」
私の言葉に、いちいち文句を言わないでよ!
まあ、私が言葉を口にしなければ済む話なんだろうけど!
「……ところでギザギザの葉ってどんな植物な訳?」
「文字通り、ギザギザで大きな葉っぱのことを言うんだけど、知らないの? 序盤のクエストで高値で売れる商品の一つだったと記憶してるけど」
「それは、Ver1.5以降の話でしょ。私はVer0.9からやってるから、ギザギザの葉なんて知らないのよ。もしかして、そこそこお高い代物?」
「今なら一枚三千ダイスぐらいかな」
「三千ダイス!? そりゃ、確かに初心者なら手に入れたい代物であることは間違いないわね……」
「でしょう?」
「おーい。話をしていないで、ギザギザの葉を探してくれよ。それとも見つかったのか?」
ゴードンの言葉に、私たちは何も答えなかった。
「……答えないってことは、未だ見つかっていないってことなんだな。じゃあ、さっさと見つけてくれよ。そうじゃないと、作戦の算段がつきやしない」
「そうですよ、二人とも。きちんと探してください。ギザギザの葉が見つからない限り、私たちは『隠れ蓑の装備』を手に入れることが出来ないんですから!」
ゴードンとレオンの言葉もごもっともだった。
しかしながら、捜索しても見つからないものは見つからないのだ。少しはそれぐらい考慮して欲しいものだけど。
「……それにしても、ほんとうに見つからねえな。いったい全体、何処を探せば見つかるんだ?」
「……そんなこと言われても困りますよ。私だって、見つからなくて苦労しているんですから。まさかとは思いますけれど、誰かがこっそり奪い取っているんじゃ……」
「誰が? 何のために?」
「それは分かりませんけれど……」
「【アビスロード】が悪戯してたりとか?」
「………………有り得そうで困る」
あの退屈そうで面倒臭そうで面白いことが大好きな狂った【アビスロード】、白き女王ならばやりかねない。
まあ、実際にやるかやらないかは彼女自身の考えにもよるだろうが――。
「と・に・か・く! 大急ぎで見つけないと、白き女王に囚われた人たちがどうなるか分かったものじゃないんでしょう? 【アビスロード】白き女王が期限を設けたかどうかは別として。もしかしたら気まぐれで私たちがヤルダバオトを倒す前に全員殺しかねませんよ? となると急がないと……」
「それは不味い!」
既に人一人死んでしまってるのだが、それよりも『少年』を含む全員が死んでしまうことはもっと悪い!
そうなると、『アビスクエスト』のサービス終了も考えられてしまうだろうし、そうなると私自身の居場所がなくなってしまう!
利己的な考えだ、だって? でもしょうがないだろ! それぐらい考えて欲しいものだ!
「……ほんとうに見つからねえな、ギザギザの葉」
「いったい何処にあるんでしょう?」
「やっぱり【アビスロード】が悪さしたのかも……」
「でも、どうやって?」
そう。
仮に【アビスロード】白き女王が悪さをしたとしても、どうやって悪さをしたのか――その点が注目される。どうやって悪さをしたのか。どうして悪さをしたのか。どのようにして悪さをしたのか。問題は山積みだ。はっきり言って、どうしてこんなことをするのか詰問したいぐらいだ。
だが、しかし、だ。
【アビスロード】がこんなことをするというのに、何か意味があるのだろうか?
もしも、『つまらないから』などというくだらない理由でやっているというのなら一言言ってやりたい。
巫山戯るな、と。
そんなことで人の命を操れると思うな。たかがプログラムの分際で。
そもそも。
テクノポップ社は【アビスロード】の狼狽を管理してるのだろうか?
管理してないとするならば、それは大問題と言えよう。
【アビスロード】の狼狽を管理してるとしても、それはそれで問題だ。人の命を奪った、と言ったのだから。それがほんとうであるかどうかはまた別として、それは脅迫と言っても過言では無い。プログラムが人間に脅迫をするなど、そんなことは有り得るのだろうか?
「……何か、考え事をしているようだが」
言ったのは、ゴードンだった。
私の思考を、読まれてるのか?
ゴードンはさらに話を続ける。
「もし、何か考えているならば、それはさっさと諦めた方が良い。『ギザギザの葉』を見つけるということ、それを実際にやってのけない限り、俺たちに道は無い。それに、ギザギザの葉はそれ程レアリティの高い物じゃない。だから、ギザギザの葉を消すとしたらデータテーブルごと書き替えなければならないだろう。そうなるとやってのけることが出来る人物というのは――」
「――テクノポップ社の人間がやってる、って言いたいの?」
私の問いに、ゆっくりとゴードンは頷いた。




