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レベルカンストの彼女とレベル1の僕  作者: 巫 夏希
第二章 その『白』の【アビスロード】は歌う
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第二章8『白き女王と鬼の女王』

「……長い話となってしまったな」


 私はすっかり話をしてしまった。ほんとうはここまで話すつもりなんてなかったのに、気づけばたくさんのことを話してしまったような気がする。師匠と弟子以上の関係性があったのではないかなんてことも思われても仕方ないと思ってる。けど、私はあくまで師匠との関係性は師匠と弟子の関係性に留まっており、それ以上のことはないとはっきりと言いたかった。

 私はそんな話をするつもりは無かった。できる事ならあっさりと済ませてしまいたかったし、師匠との思い出を(ないがし)ろにするつもりも無かった。

 でも、私の話を聞いた作戦会議に参加してくれた皆は、小さく溜息を吐くだけだった。


(……ひょっとして、不味いことを口にしてしまったか?)


 私はそう思ってしまったが、私より先に口を開いたのは以外にも少年だった。


「はい! それじゃ、気持ちを切り替えて作戦会議に移りましょう! 皆さん、良いですね?」

「ああ!」


 作戦会議に参加している人たちは、一斉に声を上げた。

 何だ? いったい何が起きようとしている?


「話してくれてありがとうございます、アリスさん」


 少年は私に告げる。


「アリスさんが居ないと、今回の【アビスロード】討伐戦は適わないと思います。ですから、僕たちに協力してください。もしあなたが駄目だと言うならば、それは仕方無いです。一緒についてきている僕も、諦めます。けれど、もしあなたが参加するというのなら、僕も精一杯頑張ります」

「少年……」

「おい、【剣聖女】! 俺たちはどうすれば良いんだ!?」


 言ったのは、緑髪の青年だった。


「俺の名前はゴードン……。まあ、覚えておくか覚えておかないかはあんたに任せるぜ」



 ――そのほかにも、様々な人間が私のために――いいや、正確には、『アビス・ファースト』のために動いてくれる。



 半年前のあのときと、同じ状況が生まれようとしている。

 けど、今度は違う!

 絶対に、【アビスロード】『白き女王』を倒すんだ!


「それじゃ、作戦会議を再開する!」


 かくして、作戦会議は再開された。

 作戦は、半年前に『師匠』が行おうとして失敗したあの作戦。

 今度こそ、絶対に失敗させない。そう心に誓うのだった。



 ◇◇◇



「ふんふふーん」


 鼻歌を歌いながら、白き女王は『アビス・ファースト』の様子を目視していた。

 『アビス・ファースト』は住みやすさで言えば一番の島である。気候も穏やかで、特にこれといった災害も起きないように『設定』されている。

 【アビスロード】はAIである。無論、ただのAIではない。人間に倒すことが難しくなっているように設定されているだけではなく、【アビスロード】自体が成長出来るような仕組みも出来ている。

 【アビスロード】は成長するAIだ。それでいて最強のAIであるという認識が開発サイドで成されている。開発サイドとしては、【アビスロード】に搭載されているAIはAbyssLordProgram_Ver1.11というAIで構成されており、AbyssLordProgram_Ver1.11は常に進化し続けるプログラムとして完成されている。

 AbyssLordProgram_Ver1.11は既にVer2.0へのバージョンアップが予定されており、その場合は、ユーザー向けではなく【アビスロード】向けに強化が成される。それはユーザーのことを見捨てている訳では無く、【アビスロード】をより強いプログラムへと進化させるための重要なプロセスであることを、開発サイドは理解していた。

 【アビスロード】は、全世界にとって救済のプログラムである。

 それはどういうことかといえば、【アビスロード】自体が人間の意思を代行するプログラムとして最終的に監修することが出来るようにプログラムされているためである。

 どういうことか?

 答えは至ってシンプルだ。【アビスロード】自体はただのプロセスに過ぎない。

 【アビスロード】は、人口が増大し続ける世界を管理するために用意されたプログラムである。

 開発サイド――テクノポップ社は、元々軍事用のプログラムを秘密裏に開発していた会社であり、VRMMORPG事業に参入したのは、この『アビスクエスト』が初めてであった。

 VRMMORPG界隈にとってテクノポップ社はただの一企業であり、軍事用プログラムを開発しているなど誰も思いやしなかった。

 そして、【アビスロード】。

 ユーザーにとってはただのレイドモンスターに過ぎないが、【アビスロード】にとってはここに搭乗するユーザーは確固たる敵であるという認識が持たれている。

 とどのつまり、白き女王にとって。


「ふふふふふふふふふ!! さあ、打ち震えるがいい! 震えて眠るが良い! 私は待って居るぞ、人間!!」


 白き女王にとって、ユーザーとの戦いは『戦争』そのものだ。

 白き女王にとって、ユーザーとの戦いは、意味のある行動だ。


「今度はどんな人間がやってくるのか、楽しみで楽しみで仕方が無い……。ああ、早く来てくれないか、人間よ!!」

「まーた、勘違いしてやがりますね? この『白き女王』は」


 唐突に。

 中空にウインドウが表示された。

 そしてその向こうには――鬼が居た。


「あなた、いったいどういうつもりでやってきたの?」

「そりゃー、こっちの台詞ですよ。あんた、人間との戦いをただの『戦争』と勘違いしてやがるようですがね? あんまり人間をいじめ過ぎると、『アビスクエスト』自体にユーザーがやってこなくなって、そもそも本末転倒になりやがりますからね? それぐらい理解しやがれって話ですよ」


 乱暴な口調で鬼の娘の話は続けられる。

 白き女王はそれを聞いて、ふんふんと鼻歌を歌いながら、


「だって、楽しみなんですもの。『鬼の女王』。私はね、人間と戦うのがほんとうに楽しみで仕方が無い。それはAIに組み込まれた思想であり、私の意思では変えられようがないプログラムの一つなのですから」

「それはそうかもしれねーですけれど」


 鬼の女王は溜息を吐きながら、煙管を咥える。


「でも、あんまり人間をいじめねーでくださいよ? こっちが出てくる機会が失われるんですから。それに、人間を甘く見ない方が身のためだと思いますけれど」

「ふふふふふふふふふ。私が? 人間を? 甘く見ているですって? それは愚問と言うことこの上ないですよ。そんなこと、有り得ないではないですか。そんなこと、信じられないではないですか。私は、白き女王。【アビスロード】のうちの一柱(いつちゆう)、その私が簡単にやられる訳がありません!」

「だったらいいんですけれど。じゃ、後はよろしく頼みまさあ。くれぐれも、私たちに迷惑をかけないように」

「あなたこそ、私に迷惑をかけないようにしてくれますこと? 『鬼の女王』?」

「へいへい」


 そうして、ウインドウは閉じた。

 戦いの日は近い。

 人間が勝つか、【アビスロード】が勝つか。それは神のみぞ知る、というところだろう。



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