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昔と変わらぬ少年。(楼々×柳耀)

私は一人、草魏娘子の邸の庭で木刀を振っていた。


草魏娘子達に心を許してからかれこれ半月がたった。

娘子の方も、最初の内凄く冷たい性格だと想ったのに逆転。

凄く優しく接してくれ、私として安心するほどだった。

(…そう言えば、娘子は何処に)


ふと思って木刀をおろして辺りを見渡す。

入り口と真反対の方向を向いたとき、後ろの方でかさっと音が鳴る。

振り向いて見つけたのは、娘子ではなく…


「え……!?ちょ!柳耀!?」

「久しぶりだね、楼々。そこら辺の人に楼々を見かけたか聞いたら、一発で解った。ここら辺では楼々有名らしいぞ」

「私がどうやって有名になったんだ?」

「…恐らく草魏娘子だよ。この邸、長安内の邸の五本指には入っているぐらいに有名なんだから。俺の所なんて五本指の話じゃない。百本は無いと入ってこないよ」

「つまりは人気がないって事でしょ」

「其処を言うなよ」

「それよりどうしたの?こんな時間に」


あぁそうだったと柳耀は深呼吸をする。

大した用じゃないんだけどな、と微苦笑する柳耀。


「いや…その…手合わせして貰っても良いか?」


拍子抜けた。

剣術や刀術を余りやらない柳耀が手合わせを頼むなんて。

其れでも良い。

昔は凄く剣術に填ってたもん、柳耀は。

だからきっと……強いはず。


「良いよ」


短く答えて近くにあった木刀を手渡す。

弱くても知らないよ、と柳耀は苦笑しながら言った。


「私の方が弱いに決まってるじゃない。昔、柳耀強かったんだから」

「今は知らねぇよ。昔は昔、今は今。どうなってるかは分からないよ」

「柳耀も凄いこと言うようになったね。吃驚するよ」

「…楼々って結構最悪だな」

「何とでも言ってなさいよ」


そう言った後、木刀を私の方に向ける柳耀。

今の柳耀が、ふと昔剣術などが大好きだった頃の柳耀と重なる。


(昔と全然変わってないじゃない)


微かに笑った私。

柳耀は気が付かなかったみたいだけれど。



僅かな静寂な後、飛び出したのはほぼ同時。



木同士がぶつかり合って少しの火花が散る。

その火花が消える前にまた、ぶつかる。


柳耀の動きは軽やかで私とは違い素早かった。


(やっぱり…強いんじゃないの)


若干むすっとしつつも、木刀を振り続ける。

私の木刀が柳耀に近づけば、柳耀は其れを弾き返す。

その逆のことだって有った。


木刀を振り続けていたとき。


隙をせてしまった刹那、私の胸当たりに柳耀の木刀が真っ向から入ってきた。

余りにも力が強かったのか、私はそのまま跳ばされ握っていた木刀も一緒に飛んでいってしまった。


「楼々!!!!」


その言葉が聞こえた途端、私の意識は遠のきそのまま目を閉じてしまっていた。



…負けたんだ。

久々に柳耀と対決したのに。

弱くても知らないと言ったあの柳耀に負けた。


悔しくはないんだ。

…凄いと想った。


私は手加減をしたわけでも無い。

なのに柳耀は凄く強かった。

何処で特訓したのかと言うぐらいに強かった。



私も……特訓しなきゃな。


あの頃みたいに。


『楼々!手合わせしよう!』

『え!?今日で五回目だよ?』

『木刀振ってたら、楽しくなってきたんだ!楼々も同じだよ』

『どうして分かるの?』

『楼々が木刀振っているとき、凄く楽しそうな顔してる。俺は其れで分かるんだ』

『柳耀は凄いよ。私の気持ちまで読み取れるなんて。…あ、手合わせだけど特訓してからにするから御免ね!』

『特訓、頑張れよ。楼々』


その時はまだ幼かったし、大抵素振りしか練習しなかった。

今となれば山奥で特訓とか色々してる。



やっぱ柳耀は強い。

昔と全然変わってない。



「――う――ろう―楼々」


霞の向こうから聞こえた声。

紛れもなく…柳耀だ。


ゆっくり目を開けた先には見覚えのある天井。

…娘子の家の天井だ。

娘子の侍女にでも頼んだのだろう。


「りゅ…よう」

「楼々!!」


よかった、とホッとしたように笑う柳耀。

だけどその顔の何処かで凄く辛そうな思いが混じっているような気がした。


「昨期は…御免。当てるつもりは…全然無かったんだ」

「分かってるよ。私だって隙があったから!特訓しなきゃって」

「でも…俺の無意識行動で楼々がこんな事に」

「――そんなに私が心配なの?」

「…心配だよ。幼馴染みだし。……大切な奴だから」

「………え?」

「もしも今回のことで楼々が死んでたら、俺どうすれば良いか分からなくなってた」

「死にはしないよ」

「分かるのか?」

「うん。あの時の柳耀みたいにね」


真似かよ、と微苦笑する柳耀。

だけど真似なんかじゃない。


…柳耀の前で死ぬわけにはいかない。

せめて死ぬなら一人で。


大切な人の前では死ねない。

何があっても絶対に死ねないから。



そう言えば柳耀は小さい頃にも「楼々のこと心配なんだよ」と言っていた。

…今も同じ思いならば、何も変わってない。

それに木刀を向けたときのあの眼差しさえも変わっていなかった。

昔の柳耀と重なるぐらいに。


柳耀は、何も変わってなかったんだ。私が回想した五年前と、五年後である現在とは。


「柳耀は…昔と何も変わってない」

「え?」

「私に木刀を向けたとき、昔の柳耀と今の柳耀が重なったんだ。…其れだけ、必死だったんだよ。今回の柳耀」

「俺が変わって無くても、楼々は変わった」

「私?何が変わったの?」



『可愛くなったし、優しくなった』



その言葉に顔を真っ赤にして、柳耀を殴ってしまったというのは数秒先の話。

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