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レベルカンストの彼女とレベル1の僕  作者: 巫 夏希
第二章 その『白』の【アビスロード】は歌う
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第二章9『決戦準備(前編)』

「という訳で、決戦は三日後! 各位、準備に取りかかるように! 解散!」

「応!」


 そういう訳で。

 作戦会議はあっという間に終了した。作戦会議と言ってもその内容はプレゼンテーションの発表に近く、作戦を発表した後に、コメントを受けてそのコメントが良いものならば修正を行う、といった形で進められた。結果的には作戦が完璧だったのか、私のプレゼンテーション能力が高かったのか、特に修正を求める意見は無かったのだが。


「それにしても、あっさり終わって良かったですね、作戦会議」

「あ、ああ」


 少年の言葉に、私は慌てて答える。

 確かに、作戦会議が問題無く終わってくれて良かった。

 けど、あの作戦は『師匠』が半年前に実行しようとして、結果失敗してしまった作戦だ。

 いざ、それを実行しようとしたところでほんとうにそれが成功するのだろうか?

 私はそんなことを考えてしまうのだ。

 しかしながら、今は戦力も違う。私は無事レベルカンスト勢に登り詰めたし、今回の戦力を平均すると前回よりも格段に上がっている(ただしレベル1の少年は除く)。

 ほんとうは少年を参加させるべきではない、と考えていた。しかしながら、少年は、参加したいと言ってきた。参加してみたいと言ってきたのだ。参加することは別に悪いことではない。【ゲームオーバー】が現実の死に繋がる訳では無いし(何十分かのログイン不可のペナルティこそあれど)、【アビスロード】との戦闘が経験に繋がることも少なくないからだ。

 しかしながら、少年はレベル1だ。レベル1なのだ。問題はそこにある。レベルがあまりに低すぎるのだ。幾ら武器や防具を揃えても【重量】オーバーしてしまうし、そもそもすっぴんジョブだから戦闘力も微々たる物だ。そして、きっとそれは他の人間も思っていることであろう。

 はっきり言って、戦闘において無駄な戦力である。

 それは分かってる。分かってるのだが……。


「アリスさん……アリスさん……」


 分かってるんだ。分かってるんだが……。


「アリスさん!」

「わわっ! どうした、急に」


 耳元で叫ばれて、思わずキーンと耳鳴りがしてしまった。

 見ると、少年が横に立ってぷんぷんと頬を膨らませている。怒っているみたいだ。

 いったい何をしてしまった、というのだろうか?


「ずーっと話をしていたのに、アリスさん、考え事していたのか全然話聞いてくれていないんですもん。だから、耳元でわーっと叫んだら流石に分かってくれるかな、って」

「そりゃ、分かるだろ。耳元で叫ばれたら……。で、少年? ほんとうに参加するつもりか。【アビスロード】との戦闘に。はっきり言って私は難しいと思うのだが、」

「いいや、参加します! 参加させてください!」

「ほんとうに? ほんとうに参加したいのか?」

「ええ! 寧ろどうして参加させてくれないんですか?」

「それは少年のレベルが……」

「やっぱり、レベル1は参加させてはくれないですか」


 少年はしょんぼりとした様子で、私の隣を歩いていた。

 悪いことをした、とは思っていない。

 少年の為を思って言っているだけに過ぎない。それは、確かなのだから。


「……でも、後方支援なら、許可しても良いだろう」


 何故、あの頃の私はそんなことを口にしてしまったのだろうか。


「ほんとうに!? ほんとうに、ほんとうですか!!」


 少年のキラキラと輝いた目を見ることが出来ない。直視することが出来ない。

 恥ずかしいから? どうしようもないから? 申し訳ないから?

 一番の理由は、知り合いだからという理由で低レベルの人間を招き入れたことだと思う。

 私にとって、少年の笑顔は何故だかどうしようもなく耐えられない何かがある。【アビスロード】以上の何かが……。


「あのー、どうかしましたか?」

「うん!? い、いや、何でも無いぞ。うん。そうだ! 早速だが、装備を調えなくてはならないな! 私の装備も調えなくてはならないが、少年の装備も」

「え? でも僕はこの前のゴブリン退治で新調したばかりですし……。良いですよ、この装備で」

「そうか? なら、構わないが。……ああ、後は『魔法文』の仕入れもしておく必要があるかな」

「魔法文?」

「名前の通り、魔法を文章にしたためておいたものだ。いろいろ強力な魔法を封印しているからな。それを用意しておくに超したことはないだろう」

「そんな物が……。でも、何に使うんですか?」

「良いんだよ、こういうのは準備しておくだけで良いんだ」


 そう言って、魔法屋に入る私たち。

 魔法屋には黒いとんがり帽子を被った老齢の女性がカウンター越しに座っていた。


「ふぇっふぇっふぇ。何かご用かね」

「魔法文を見せて貰いたい。できる限り、大量に」

「ふぇっふぇっふぇ。何か大きな争いでも起きるのかね。先程も魔法の会得にたくさんの魔法使いがやってきて大儲かりさ。ふぇっふぇっふぇ……。で、魔法文だったかね。ちょいと待ちなさいな」


 そう言ってゆっくりと立ち上がる老齢の女性。

 そして老齢の女性は奥にある棚からいくつか巻物を取り出した。


「『ウォーター』『ファイア』『サンダー』の三つが一本ずつしかないがね。ふぇっふぇっふぇ。どうなさる?」

「それなら、三つとも頂こう。幾らだ?」

「三つならまとめて五万ダイスでどうかね。ふぇっふぇっふぇ」

「構わん。これでどうだ」


 一枚の金貨を取り出して、それを老齢の女性に手渡す。

 老齢の女性は金貨をまじまじと見つめた後、カウンターから五枚の銀貨を差し出した。


「ありがとうよ、ふぇっふぇっふぇ」


 魔法文を三つ受け取ると、私たちは魔法屋を後にした。


「少し少ない気がするが……。まあ、なんとかなるだろう。後は、魔法使いが何とかしてくれるはずだ。魔法使いがさっき魔法を会得しに来たと言っていたな?」

「ええ、そうでしたね……」

「ということは、魔法を会得しているはずだ。どんな魔法かは定かではないが、使える魔法は多ければ多いほど良い。だから会得している数が多ければ多いほど、余裕に繋がるんだ」

「そうなんですね……」

「よし! あとは武器を見に行くぞ!」


 そう言って、私たちはストリートを歩いて行くのだった。

 


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