第三章2『白魔導師、レオン登場』
「……傭兵を雇うということか?」
「うん。それならなんとかなるんじゃないかな。何せこの『アビスクエスト』は全国三百万アカウント存在してる。その一割がログインしてるとしても、三十万アカウント。今回の『作戦』に向かった猛者は僅か二十名。三十万アカウントのうちの二十アカウントしかロストしてない」
「ロストしていない、って……。まるで『死んだ』みたいな言い方を」
「死んだみたい、じゃない。現に一人死んだ」
「…………マジ?」
「大マジよ。確認はしてないけど、あの言い方からすればブラフじゃないはず」
白き女王は、確かに言った。脳を焼き切った、と。それが事実であるならば今頃警察による捜査が行われているはずだ。そうなれば、このゲームともおさらばになってしまう訳だが――。
「ま、不味いんじゃねえか? それって、さっさと警察に連絡した方がいいんじゃ……」
「ゴードン。あんた、びびってるの?」
「び、びびってねえし! ちょっと怯えてるだけだし!」
「それを『びびってる』って言うんでしょうが、バカが。……まあ、良い。それで? そこの『傭兵』で白魔導師を見つけることが出来るとでも?」
「それは、探してみないと分からない」
「でしょうね」
「……とにかく、傭兵を探してみましょう」
私は、傭兵カウンターへと向かった。
「いらっしゃいませ! どのようなご用件ですか?」
先程の受付員が挨拶を交わしてくる。私と一悶着あったことなんてまるで無かったかのように言ってくる辺りは流石プロといったところだろうか。
「傭兵を探しているんだけど。具体的には、白魔導師」
「白魔導師ですか。……ちょっと待ってくださいね」
そう言って手元にある帳簿を確認しだす。登録されている傭兵は皆あそこに記載され、ピックアップされるのだ。彼女たちもAIであるから、それぐらいは簡単に出来るといったものである。
そして、ピックアップされた白魔導師のデータが書かれた紙が、私たちに提出される。
「彼女なんて如何でしょうか?」
「レオン……。レベルは124。白魔法は一通り使えるしサバイバル術も持ち合わせてる。元々は剣士だったのか力もそれなりにあるわね。……悪くない。どう思う? あんたたちは」
「俺たちが判断しても良いのかい?」
「もう仲間でしょう、私たちは。だったらあんたたちにも決める権利はある」
「そりゃ、そうかもしれねえけどよ。……うん、まあ、悪くねえんじゃねえの。顔も良い」
「あんた、顔で判断してる訳?」
「顔で判断しなかったら、どこで判断するってんだ?」
「あんたね……」
「彼女を呼んでくれ。今、どこに居る?」
「ええと、彼女なら確かここの二階に居るはずですよ。先程依頼を受け終えて休憩しているはずです」
「成る程。それじゃ、後の交渉はこちらで行う」
紙を受け取って、階段を上っていく。
それを追いかけるように、ゴードンとメディナもついてくる。仲間だから当然なのだけど、あんまりついてこられるのも鬱陶しいったらありゃしない。ま、仲間を判断して貰うんだから別に何人居ても問題無い、か。
二階はカフェテラスになってる。今は誰も居ないのか、のほほんとした雰囲気を放ってる。
そして、カフェテラスの中心に彼女は座っていた。
「……あなたがレオンね?」
「ええ。そうですが……?」
顔を上げ、私の顔を見つめる。茶髪の長い髪が、ふわりと浮かび上がる。
「……あなたに依頼をお願いしたいんだけど」
「それは、依頼という意味ですか? それとも傭兵?」
「後者ね」
「成る程。ちなみにどういう要望で?」
「邪神ヤルダバオトを倒したい」
ぴくり、と彼女の眉が動いた。
「成る程……。それなら、普通のプレイヤーには適いっこありませんね。私ぐらいのレベルが高いプレイヤーじゃないと、簡単に倒すことは出来ないでしょう」
「でしょう? だったら私たちに賛同してくれるかしら」
「けれど、ヤルダバオトとなると話は別ですね」
カフェテラスの椅子から立ち上がり、会計へと向かう彼女。ふわりふわりとした動き方は、どこか眠たそうな風貌を思わせる。
彼女を追いかけて、私は彼女の肩を掴んだ。
「ちょっと待って! ヤルダバオトだったら駄目ってどういうこと!? あなたには、ヤルダバオトと何か因縁があるとでも言うの!?」
「私はそれを言う価値はありません。あなたには関係の無い話です」
すたすたと階段を降りていくレオン。
「……どーする? あんなべっぴんさん、ほっとく訳にもいかないと思うが?」
「今なら追いかけても未だ間に合うわね」
「でも、問題なのは……ヤルダバオトと何か因縁があるということ。それについては、はっきりしておかないと私たちの仲間にはなってくれないかもしれない」
ヤルダバオトと因縁を持つ少女、レオン。
彼女を仲間にするにはどうすれば良いのか――。




