第三章4『白魔導師、レオンの提案』
「先ずは下見からってどういうこと!?」
『アビス・ファースト』オンラインカウンター、二階にあるカフェテラス。
そこで私たちは作戦会議、としゃれ込んだ訳だけれど――ゴードンから提案されたのは、私の想像を遥かに下回ることだった。
「だって、俺たちは『ヤルダバオト』のことを何も知りゃしねえんだぜ? そんな状況で向かうなんて無鉄砲にも程がある。はっきり言って、バカのやることだ」
「ば……。もっと言い方って物があるでしょう!!」
「あー、ぴーちくぱーちく五月蠅いな。【剣聖女】様ってこんなに面倒くさい存在だったのかよ」
「何ですって!?」
「まあまあ、ここで喧嘩しても何も始まらないでしょう? とにかく、今話を聞くべきは、彼女よ」
「……え? 私ですか?」
「そう。だってあなたしか知らないんだもの。ヤルダバオトが居る場所」
突然会話に参加させられ、きょとんとするレオン。
レオンはどうやら、あまり自分の存在価値の強さを認識していないらしい。
「……分かった。分かったわよ。あなたに従うわ。……それで? これから私たちはどうすればいいわけ?」
「ヤルダバオトが住まう場所を、レオンさんから聞く。そうして、一度レオンさんも含めて場所を確認しに行く。戦うのは未だよ。それから、作戦会議を改めて開く。そうして、作戦を詰めていく」
「……言いたいことは分かるんだけどねえ。ほんとうに出来るのかしら……」
「一応言っておくが、俺たちはいつも作戦会議をするとき、大抵メディナの作戦が上手くいくことが多い。これもまた、こいつの『スキル』なのかもしれねえけれどな」
「スキル? あなた、どういうスキルを持ってるの?」
「『軍師』スキルとでも言えば良いかしらね。その行動においてどのような作戦を立てれば問題無く実行出来るか、というのを指揮することが出来るスキルよ」
「なーんか、ゴードン? だったっけ? のスキルと比べると数段グレードが落ちるのよねえ」
「こいつのは『例外』よ。仕方無いでしょ。あなただって、どのようなスキルを持ってるのか分からないけど」
「……私のスキルは、『分からない』のよ」
「……何ですって?」
「別段珍しい話でもないでしょう? 自分のスキルを良く知ってるプレイヤーなんてたいした数でもないでしょうに。それに、私にとってスキルなんて重要じゃないのよ。現に、スキルを使わなくても、ここまで登り詰めている訳なのだから」
「無意識のうちにスキルを使ってる可能性だって充分に有り得る訳だけどね?」
「そりゃ、そうかもしれないけど」
何か、さっきから突っかかってくるわね、このメディナって娘。
まあ、あんまり年齢が変わらなそうだから嫉妬してるのかも。あまり苛立たせないようにしておくのがベストだろうね。
「……ところで、話が尻切れトンボになってしまったが、どうだ? ヤルダバオトの居る場所についての情報は?」
「あ、ああ。そうだったよね。ヤルダバオトは、ミルフィーユ山の麓にあるロギ族の集落の奥地に住んでるの」
「ロギ族? 聞いたこと無いわね。そんな先住民がいたなんて」
「……知らなくても当然かもね。大手攻略サイトにも、攻略本にも載ってない『隠しデータ』みたいな扱いだから」
「まあ、完全攻略本なんて大嘘よね。実際、ゲームの全てを完全に攻略出来てる本なんてある訳ないもの」
「……それ、かなりの人間を敵に回してるよね?」
「いいじゃない。別に知り合いにそういう人間が居る訳でも無し」
「話を戻すけれど、ロギ族は非常に温厚な民族よ。だから、私たちについてあんまり疑問を抱かれることはない。一つを除いて、ね」
「一つ?」
「……簡単に言ってしまえば、ロギ族にとって唯一の『神』と言える立ち位置に居る存在が、ヤルダバオトよ。そんな彼らにとっての神を滅ぼすと言い出したら、どうなると思う?」
「……まあ、少なくとも良い関係に持って行くのは不可能でしょうね」
「でしょう? 問題はそこにあるのよ。いかに、『ヤルダバオトを倒すことを気にされないで、ヤルダバオトの居る場所まで向かうか』、そこが問題になってくる」
レオンの話ももっともだった。
確かに、彼らにとっての神を殺すことを、良いと思う訳がない。
だったら、それを言わないで何とかヤルダバオトの居る場所まで連れて行ってもらうことが出来るためには、どうすれば良いか――。
「信仰者であることを、偽れば何とか出来るんじゃ?」
「バカだろ、お前。そんなことで行けたら苦労しねーって」
「ええ、実際に私たちもそれで挑もうとしましたが、直ぐにバレてしまいましたね」
ちっ、前例があったか。
「だとしたら、どうやって向かう? 普通に冒険者として向かった方が無難か?」
「嘘を吐いたら、バレた後のことが面倒ですから、その方が良いと思います」
レオンの言葉に、私たちは頷くことしか出来なかった。
ひとまずは経験者に従うに越したことはない。それはどんな状況においても言えることだ。そう思って私は、私たちは、レオンの提案を受け入れることにするのだった。




