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レベルカンストの彼女とレベル1の僕  作者: 巫 夏希
第三章 その『黒』の神は怒り狂う
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第三章8『隠れ蓑の装備』


 という訳で。

 私たちは商店街へとやってきていた。理由は単純明快、先程私が皆に見せたチラシ――『隠遁スキル』を上昇させることが出来る隠れ蓑の装備を手に入れるためだ。正直、時間がない今そんなことをしている暇はあるのか、と言われると疑問しか浮かばないのだが、忍者に見つからないためにもこれが必要だ、という全員の意見が一致して今買い出しに出ているという次第だ。まったく、真正面からごり押しするという考えは一切至らないのかね?


「ごり押しで済むのは、最低でもパーティレベルが140は無いと駄目です。私たちみたいにギリギリヤルダバオトの討伐レベルに該当する辺りだと、真正面から突っ切る作戦はまあ先ず難しいでしょうね」

「……やだ。心の中、読めるの?」

「……大方、あなたが考えてることは想像がつきますよ。きっとこんなことを考えてるんだろうなあ、という推測から物事を言っただけに過ぎませんが。……しかし、その反応からするに的中したようですね」

「ともかく、その『隠遁スキル』が使える装備を手に入れるのが一番だと思う訳ですが」

「分かってるわよ、分かってるわよう! どうせ私の言うことなんて誰も聞いてくれない……え?」

「何を勘違いしているのか知りませんけど、あなたの意見が採用されたってことですよ。良かったですね?」

「え、ええ?」


 未だ私はその状況を飲み込めずにいた。

 いや、失礼なことを言ってしまうかもしれないけど、まさかそんな簡単に話が通るとは思わない訳じゃん!? だから適当に話を流してた、ってつもりじゃないけど、私にとってはあまり重要性を感じられなかった、その『隠遁スキル』を使う日がやってくるなんて……。


「はいはい、ずっと何を独り言言ってるのか分かったもんじゃありませんけど、さっさと向かいましょうねー」


 そう言われて。

 私たちは、一路『アビス・ファースト』の武器屋へと向かうことになるのだった。



  ◇◇◇



「ああ、それなら売れちまったよ。つい先程な」

「……は?」


 武器屋であった説明は、私たちの予想を遥かに下回る発言だった。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 『隠遁スキル』を上昇させる隠れ蓑の装備が売れてしまった、と。今言ったな!?」

「ああ、確かに言ったよ。だから、隠れ蓑の装備は売れちまったよ。なんだい、あんたたちも欲しかったのか?」

「欲しかったのか? ではない! 手に入れなくてはならないんだ! どうしても!」


 だが、彼らはNPCだ。

 幾ら感情に身を委ねたとしても、意味は無い。


「材料さえ持ってきてくれれば、作らない事も無いぞ」


 そう言ってきたのは、武器屋のNPCだった。


「何だと?」

「作ろうにも材料が無ければ話にならない。だから材料を持ってきてくれれば、作ると言っているんだ。予算は、そのときに考えてやろう」


 こいつ、材料を取ってきて貰っておいて、尚且つ金を取るというのかよ……!


「さあ、どうする? 作ってやらんことはない、と言っているんだぞ? 儂しかあの『隠れ蓑の装備』を作ることは出来ない。だから、儂に頼むしか道はない。さあ、どうする?」


 こいつ、実はNPCじゃなくてPCなんじゃないだろうな……!

 そんなことを考えながら、私は歯ぎしりをした。

 そのときだった。レオンが一歩前に出たのは。


「分かりました。あなたの言うとおり、材料を取りに行きましょう」

「レオン!?」

「ここで取りに行かなければ、『隠れ蓑の装備』を作って貰うことが出来ない。そうなれば作戦が水の泡です。ならば、作って貰った方が良いというもの。そうじゃありませんか?」

「そりゃそうかもしれないがな……!」

「ほっほ。どうやらそこのお嬢さんは、話が分かるようじゃな。良かろう、それでは材料が何処にあるか教えてやろう。火山の麓にある森林に、ギザギザの葉が生えている箇所がある。そこからギザギザの葉を人数分取ってくれば良い。あとの材料はこちらに揃っている」

「それだけで良いのね?」


 私の問いに、うんと頷く武器屋のNPC。

 ならばさっさと向かうに越したことはない――そう思った私たちは大急ぎで外に出るのだった。



◇◇◇



「はーい、良く出来ました」


 パチパチと拍手をしながら、店の奥から出てきたのは、『白き女王』だった。

 白き女王の話は続く。


「あのチラシを配って、上手く彼女たちを探索に出かけさせたのは流石と言ったところかしらね。NPCのお一人?」

「よしてくれ、俺はNPCじゃない。ただのPCだ」

「ああ、そうだったかしら」


 不敵な笑みを浮かべつつも、白き女王は椅子に腰掛ける。


「それで? 俺は、仮にあのギザギザの葉を人数分持ってきて貰ったら本当に隠れ蓑の装備を作っても良いんだな?」

「ええ、構いませんよ。だって最終的には私と戦わなくてはならないんですもの。ほんとうは、戦いたくないんですけれど」

「冗談を言う。二度にわたって人類側のプレイヤーを死に至らしめたというのに」

「あらあ? それは何処の誰のことかしら?」

「……あくまでしらを切るつもりか。だが、構わない。私はただ武器を作り、錬成するだけだ。それ以上もそれ以下も、価値はない」

「そう自覚しているなら、それで結構。あなたたちPCにも頑張って貰わないといけませんからね。そうじゃないと、『上』の考えている計画は上手く進まない」


 ふんふん、と鼻歌を歌いながら武器屋の外に出て行く白き女王。


「なあ、白き女王よ」

「……何ですか?」

「私たちは、いったい何処へ向かっているのだろうな」


 それを聞いた白き女王はくすりと笑みを浮かべ、


「……それこそ、『神のみぞ知る』話ですわ☆」



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