第三章5『ロギ族の村にご訪問(前編)』
レオンを先頭にして、私たちはヤルダバオトを信仰するロギ族の集落へと向かうことになった。
ただし、向かうのは今回だけではない。あくまで今回は集落の実態調査を行うだけで、どのようになっているかを確認するだけだ、という念を押されてしまった。何だよ、私が何も考えずに突っ込む人間だと思ってるのか!
「それにしても、ほんとう未開の地にあるのね……」
私がぽつりと呟くと、先頭を歩いていたレオンが首を傾げる。
「休みますか? 『レベルカンスト』の【剣聖女】さん?」
「……何か私悪いことした?」
「さあ? ……とにかく進まないことには何も始まらないし、真夜中にここを通りたくないし、彼女の言うことは従っておいた方が良いと思いますけど!」
私の隣を歩いていたメディナも、彼女の行動には訳が分からない様子だった。
「ってか、ほんとうにこの先に集落があるのか?」
「あら。私の意見を疑うんですか?」
「別に疑ってませんー」
メディナの言葉にレオンはにっこりと微笑む。
何というか、彼女、性格悪いよね……?
そんなことを、多分皆思っていただろうけど、誰一人、それを口にすることはなかった。
◇◇◇
「着いたわ、ここがロギ族の集落よ」
歩き通して、約一時間。
ようやく私たちはロギ族の集落に到着するのだった。
集落は静かで、誰か外に出ている様子は見られない。
「……静かだな。誰か住んでるのか?」
「おかしい。私が一年前にやってきたときは、もっと人が栄えていたような気配があった気がしたのに……。いったいどうして」
「それは、神が怒りを収めるまで、皆待っているのじゃよ……」
声が聞こえた。
振り返ると、そこに立っていたのは黒いローブに身を包んだ老齢の男性だった。顎髭を蓄えている様子で、その表情は窺い知ることは出来ない。
「神が怒りを収めるまで……とはどういうことでしょうか、ご老人?」
「それよりも儂の質問に答えよ、どうしてこんな僻地にやってきたかね?」
「え、あのー……」
「ちょっと道に迷ってしまったんですよ」
言ったのはレオンだった。
レオンは私たちの方を一瞬振り向くと、ぐっと親指を突き出すポーズを見せる。自分に任せろ、とでも言いたいのだろうか。だとしたら、任せておくに超したことはないのだが。
「道に迷ったか……。ふむ、確かにこの辺りの山道は一度獣道に入ると迷ってしまうからのう。まあ、先ずは休憩したいじゃろう? 儂はこれでもこの集落の長でな。少しゆっくりするが良い」
そう言って、踵を返すと、ゆっくりと歩き始めた。
(……どうする?)
メッセージアプリでレオンに質問する私。
(ここは無視せずに、あの老人の指示に従った方が良いでしょう。大丈夫、こっちから何も仕掛けなければ敵意のない存在だから)
レオンの答えは、至極納得出来るものだった。
(……だったらそれで構わないのだが)
そう言って、私はメッセージアプリを終了させる。それ以上、話すことが無かったからだ。
◇◇◇
「この集落の昔話について?」
「ほっほ。休憩している間の暇つぶしにでもなれば、と思ったのじゃがのう」
家に入って、お茶を提供された後、老人がそんなことを言い出した。
確かに情報を得るのは嬉しいことだ。しかしながら、この集落の情報を得ても何かヒントになるようなことがあるだろうか? ただ、問題としてはこの集落とヤルダバオトの関係性が少しでも分かれば良い、ということだ。もし、何かヒントが得られれば良いのだが。
「それは素晴らしいですね。出来れば、お聞きしたいのですが」
言ったのはレオンだった。というか、その老人との付き合いは全てレオンに任せてる。
何故レオンに任せてるかというと、私自身人付き合いが面倒だからだ。そう言ってしまったら、元も子もないと言われてしまうかもしれないのだが、私にとって人付き合いをする意味がさっぱり分からない。話を出来るならあまりしたくない、というのが正直なところだ。
「……この集落は、ヤルダバオト様が作られた集落なのだよ」
「ヤルダバオト……様?」
「聞いたことは無いかね。この集落で祭っている神様の名前だよ。……まあ、知らないのも当然か。この集落自体が獣道の奥地にある、隠された場所みたいなところがあるからな」
老人の話は続く。
「ヤルダバオト様は、この島の中心に、我々ロギ族の先祖となる人の番いを作った。そうしてそこから徐々に人が増えてきて、やがて彼らは自らを『ロギ族』と名乗るようになった」
「ロギとはどういう意味なのですか?」
「ロギとは、我々の言葉で『神の子』という意味を持つのだ」
つまり、神の子であることを、真に示しているということか。
何というか、自己陶酔してる連中だな。




