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レベルカンストの彼女とレベル1の僕  作者: 巫 夏希
第二章 その『白』の【アビスロード】は歌う
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第二章2『白き女王と最弱の少年』

 レベルカンスト勢ですら【ゲームオーバー】してしまう。

 その言葉の意味を理解できなかった訳ではない。理解しなかった訳ではない。

 ただ、レベルカンスト勢ですら【ゲームオーバー】になってしまう存在に、立ち向かうことが出来るか? という話だ。

 答えは否。出来る訳がない。出来るはずがない。


「……お、俺、用事を思い出したわ」

「あ、ずるいぞ、お前だけ! ……という訳でやっぱりパス! レベルカンスト勢でも【ゲームオーバー】しちまうレベルなんて倒せっこないよな!」


 とまあ。

 そんな言い訳を遺していきながら、いろいろなユーザーは去って行った。

 残ったのは……大体十人ぐらいか。倒せる自信があるのか、ほんとうにバカなのか。そのいずれかだと思う。


「アリスさん……『白き女王』なんてほんとうに倒せるんですか……?」

「倒せるならあんな高説垂れる訳がないだろう。無理だ、はっきり言って」

「ええ……。じゃあ、どうして残ったんですか?」

「倒すことは出来なくても、追い出すことぐらいは出来る。そう思ったまでだ。追い出せばそれなりの報酬は貰える。倒すほどの額じゃなかったとしてもな」

「おお、なんと心強いお言葉! 儂は感動しましたぞい!」


 おおっと、何か突然出てきたぞこのじいさん。最初から居たっけ?


「儂の自己紹介が遅れましたな。儂は【大賢者】マーリン。普段はこのような場所に足を踏み入れることすら有り得なかったのですが、」

「やはり、気になりますか。『白き女王』が」

「ええ! 気になりますとも! どんな魔法をもはじき返してしまうという『盾』を持つ彼女はその盾自体を武器として取り扱う……。アビスクエストに居るものとしては一度見ておきたい【アビスロード】の一人ですな」

「会っておきたい【アビスロード】のうちの一人、ですか。【アビスロード】との戦闘はそう簡単なものではありませんよ?」

「分かっている。分かっているからこそ、そなたも残ったのでは無いか?」

「え?」

「『白き女王』は確かに強い。私もかつて白き女王と戦った存在ゆえ、その強さはひしひしと伝わってきているのです。若い者達に【ゲームオーバー】となってすべてを失って欲しくない。あなたはそう思って、わざとあえてあのような発言をしたのではありませんか?」

「白き女王に適う存在なんて居るはずが無い。だから私はああ警告したまでに過ぎないのよ」

「……あなたも、白き女王と戦ったことがあるのではないですか?」


 マーリンの問いに、何も言えなくなる。

 そうだ。私は間違いなく数年前に、白き女王に挑んだ。

 そして多くの犠牲を得た。

 その結果、死んでしまったプレイヤーも居た。


「……私は、それをもう繰り返したくないんだよ。白き女王による残虐な行為を認めたとは言わない。認められるか、認められる訳があるものか! 『白き女王』によってレベルカンスト勢の大半は死んでいった、と言われているレベルだ。それに、レベルカンストもしていないユーザーが多数挑んだとしても、白き女王には敵うはずが無い」

「あっ、ちょっと待ってください。倒すことは出来なくても、追い出すことは出来るんですよね?」

「不可能ではない。可能かどうかはやってみなければ分からないだろう」

「だったら、やってみる価値はありますよね?」


 何を言っているのだ、この少年は。

 あれほど白き女王について述べたにもかかわらず、まだ立ち向かおうとする。

 その意思だけは受け取らなくてはいけないのかもしれない。

 だが、受け取ったところでそれが勝敗に関わるかと言われると話はまた別だ。


「……少年はほんとうに、面白い存在だな」

「まったくじゃ。【アビスロード】を目の当たりにして、何も反応しない。いや、それどころかやる気が出るなど聞いたことがありません。しかも……レベル1だと? 普通なら笑われてお終いのところでしょうな」


 マーリンの言葉も尤もだった。

【アビスロード】の話を聞いて驚く冒険者こそいれど、やる気の出る冒険者は今まで見たことが無かった。

【アビスロード】はそれ程に最強と言われるべき存在なのだ。ユーザーが万とかかっても倒すのがようやっとと言われるぐらいの実力差がある。


「少年、ほんとうに【アビスロード】を倒そうという意思があるのか?」

「ううん、倒せるかどうか分からないけれど、倒さないと、『アビス・ファースト』に住んでいるNPCの皆さんが困っちゃうでしょう? だったら、急いで倒すか追い出すかしないと!」

[……少年、NPCの意味が分かるか?]

「知っているよ、中に誰も入っていません、だよね?」


 分かっているなら宜しい。


「ならば、どうしてそういう結論にたどり着いたのか説明して貰えるかな?」

「ええっと、だからこの島に住んでいるNPCさんが困ってしまうから……」

「少年。NPCは『ノンプレイヤーキャラクター』だ。だから、困ろうが何をしようが、プログラム通りに動く。モンスターと同じだよ。これをゲームじゃない別の異世界と勘違いしちゃいないだろうな?」

「勘違いしている訳じゃないよ!」


 ならば、良し。

 問題はそれからだ。


「少年は【アビスロード】を追い出せば良い、と言った。それには勝機があるのか? ……ああ、もっと簡単に言えば、勝ち目はあるのか?」

「あるよ。だってこっちには【剣聖女】のアリスさんが居るんだもん!」


 ……結局、私が居なきゃ何も出来ないということか。

 私はそんなことを考えながら深く溜息を吐いた。

 


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