第二章12『白き女王との約束』
「交渉成立、ね」
白き女王は、不敵な笑みを浮かべたままこちらを睨み付けている。
「そうだ。せっかくだから『戦い』を与えてあげる。『アビス・ファースト』には、ある神が封印されているの。知っているかしら?」
「邪神、ヤルダバオトのことか……! 確かヤルダバオトの配下には『使徒』と呼ばれる存在が居ると聞いたことがある……」
「あら、詳しいのね」
白き女王は床に腰掛けて、さらに話を続ける。
「ヤルダバオトは『アビス・ファースト』における隠しボス的な立ち位置に立っているから攻略情報も出ているのかもね。……で、その『ヤルダバオト』の首を持ってきなさい。それが私の出す条件」
「ヤルダバオトの首……だと? バカな! そんなこと出来る訳がない!」
「出来ないとは言わせない。もし出来なかったらここに居る人間は全員死ぬと思いなさい」
「……外道が」
「あら? 【アビスロード】に挑むつもりならそれぐらいは考慮していたのではなくて?」
確かにそうだった、かもしれない。
だが、ここまでは想定外だった。【アビスロード】がここまで圧倒的な戦力差を持っているとは思いもしなかったのだ。
白き女王はさらに話を続ける。
「あなたが嫌なら、それでも良いのよ。ま、確かに『あなたがやるべきこと』かと言われるとまた別の話だけれどね。あなたがやらなくても良いことだけれど、その代わりここに居る……ええと、何十人だろ? それぐらいかが、死ぬ。それでも良いのなら、このまま立ち尽くしているが良いわ」
「……良いわ、やってやろうじゃないの……!」
【アビスロード】にやれと言われたことを、やってやる。
少しだけ、気にくわないけど。
やってやる。やってやろうじゃないの!
「なら、さっさと向かってちょうだい。私、待つのは嫌いだから。そのつもりで」
そう言われた通り、先ずは私は山を下りていくのだった。
◇◇◇
「逃がして良かったのですか?」
「……面白いことじゃない。【アビスロード】としてただ単純に人を導くよりかは、ああやって試練を与えてあげた方が面白いとは思わない?」
「かつての神がやったと言われる行為ですか。まあ、私たちもアビスの神と呼ばれていますからね。その辺りに関しては、理に適っているのかもしれませんが」
「そうでしょう?」
白き女王は、中空に浮かぶモニターに向かって笑みを浮かべる。
「……それにしても、あなたぐらいですよ。まともに【アビスロード】としての行動を取るのは」
「そうなのかしら?」
「あなたぐらいですよ。私なんて、滅多に人の居る場所に出ることはしませんから」
「……それって、あなたがやる気が無いだけじゃなくて?」
「そうでしょうかねえ?」
こうして【アビスロード】同士の会話は終了した。
この後、【アビスロード】とアリスに待ち構えるのは、希望か、それとも絶望か――。
◇◇◇
『アビス・ファースト』の奥地。
一切の他の都市との交流を絶っている集落があった。
集落に住まう老人は、眠っていたところ、目をカッと見開いた。
「神じゃ……」
立ち上がり、外に出る。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉおおおぉぉぉぉぉおぉお…………」
集落の奥地にある、祠の先。
そこから野太い声が聞こえてくる。
「神が、お怒りじゃ……」
その神の名前は、ヤルダバオト。
その集落において神と呼ばれている存在である。




