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レベルカンストの彼女とレベル1の僕  作者: 巫 夏希
第二章 その『白』の【アビスロード】は歌う
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第二章5『白き女王との過去(2)』

「これより、【アビスロード】『白き女王』討伐に向けての作戦会議を行う。僭越ながら、私がリーダーを務めさせて貰う。よろしくお願いするよ」


 そう言ったのは、師匠だった。

 師匠はいつもこういうところでリーダーシップを発揮する。レベルカンスト勢だからかもしれないけれど、私にとってはそういうところも憧れの一つでもあった。


「【魔導師】マーリン様、だったかよ?」


 突然、彼女の言葉に割って入ったのは、一人の若者だった。

 ツーブロックにした髪型はどこか若者というよりかは昭和の若者を思わせる。ひげ面の男は年齢よりも老けて見えるが、話し方からして年齢は私とそう変わらないだろうと思い込んでいた。


「どうなさったかな。ええと、」

「シンイチや、覚えとけ」

「シンイチ、さん。どうなさったかな。何か私の作戦に問題でも」

「大ありだ! レベルでリーダーを決めたのかもしれねえけれど、そもそもそれがむかつくんだよ。チーターじゃねえか、あんた。ベータテスト時から居たということは、【アビスロード】の対処法だって分かっているんだろう? 俺たちをせせら笑うために、わざわざ集めておいて! こうやって作戦会議と言っておきながら、おおっぴらに作戦を発表することで自分の株を上げようと、」

「一応言っておくが、シンイチさん、【アビスロード】は正式版になってから追加されたコンテンツであることは周知の事実のはずだが?」

「なっ……!」


 そう。

【アビスロード】はたかだか一年前にサービスインした『アビスクエスト』の正式版から追加された要素(コンテンツ)の一つであり、それぐらいは大抵のユーザーなら知っているはずのことだった。

 しかし、あのシンイチというのは、私の師匠をどうにか下に見たかったのだろう。【アビスロード】がベータテスト時から出ているとデマを流していたのだ。


「……質問は以上かね。であれば、作戦会議を続行する。今、居るメンバーは合計して二十名だ。ちなみに『白き女王』の討伐報酬は全体で一億ダイス。君たち全員で分ければ、ざっと五十万ダイスが手に入ることになるであろう。これは、アビスクエストの中でもかなり大きな報酬だと考えている。君たちも、心してかかって欲しい」

「「おう」」


 オンラインカウンター上に、大きなかけ声が上がった。


「さて、作戦だが……『白き女王』は防御壁を持っているがそれ以外はただの素肌だ。とどのつまり、防御壁を破壊すること。これが一番のポイントであると言えるだろう」

「防御壁なんて、そんな簡単に壊せるのかよ?」


 言ったのはシンイチと別の冒険者だった。

 ちなみにシンイチはもうこれ以上言えなくなってしまったのか、すっかりしょんぼりとしている。まあ、悪いのは自分なので、誰も慰める人は居ないのだが。


「防御壁は魔法に弱いというデータがある。これは過去数回『白き女王』に挑んだ人間から得られたデータだ」


 おおっ、というどよめきが群衆から上がる。


「つまり、防御壁の破壊を魔法使いジョブである私が中心となって行う。同時に、魔法障壁の展開も魔法使いジョブが兼任して行うこととなる。よって、魔法使いジョブにこの作戦の肝を持って貰うことになるが……問題無いか?」


 こくり、と頷く魔法使いの面々。

 さらに、話は続く。


「防御壁を破壊したら、剣士ジョブと盾師ジョブの諸君は、中心に居る『白き女王』めがけて攻撃を開始して貰う。白き女王のデータは残念ながら持ち合わせていないのだが、物理攻撃にも魔法攻撃にも耐性を持つ【アビスロード】は今まで聞いたことがない! よって、第一陣は物理攻撃を中心に行う」

「それで駄目な場合は?」


 剣士の一人が手を上げながら、そう言った。


「その場合は第二陣として、魔法使いジョブの面々が向かうことになるだろう。防御壁さえ破壊してしまえばこっちのものだ。後はこちらの思う壺になるはず」

「それならば、可能か?」

「それならば、倒すことが出来るのか?」

「俺たちにも、俺たちにも、【アビスロード】を倒すことが出来るって言うのか!?」


 群衆の言葉に、何度も何度も頷く師匠。


「ああ、この作戦に隙は無い。完璧な作戦だ。絶対に『白き女王』を倒すことが出来るだろう」


 その言葉に、オンラインカウンターは歓声に包まれるのだった。



  ◇◇◇



「作戦会議、お疲れ様でした」


 私はホットミルクを一つ師匠に手渡しながら、そう言った。


「……アリス、か。私は完璧にこなせた、か?」

「ええ。見た限りは完璧な作戦会議でしたよ。会議、というよりかは作戦発表と言った方が正しいかもしれませんけれど」

「作戦発表か、言い得て妙だな」


 ホットミルクを一口啜りながら、彼女は言った。


「先程の作戦会議に照らし合わせると、私は第一陣として『白き女王』に挑むということですよね?」

「ああ、そういうことになるな」

「……私たちに【アビスロード】が倒せるんでしょうか」

「何だ、お前にしては珍しく弱気だな」


 ホットミルクの入ったマグカップをテーブルに置くと、わしゃわしゃと私の髪をもみほぐしだした。

 


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