表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマイスタ~黒い剣と竜の少女~  作者: 七瀬楓
第1章『ドラゴンと伝説の勇者』
3/11

第3話『超大容量魔法』

「うぉー! 地面が空浮いてるー!」


 学校を出て、遊乃が自分の住む学生寮に向かっている最中、リュウコが街の端にやってきた辺りで、突然叫び始めたのだ。


 ここ、都市船クラパスは、当然空に浮いている。コーヒーテーブルの様に丸い大きな船の上に、街が乗っている様な見た目をしているのだが、当然街の端にやってくれば、海沿いの街で海が見えるように、空が見えるというわけだ。


 都市船によって文化などはまちまちだが、ここはかつての勇者であるトランフル・モダンが開いた都市船だけあって、かなり高度な文化レベルを保っている。建物は基本的に石造りだが、しかし電気やガスも通っていてインフラ整備はばっちりだ。


 空と地上を眺めながら歩ける遊歩道に興奮したのか、リュウコは再びぴょんぴょんと跳ねながら、遊乃よりも先を歩いて行く。


「こらっ。道を知らんのだから、俺より先に行くんじゃない」


 小走りでリュウコの首根っこを掴み、その動きを止める遊乃。


「はーい。へへっ」


 嬉しそうに笑うリュウコを、気味悪そうに見ながら、遊乃は気になっていた事を聞いてみた。


「お前、本当に記憶が無いのか?」

「え? うん、そだよ?」

「ドラゴン?」

「っぽい」


 なんで自信がなくなってるんだ、と思った遊乃だが、実際今更疑い様がないので、言わなかった。見た目はドラゴンとは違う物の、彼女は確かにドラゴンの力が使える。それは確かなのだ。なら、ドラゴンで構わないだろう。


 そんな他愛の無い話をしながら、遊乃達は学生寮へと到着した。


 学校から歩いて二〇分ほどの位置に、学生寮はあった。女子の学生寮は別の場所にあり、ここは男子の学生寮。白い外壁に赤い瓦の屋根。三階建てで、妙に横長の建物だ。


「……しかし、いいんだろうか」

「何が?」


 観音開きの扉の前までやってきて、遊乃は眉をしかめる。


「いや、お前、女だよな?」


 遊乃はリュウコの胸をじっと見つめながら訊いてみた。彼の目に間違いがなければ、ほのかに膨らんでいる。外見年齢から察すれば、相当発育はいい方だ。


「えと……」


 男か女かどう判断すればいいのかわかっていないのか、リュウコは俯いてしまう。


「股間にちんこがぶら下がっているかと訊いているんだ」

「……」リュウコは、自分の股間をぱんぱんと叩いて確認してから、「ないよ!」と元気よく手を挙げた。


「そうか。じゃあお前は女だな」

「おとーさんは?」

「俺様は男だ。立派な物がぶら下がっている」

「へぇー!」


 なんでそんな差異があるのか、リュウコは必死に考えているのか、頭を抱えていた。だが、遊乃は遊乃で、違う事に悩んでいた。


(一応、ちびっ子とはいえ、こいつは女だからな……。男子寮に入れても問題ないんだろうか)


 しかし、今から女子寮に行って琴音にリュウコを預けるのもめんどくさい。

 というよりも、それはリュウコが嫌がるだろう。


「ま、いっか! おら、リュウコ行くぞ」

「はーい」


 悩みを吹っ切り(開き直り)、遊乃は男子寮へと足を踏み入れた。

 男子寮に入ってまず二人の目に飛び込んできたのは、広いエントランスホールだ。フローリングの床、室内の端にはいくつかのソファーと、一つ大きなテレビが並んでおり、そこでは数人の男子生徒が談笑していた。


 遊乃はそれを無視して、自分の部屋がある二階に向かおうとするのだが、「おい、無視する事はないんじゃないか?」と声をかけられた。その正体は、神宮寺翼だった。肩越しに遊乃を見て、軽く手を振っている。


「なんだ神宮寺。何か用か」そう素っ気なく答える。普通であれば、翼は少しくらいムッとしてもいいのだが、彼は既に遊乃がどういう人間か知っている。なので、それを笑って流すと、「はは、そういうのよ。友達じゃないか」と言ってのけた。


「いつ友達になった、お前はいいとこ家臣だ」

「はっはっは! 相変わらず、お前は言う事がデカくて面白い」


 翼と遊乃は、入学式のすぐ後に初対面をした。翼は友人も多く、その流れで遊乃とも会話した。


『風祭、お前、どうして討伐騎士になりたいんだ? 俺は戦いで人生を染める為だ』


 自分の夢を自信満々に語った彼は、そう胸を張った。だが、遊乃も負けじと胸を張り、


『俺様の夢は、世界制覇だ。この世界で俺様が見た事無い物なんて無いほど世界を周り、そしてこの世で最も自由になる』


 翼は、遊乃のそんな夢を聞いて、笑った。

 遊乃からは『何がおかしい! 殺すぞ!』と怒られたが、その笑いは決して馬鹿にした笑いではなかった。大きく、ともすれば無茶な夢だったが、翼は遊乃ならやりかねないと、そう思った。

 それ以来二人は、翼の一方的な考えではあるとはいえ、友達だった。


「それで? その、後ろの女の子は誰だ?」


 翼の声に、今まで会話に入ってこなかった数人の男子生徒が、「お、ほんとだ」や「結構可愛いなー」など、「お前、この子どう見てもロリだろ」と勝手なリアクションをしていた。


「こいつはリュウコ。俺様のパーティに加わる」

「おとーさんの娘でーす」


 丁寧に頭を下げるリュウコ。だが、その言葉に、ソファに腰を下ろしていた男子生徒達は、「はぁ!?」と腰を浮かせて、リュウコを見る。


「あ、あのなぁ。娘じゃねえって何度言えば気が済むんだ!」

「見た目は一〇歳程度、風祭が小学生位の時に生まれた子供って事になるな」


 そう冷静に考察する翼に、「貴様は俺の事を何だと思ってるんだ!」と遊乃は怒鳴った。


「冗談だ。いくらお前でも、小学生でそれはないよな」

「さすがに風祭でもなー」「そうそう、さすがにな」


 翼と、その友人達の納得は得られたが、納得へ向かった思考回路が著しく自分を誤解している様な感じがして、遊乃は少し不愉快になった。


「貴様ら……。今ここでぶっ殺して……」

「それで? 本当はその子、何者なんだ?」

「ダンジョンの中で拾った、自称俺の娘で、自称ドラゴンだ」

「……全部自称じゃないか。しかし、娘? ――風祭、お前本当に」

「俺様は子供を持つ気は無い。こいつは毒素の吸いすぎで体が突然変異した頭のおかしい女、くらいに思っておいてくれ」

「おかしー!」


 と、リュウコは意味もわかっていないのにバンザイして飛び跳ねる。


「まあ、そういうわけだ。幼女とは言え、一応俺の所有物。無いとは思うが、手を出したら殺すぞ」


 遊乃は思い切りその場に居る男子生徒達を睨みつける。まるで三日間飯にありつけていない狂犬の様な目付きに、全員乾いた笑みを浮かべるしかなかった。


 そんな彼に別れを告げ、二人は階段を上り、二階の一番奥にある遊乃の部屋へとやってきた。


 八畳一間のトイレ風呂付き、しかし、部屋にあるのはベットと一度も使われていない勉強机にテレビ、そしてガラクタが並べられた棚だけ。遊乃は、冒険の先で拾ってきた何に使うかわからないガラクタをコレクションするのが好きなのだ。


「ここがおとーさんの部屋?」

「ああ」

「狭い……」

「ほっとけ。学生寮なんてこんなもんだ」


 遊乃は、そう言って学ランを椅子にかけると、ベットに寝転がった。


「貴様も好きな所でくつろげ」


 そう言って大きなあくび。リュウコは、迷わず遊乃の隣に寝転がって、遊乃の脇に額をつける。遊乃が文句を言う前に、寝息を立てていた。


「……疲れていたのか。まあ、あれだけはしゃげば当然だな」


 しかし、本当になんか、娘みたいだ。

 遊乃は一瞬だけそう考えるも、すぐに舌打ちしてその考えを遠くに追いやる。

 さすがに彼も、中間試験終わりでは疲れが溜まっていたらしい。リュウコに釣られて、すぐに意識を落としてしまった。



  ■



 翌日。

 この日は、龍堂学園に入学した生徒達に取って、待ちに待った日だ。

 何故なら、今日から一年生も魔法を覚える事が許可されるから。


 魔法は大変危険な物で、討伐騎士としてそれなりに経験を積み、知識を得てからではないと覚えてはいけないのだ。


 そんな説明を担任教師にされた、放課後の教室。遊乃、そして琴音とリュウコは、遊乃の席に集まっていた。


「や、やっと私も魔法銃師マジックガンナーとして、真骨頂を……」


 キラキラと目を輝かせる琴音。リュウコは、そんな彼女が不思議なのか、ジッと琴音を見上げていた。


「ことね、なんでそんなに嬉しそうなの?」

「私の職業で魔法を覚えられないと、ただの銃使いだからだよ」


 にっこりと優しく、リュウコの頭を撫でながら答える琴音。


「俺様は魔法なんぞどうでもいいが、しかしいくつか補助魔法は覚えておきたいな。琴音がテンパると俺様しかいないわけだし」

「う、うう……緊張しいでごめんなさい……」顔を赤くして、恐る恐る頭を下げる琴音。

「えーでも、今度っからはわたしもいるよ?」そして、胸を張って「任せてよ!」と腰に手を置いた。

「お前、魔法とか使えるのか?」


 遊乃の言葉に、リュウコは大きく息を吸い込んだ。光のブレスを吐く気だと瞬時に察した遊乃は、「貴様ダンジョンだけでなく学校まで破壊するつもりか!」と慌ててリュウコの口を押さえた。


「そのブレスは俺の許可があるまで禁止だ、いいな」

「はーい」


 元気よく手を挙げるリュウコ。それを見て、遊乃は「人間の常識ってもんから教えこまんとダメみたいだな……」と呆れて溜息を吐いた。


「な、なんか遊乃くん、ほんとにお父さんみたいになりましたね……」

「あぁん!」


 遊乃の鋭い目付きで睨まれると、長年その視線に晒されてきた琴音は反射的に、「ひうっ」と肩を跳ねさせてしまう。


「やっぱお前が教育しろ、俺様にはそんなの合わん」

「えーっ! おとーさんが教えてよ!」

「あー……。ごめんね、リュウコちゃん。私が余計な事言ったばかりに……」


 しょんぼりとするリュウコの頭を撫でる琴音。その姉妹の様な態度に、遊乃はさらに辟易とする。


「んなことより、琴音は魔法たくさん覚えて、俺様の役に立ってもらわねばな。おら、行くぞ購買部」

「ああっ、ちょっと待ってよ!」

「遊乃くんは照れてるんですよ、だからきっとおとーさんしてくれますよ」

「琴音ぇ! お前は的はずれな事を言うんじゃない!」


 三人は結局、そのままリュウコの親権が遊乃にあるか否かを大声で話し合いながら、購買部へと向かった。


 一度校舎の外に出て、校庭の端にある白く四角い建物がある。まるでコンビニの様な佇まいのそれが、購買部だ。もう既に多くの一年生で賑わっており、遊乃たちもその賑わいに参加する。


 購買部にはノートや鉛筆などの勉学に必要な物はもちろん、保存食やロープ、武器や防具などの冒険に必要な物が置いてある。


「お、おいしそー……」


 保存食コーナーにかぶりつくリュウコ。見ているのは乾燥肉。長期間ダンジョンに潜る可能性もあるので、こういった保存食は討伐騎士に取って大事な物なのだ。


 そして彼女は、どうやら調理された食材が苦手らしく、シンプルであればあるほどごちそうらしい。


「ほう、まあ中間のボーナスも入ったしな。いいぞ、五枚くらい買ってくか」

「やたー!」


 ぽいぽいと遊乃の持っているカゴに肉を放り込んでいくリュウコ。


「いいか、これは半分こだ。俺様とお前で、二枚と一枚半ずつ。わかったな」

「はーい」

「ほんとにおとーさんしてるなぁ……」


 ぽつりと呟いた琴音だったが、それを耳聡く拾った遊乃は琴音の頭をぽかりと叩いた。


「いたっ」

「誰が所帯じみてるっておい」

「い、言ってない、言ってないです」


 ぷるぷると首を振る琴音。そして遊乃は、「こんなことをしている場合じゃない。俺たちはスキルカードを買いに来たのだ」


「で、でしたね。他にもアイテム買わなくていいんですか? 冒険や戦闘も大分楽になりますし……」

「そんなもんは困ってから買えばいい。今から戦力強化するんだから、いらんいらん」

「そ、そうですね」


 三人は、保存食コーナーからスキルカードコーナーへと移動する。

 棚に幾つもの白いカードがぶら下がっており、リュウコがその内の一つを手に取る。


「おとーさん、なにこれ?」

「これはスキルカードと言ってな、これを、この――」遊乃はポケットからデバイスを取り出す。「デバイスで読み込むと、魔法が使える様になるんだ」

「……なんか、いろいろ書いてあるね」

「魔法の効果とか、覚えられるレベルとか、いろいろな。めんどくせーからそこら辺の説明は省く」


 遊乃と琴音は、二人でどの魔法を覚えようか吟味して、様々なスキルカードとにらめっこをする。遊乃は比較的早く選び終わった為、リュウコを引き連れてレジへ。


「おばちゃーんよろしくー」


 そう言いながらカウンターにカゴを置き、レジにいた店員のおばさんが商品をレジに通していき、遊乃はデバイスの電子マネーで金を払うと、さっそく商品の入ったビニール袋からスキルカードを取りだし、鼻歌を唄う。


「これで無敵だった俺様も、超無敵になってしまうな」

「おとーさんおとーさん。早く魔法使ってみせてよ!」

「ん、おう、そうだな」


 二人は、琴音にもわかりやすい様、購買近くのベンチに座り、早速デバイスにスキルカードを読み込んでみる事にした。


 読み込み方は簡単で、スキルカードに書かれたQRコードをデバイスのカメラで撮影するだけ。そうすると、本人の脳に魔法式が埋め込まれ、名前を唱えただけで発動できる。


 もちろん無制限に覚えられるわけではなく、生まれ持って覚えられる魔法の容量が決まっており、それを越えるのは覚えられないし、いっぱいの場合は何かを消して覚えなおさなくてはならない。


 だが、現在遊乃は魔法なんて一つも覚えていない。その心配は無いハズだった。


「――あん?」


 遊乃のデバイスは、スキルカードを撮影すると、何故か『エラー』の文字を表示するだけ。


「どーなってんだ。故障か」

「ねーおとーさーん。魔法はー?」

「あれ、どうかしました?」そこへ、買い物を終えたらしい琴音がやってくる。

「そうしたもこうしたもねえよ。魔法が覚えられねえんだ」


 遊乃の言葉に、「え?」と小さく口を動かし、「ちょっと貸してください」と隣に座る琴音。彼女は遊乃のデバイスを操作し、スキルカードの読み込みを試みてみる物の、結果は先ほど遊乃が試した通り。


「ううん……。おかしいですね……」


 そう言いながら、他の操作も試している琴音。何秒か間が開いた後、彼女は

「え……?」と呟いた。


「な、なんだ。どうした」

「そ、それが、その。今、遊乃くんの魔法容量の残りを確認したんですけど――容量が、初級呪文一個分を残して、埋まってるんです……」

「な、なんだと! 貸せっ!」


 琴音からデバイスをひったくり、魔法容量の確認画面を見る。四角い枠の中に、左上の一マス分を残して、赤いブロックが敷き詰められている。


「な、なんだこれは! しょ、詳細、詳細!」


 遊乃はその赤い画面をタップする。そうすれば、なんの魔法がそのブロックなのかという詳細なデータが出てくるのだ。


 その画面が表示されると、そこには『召喚魔法』と書かれていた。


「お、俺が召喚魔法なんて覚えてるわけ――」


 そこまで言って、やっと気づいた。思い当たる事に。

 その思い当たる事――リュウコは、遊乃の視線に、小さく首を傾げていた。

■用語解説


・『学生寮』

親元から離れて龍堂学園に通う生徒たちが暮らしている寮。遊乃もここに入っており、リュウコが来てからはここにリュウコと二人暮らし。食堂があり、朝の六時から夜の一〇時まで食事が出来る。


・『スキルカード』

魔法を覚えるのに必要なカード。購買で買える。魔法式を圧縮したQRコードが刻まれており、これをデバイスで撮影することで魔法が使えるようになる。


・『魔法』

討伐騎士の戦いを助けるものであり、主に『補助』『攻撃』『妨害』の三種類がある。『補助』はパラメーターを一時的に上げたり、回復させたりする物。『攻撃』はそのまま、相手に対して直接的な攻撃を仕掛ける物。『妨害』は相手のパラメーターを下げたり動きを止めたりするもの。


・『魔法記憶容量』

頭に刻み込める魔法式は個々人の素質で決まっており、後天的に増やすのは不可能。呪文を唱えずに口で魔法の名前を言えばそれで発動できる様にする為、魔法式を頭に刻み込む。刻み込まなくても使えるが、その場合はかなり長い呪文を唱える必要がある。


・『召喚魔法』

キャファーと契約した証。キャファーのレベルが高いほど、食いつぶす魔法容量は大きくなる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ