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レベルカンストの彼女とレベル1の僕  作者: 巫 夏希
第三章 その『黒』の神は怒り狂う
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第三章6『ロギ族の村にご訪問(後編)』

「ロギ族は他から血を求めることもしない。穢れているという認識が、私たちの中に強く残っているからだ。だから『交配』はロギ族の中でしか行わない。常識中の常識だ』


 最悪、近親相姦待ったなしということか。それもまた最悪な種族だろ思うけれど。


「ロギ族とヤルダバオト……様にはそのような関係があるのですね。ということは、何処かに神社のような……ええと、なんと言えば良いのかな、ヤルダバオト様を祭っている祠のようなものがあるのですか?」

「ああ、あるとも。……だが、今は神が怒りに包まれていて、近づくことを禁止している。どんなことが起こるか分かったものではないのでね」

「それは仕方がありませんね……」


 もう少し粘るかと思ってたが、案外あっさりと食い下がるんだな。

 私は、レオンにメッセージアプリで状況を確認しようと思ったが、あまり彼女にメッセージアプリでメッセージを飛ばして、意識をそちらに集中させるのも野暮だと思ったので、やらないことにした。


「とにかく、今はヤルダバオト様の怒りを封じることが先だ。何故そのようなことになってしまったのかは私たちにも分かりかねない。奉仕もきちんと行っているし、神の言い伝えを破った覚えもない。だから謎なのだよ、私たちにとって。どうしてヤルダバオト様が怒っているのか」


 その後の話は、なんとなくといった形で終わってしまった。ロギ族がどうして他民族と交流しないのかだとか、ロギ族の歴史について簡単に説明があったけど、私はあまり興味を抱いてなかったので、記憶に留めてない。


「今日はありがとう御座いました」


 お茶を頂いた後、レオンの一声で私たちは立ち上がった。


「問題ないよ。こうやって迷ってやってくる旅人も少なくはない。そういう人たちを少しでももてなすのが私の役目だと思っているからね」


 私は家を出る。

 すると、そこに一人の少年が立っているのが目に入った。


「おや……、ケントじゃないか。どうかしたのかい?」

「長老様の家が騒がしかったから、何かあったのかと思って。……こちらの方々は?」

「道に迷ったと言われる旅人の方々じゃよ。なに、もう帰られるようじゃがのう」

「そうですか。道中、モンスターが出ますのでお気をつけて」


 頭を下げたケントと呼ばれる少年は、そのまま自らの家があるであろう方向に向かって帰って行った。


「ほっほ、ケントは心配症じゃのう。……だが、その通りじゃ。道中、モンスターには充分気をつけなされ」

「ありがとうございます」


 そうして。

 私たちはロギ族の集落を後にするのだった。



 ◇◇◇



「さて、問題は山積みだけど」


 三度、『アビス・ファースト』オンラインカウンター二階のカフェテラス。


「本当なら、ヤルダバオトが祭られてる祠を見せて貰う流れじゃなかったの?」

「そのつもりだった……んですが、どうやら彼らも警戒心が強くなっているようですね。まあ、彼らの信仰する神が怒っているなんて話になればああなってしまうのも仕方無いのかもしれないのですが……」

「ということは、ある程度予想は出来ていたと言うこと?」

「予想は出来ていました。でもまさかあそこまでセキュリティが固いとは思っていませんでしたが」

「予想できてたなら、どうして私たちに伝えてくれなかった訳?」

「話したところで何か変わりましたか?」


 うー、相変わらず棘はあるがはっきりとした物言い。

 まあ、レベル100にもなれば変わった人間ばかりが集まると言うし仕方ないと言えばそこまでになるか。レベルカンストの私が言うのもなんだけど。


「……まあ、いいわ。とにかくこれからの流れをもう一度改めて整理しましょう。話はそれからよ」

「整理する、と言っても分かったことはありませんでしたよね?」

「そう。だから、祠には無理矢理向かう羽目になる」

「羽目になる、という言い方はどうかと思いますけど……。まあ、それは間違い無いでしょうね」

「次に、私たちをどうやって祠まで連れて行くか。祠までのルートは覚えてる?」

「ええ、まあ、なんとなくですけど。……村の奥に洞窟があったのは覚えてるでしょう?」

「ああ、確かにあったわね」

「その洞窟の先に小さな祠があるんです。ヤルダバオトはそこに祭られてる」

「じゃあ、そこまで向かえれば……!」

「ヤルダバオトと戦える可能性はある、ということになりますね」


 レオンの言葉を聞いて、一筋の希望が見えた。

 別に村人に連れて行ってもらわなくても、過去の経験者であるレオンが道を覚えているならば、それで良いでは無いか!

 私は希望を、ただただ一つの希望を持っていた。

 その希望さえ実れば、あとはどうだって良い。

 少年を、皆を助けるためならば――。


「でも、問題はそこまでどうやって気づかれずに向かうか、でしょう? はっきり言って、『また道に迷った』は通用しないだろうから、今度は人が居ないタイミングを見計らうしか無いと思うのだけれど」

「確かに、それは問題ですね……。ただ、『うまく隠れ蓑を使って』行けば問題無いと思ってます」

「隠れ蓑?」

「もし見つかったら、私たちは『巡礼者である』と答えれば良いんです。彼らは、ほかにもロギ族のような存在がいると思い込んでいる。だからヤルダバオトに巡礼しに来たといえば、あっさりと通してくれる可能性は非常に高いと思ってます」

「巡礼、か……。格好はそのままで問題無いと思うか?」

「そこは白いローブでも何でも羽織って、気づかれないようにしましょう」

「それなら顔も隠すことが出来るし、一石二鳥だな」


 こうして、作戦の大枠ができあがった。

 問題はいかにしてヤルダバオトを倒すか、それだけになってしまう訳だが。

 


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