青いレールをながめてみよう
ヒューマンドラマでいいのか、これは?
ジャアー。
円くしかれたレールの上を、すべるように走る電車たち。
ジャアー。
右に左にいったりきたり。
ジャアー。
畳に敷かれたレールの上を、いってもどってくりかえす。
「ねえ、おかあさん?」
そんな様子をみていた小さな男の子が、うとうとしているおかあさんに声を掛けました。眠たそうに「ん?」と答えて、顔だけ向けるおかあさん。
「電車たち、あきないのかな?」
男の子の前のレールの上では、同じ動きをし続ける三両編成の電車たち。おかあさんは、子供の質問にそうねぇと考えるように言いながら答えを探しています。
「電車たちはね、それが嬉しいのよ」
おかあさんの答えに、どうして? と首をかしげる男の子。
「電車には、たくさん人が乗るでしょ?」
「うん」
「その人たちを行きたいところまで、あぶなくないように守りながら運んで。乗ってる人たちは降りる時になにも言わないけど、ほんとはとってもありがとうって思ってるのよ。だから、毎日毎日同じことしかできない自分たちだけど、それでたくさんの人がありがとうしてくれるから、電車たちは飽きたりしないの」
おかあさんの言うことを真剣に聞いた男の子は、自分がわかる言葉だけを呑み込んでパッと笑顔になりました。
「電車って、すごいんだねっ! ヒーローみたいだ!」
そんな男の子の笑顔を見て、おかあさんもにっこり笑って。
「みたい、じゃないわ。電車はヒーローよ。怪人をやっつけたりはできないけど、わたしたちにとっては立派なヒーロー」
そう言いました。男の子は何回もうなずいてから、改めて電車たちが走る青いレールを見ました。
「がんばれー!」
男の子の前を横切る電車たちに、まるで遊園地のヒーローショーでも見ているみたいに応援する男の子に、おかあさんはまた微笑みます。
男の子には、今青いレールをいったりきたりする三両の電車が、誇らしく駆け抜けているように見えています。疲れたようにダラダラ走ってるようにしか見えていなかったことなんて、もう記憶のどこにもありません。
「おかあさんっ」
元気いっぱいに呼びかける男の子に、おかあさんはなぁにと優しく返します。
「ぼく。大きくなったら電車になるっ」
力強く、それこそ今目の前をまた横切った電車たちのように言った男の子に、お母さんはきょとんとした顔をしてしまいました。
無理もありません。
運転手さんでも車掌さんでも駅員さんでもありません。電車になる、そう言ったのです。
「え、ええっと。電車になりたいの?」
聞こえた言葉が信じられない。そういう声でそっと聞き返すと、男の子はうんと大きくうなずきます。
「みんなを守るヒーローになるんだっ!」
変身ヒーローの決めポーズをバッチリかっこよく決めて、男の子は大きな声で言いました。あっと口元を手で押さえたおかあさんは、一つうなずきます。
「そっか。がんばってね」
そんな男の子に、おかあさんは最高の笑顔で応援するのでした。
ジャアー。
円くしかれたレールの上を、すべるように走る電車たち。
ジャアー。
右に左にいったりきたり。
ジャアー。
畳に敷かれたレールの上を、いってもどってくりかえす。
ジャアー。
誇りをもって走り続ける、ヒーローたちの行進は。
ジャアー。
たとえ短い切り返しでも、脱線しない英雄の路。
おしまい。
なーんか既視感感じるんですよね、これ。こんな話 こんな言い回し、ずいぶんと前に読んだような記憶が……。
後このタイトル、実は掛詞だったりします。はたして、なにがかかってるんでしょう?
気付いた人、いるでしょうか?