第二章11『圧倒的戦力差』
そして、あっという間に三日の月日が経過した。
「……ついにこの日がやってきたわね」
私は、震える手をもう一方の手で押さえながら、呟く。
第一陣として魔法使い軍団、その後ろには第二陣として剣士・盾師軍団が待ち構えていた。
そして、その先頭に立っているのは、私だ。
私は【剣聖女】なのでジョブで言えば剣士に入る。だから第二陣に入るべき立ち位置なのだが、今回のリーダーということで先頭に立っている。
ちなみに少年は第二陣に待機している。無茶はするな、と伝えてあるので問題無いはずだが――。
「諸君! 先日述べた通り、あの防御壁は魔法でないと破壊することは出来ない! よって、第一陣は魔法使いジョブを中心とした構成となっている! 続いて第二陣は剣士を中心としたジョブ構成となっている! 先ずは第一陣が防御壁を破壊し、一気にバリアの中になだれ込む! 防御壁さえ破壊すれば、あとは『白き女王』本体を叩くのみだ!」
うおおおおおお、という歓声が響き渡る。
きっとこの声を、白き女王も聞いているのだろう。
「【アビスロード】、『白き女王』を倒せば、一億ダイスもの大金が手に入ると考えられる! 諸君、決して油断してはならない! それだけのお金がかかるということは、それ程の危険度であると言うことを!」
彼らは、半年前の壊滅的な事件を知ってる。
だから、絶対に被害に遭うことはない、はずだ。
「さあ、破壊せよ! 自らの赴くままに行動せよ! 白き女王を討ち滅ぼすぞ!!」
◇◇◇
そして。
一つの衝突が起きた。
◇◇◇
「障壁、破壊完了しました!」
「よし! 行け、行けええええ!」
防御壁にはぽっかりと穴が開いている。
その穴を通って、『白き女王』の居る場所へと一直線に突き進む!
「白き女王……半年前の雪辱、いまこそ果たすとき!」
そして、私たちは防御壁の中へと入っていった。
その刹那。
私の周りに居た人間が突然浮かび上がった。
「な……何だ……これは……?」
「あなたは、レベルカンスト勢の人間ね?」
声が聞こえた。
鈴の音を鳴らしたような、凜とした声だった。
そして、私の目の前に――。
――白いワンピースを身に纏った少女が浮かび上がっていた。
「……あなた、いったい何者……?」
「あら……。知っていると思って、私はここに出現した訳なのだけれど、その様子だと未だ何も分からない様子ね?」
「……まさか、『白き女王』!?」
「半年前の襲撃でも、あなたは確かやってきていたわね。そのときは、あなたを遺して皆死んでしまった訳だけれど。いや、正確に言えば『選ばれなかった』だけなのよね」
「選ばれなかった……だと? 貴様、いったい何を言っている……!」
「私たち【アビスロード】は、新しい世界へ向かう新人類の『方舟』的存在として位置づけられている」
「……新人類? 方舟? お前、いったい何を言っている!」
剣を構える。
しかし、その剣もふわりと浮かび上がると、ぐにゃりと曲げられてしまった。
それは、まるで赤子の手を捻るかの如く。
「き、貴様……! いったい何をしたんだ……!」
「そもそも【アビスロード】にプレイヤーが適う訳がない。適うように出来ていない。そのようにシステムは設計されていない」
歌うように、白き女王は話を続ける。
「世界は徐々に蝕まれつつある。そしてその世界をリセットする役割が、私たち【アビスロード】。あなたたち人類は増えすぎた。そして選ばれた人類はこのサーバの中で永遠に生き続けるの。そう、永遠に」
「……永遠に……?」
「アリス……さん……! そいつの言うことを……聞いちゃいけません……!」
浮かび上がった身体の中に、少年の姿があった。
「少年!」
「あらあら。あなたも懇意にしている人間が居るのね。あの『女』と同じように。あの女も私に詰め寄って、同じように話をしたのだけれど、断った。そんな世界などまっぴら御免だと。でも、あなたならどうかしらね? 【剣聖女】アリス?」
「私は……」
確かに、あの世界に戻りたくないと言ったのは確かだ。
だが、世界を滅ぼす程の考えまでは至っていなかった。
私はただ、永遠にこの世界で暮らせればそれで構わない、と思ってた。ただそれだけだった。
「……この少年は、私が預かりましょう」
ふわり、と少年が白き女王の傍に近づく。
そして少年の腕を白き女王が掴んだ。
「辞めろ! いったい少年に何をするつもりだ……!」
「賭けをしましょう。アリス」
白き女王は話を続ける。
「私は任務を自由自在に発生させることが出来る。だから、私の課した任務を無事達成しなさい。そしたら、彼を帰してあげる。彼だけじゃない。今回、この出来事に関わった全ての人間を帰してあげましょう。どう? やってみる価値はあると思うけれど」
「巫山戯るな! そんなことすると思って……」
ぷち。
何かが弾ける音がした。
音のする方角を見ると、人間の首が吹っ飛んで無くなっているように見える。
あれは、紛れもなく【ゲームオーバー】だ。いや、それとも……。
「はい。先ずは一人☆ あ、言っておくけれど、私がゲームオーバーなんて生ぬるいことをさせるとでも思っているのかしら? HD001型ヘッドマウントディスプレイには電流を流すことが出来るプログラムが搭載されている。正確には、『装備者の安全を確保用に健康状態を把握するための微弱電流を流す装置』なのだけれど、それを悪用させて一気に脳を焼き切らせて貰っちゃいました☆ つまり、今ので一人死亡って訳」
「巫山戯てる……!」
私は舌打ちをしながら、そう言った。
「さあ、どうする? 選択肢は二つに一つ。もしあなたがここで断るのならば、彼らの命は保証しません。全員この場で退場して貰います。け・れ・ど! あなたが依頼を無事にクリアしてきてくれるなら! 彼らを助けてあげようじゃありませんか。さあ、どうします? 答えは、もう決まり切っている事だと思うけれど」
巫山戯るな。
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな!!
私は歯ぎしりをして、彼女を睨み付けた。
今の私には、それだけが精一杯だった。




