死に顔なんて見せない。 (楼々×柳耀)
甘めです。
ある時、俺はふと東市の所で雑貨店を見つける。
今日は楼々の誕生日だっけ…。
「あれ?柳耀?どうしたの、こんな所で一人突っ立って」
「えっ!?ちょ、楼々!?何時から其処に!?」
「今に決まってるでしょ。偶々雑貨店の前を通りかかったら柳耀が何かしてるから声をかけただけよ?」
「いや……別に何でもないんだ」
「?そう…。なら、良いけど…。あ、そうだ。今日私が誕生日だから、邸で生誕夜宴やるつもりなんだけど…娘子とか呼んでくれない?多分娘子の所で全員いるはずだから。」
「……わかった」
楼々に頼まれたら行くしかない。
楼々には、逆らえないからな…俺は。
雑貨店にはまた後で寄っていくことにし、一旦東市を後にした。
崇仁坊外れの栄邸。
扉を軽く叩くと、顔見知りの侍女が出てきた。
「おや、柳耀様。娘子様にご用事でしょうか?」
「はい。楼々に頼まれ来ました」
「どうぞお入り下さいませ。後、娘子様以外にも要様・水伊様・不知火様がいらっしゃいますがよろしいでしょうか」
「大丈夫です」
その話の後、娘子の邸に足を踏み入れる。
やっぱりいつ見ても広いな、と思ってしまう俺だった。
正直言うと、楼々の家屋敷よりも広いと思う。
暫く歩いて庭まで来ると、娘子の他、要・水伊・不知火がいた。
「あら?柳耀殿ではありませんか」
「ん?柳耀か。私に用があると聞いたが」
「あぁ…今日の事なんだけど寅の刻に楼々の家に来てくれだって。…楼々の生誕宴をやるんだ」
「なるほど。其れでお前は俺達に伝えに来たわけか」
「…そんな感じ。あと少しだから、急いでおいた方が良いよ」
「そうですね。わざわざ有り難うございます、柳耀殿。草魏殿、急ぎましょう」
「そうだな。柳耀は先に行っておいてくれるかな?私達も後で行くからさ」
わかったよ、と言い俺は東市に向けて急いだ。
時間がない。急がなければ。
雑貨店を前にして、何を買おうか迷ってしまう。
…そう、いえば…。
『楼々、そろそろ帰るよ?…楼々?』
『この腕輪、すっごく綺麗だなって思ったんだ。藍色の勾玉なんてホント綺麗…。何時か、母上にでも買って貰おう』
その会話をふと思い出し、その腕輪を探した。
…有った。
藍色の勾玉が紐に通されている腕輪。
楼々がずっと欲しいって言ってたやつだ。
これならきっと、喜んでくれるはずだ。
其れを買った後、更に俺は急ぐ。
宴まで時間がない。
数分しか、残り時間がない。
道政坊、憂邸。
肩で息をしながら重い扉を押す。
そして直ぐさま宴のある場所へと急ぐ。
今夜は夜宴だし、全員泊まり。
其れは最初から決まっていたことだった。
宴のある部屋の襖をゆっくりと開けると楼々が振り向いた。
…まだ、草魏お嬢達が来ていない。
贈り物でも用意しているのだろうな、俺みたいに。
「いらっしゃい、柳耀」
「誕生日おめでとう、楼々」
「柳耀に言って貰えて、一番嬉しいな」
「…え?」
「だって、何年も共に過ごしてきたんだもの。柳耀は小さい頃に両親を亡くしてしまって、私達の所で此処まで育てた。其れまで何年有ったと想ってるのよ」
「そうだね…。ホント、長い間過ごしてきたんだよな楼々と。……あ、これ」
懐から腕輪を出し、楼々の腕にはめる。
楼々は、凄く驚いたような顔をして俺の顔を見た。
「これ…柳耀、覚えてたの?」
「あの時、凄く欲しそうにしてたから。それに、藍色って凄く楼々に合うから。こんなものしか渡せなくて…御免」
「ううん。すっごく嬉しいよ!ありがとう!柳耀!」
その笑った顔を見て、俺もつられて笑顔になる。
(うわー堪らなく可愛いってこれ)
その数分後には草魏娘子その他三名も揃い、宴が行われた。
草魏お嬢達もやっぱり贈り物を用意していたらしく、楼々に渡していた。
楼々はその度に笑顔を作り、有難うと礼を述べていた。
楽しい時間がずっと続いていた。
…と思っていたのに。
「ねぇ柳耀。何か、暑くない?」
「そう言えば…。昨期から俺達の後ろ辺り凄く暑いな…。なぁ、草魏娘子」
「どうした、柳耀」
「草魏娘子の後ろ、暑いか?」
「後ろ?ううん、暑くないけど?」
「そうか…なら」
良いんだけど、と言おうとしたときに暑い理由が分かった。
突如爆発のようなことが起き、辺りは大混乱に陥る。
楼々の手を引き急いで逃げようとしていた。
…次の瞬間。
爆発のようなこと、所の話じゃない。
本当の大爆発が起きて、俺と楼々を唯一繋いでいた腕が解かれてしまう。
そして楼々は火の中へ、俺は部屋の外へと放り出される。
「柳耀ーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
叫び以上の声が火の中から聞こえ、体を起きあがらせ急いで火の中へ飛び込む。
火の中、暑くて仕様がなかったけれどそんな事を言っている暇なんて無い。
楼々を…助けないと。
「楼々!!!いたら返事しろ!!!」
「……柳耀ー!!!!!」
振り向いた先には一番火の勢いが強いと思われる場所。
「楼々!!!!」
急いでその場所へ走り楼々の手を握る。
…だけど。
四方八方火の海。
逃げ場が、無い。
「どうしたら…良いの。もう、逃げられないの?」
「そんな事無い。絶対に、助けるから。死んでも助ける」
自然と言葉が出ていた。
こんな言葉、絶対に喋らないのにな俺。
……手段。
火の中の強行突破。
其れしか浮かばなかった。
「…楼々。強行突破するけど良い?」
「火の中に…行くの?」
「其れしか方法はないんだ。…さもなくば、死ぬんだよ」
「わかった。だけどお願い。無茶はしないで。この場で死なれたら…私、どうしたら」
「大丈夫。楼々の前では絶対に死なないよ。……――それに」
楼々の腰と足に腕を回して、抱き上げ走る。
数秒走り、飛び込む瞬間に一言言った。
『大切な奴の前で死に顔見せるほど、俺弱くないから』
楼々の表情はよく見えなかった。
俺自身も火に飛び込む瞬間、目を瞑ったから。
邸の外に飛び出し、砂埃を見せて俺達は脱出を成功させる。
「柳…耀…?」
「大丈夫。もう、抜けたから」
「…………ねぇ」
「ん?」
「火に飛び込む瞬間、なんて言った?」
「……大切な奴の前で死に顔見せるほど、俺弱くないから」
「そう、言ったの?」
「そうだよ」
「……馬鹿ね」
え?と俺は思わず素っ頓狂な声を上げる。
そして、馬鹿と言われたことに少しむかっと来て…
「なっ何が馬鹿なんだよっ」
と思わず荒く言葉を吐いてしまう。
だけど楼々は、そんな俺に構わず
「……柳耀が強いなんて、昔っから知ってるわよ。ばーかっ」
顔を赤くしながら楼々は俺に向かってそう吐き捨てた。
(くそっ、可愛い!!!)
そう思った後に思わず楼々を腕の中に閉じこめてしまったという俺の行動は間違っていたのだろうか。