ヨメイ
男性にも病状と余命半年だと告知すると
驚く様子もなく あっさりと 入院を決めた
顔色は 日に日に悪くなり 痩せ細っていった
毎日妻と娘さんがお見舞いに 来ていた
その時だけ 男性の病室は 笑顔で溢れていた
そしてある日男性に聞いた事があった
何故 笑顔で居られるのか・・・と
すると男性は 言った
「苦しくても辛くても 家族の前では 笑顔で
居たくてね」「仕事ばかりで 今迄家族サービ
スも ろくにしなかったから 最期位はね」
色々な患者と接して 慣れたつもりじゃったが
その話を聞いて 儂は胸が痛んだ
癌は徐々に男性の体を蝕んでいった
男性は 家族の為に 癌と闘った
そして半年が過ぎ 一年になろうとしていた
きっと男性の家族と一緒に居たい その思いが
命を繋ぎ止めたのじゃろう 誰もがそう思った
だがその思いも虚しく 癌はとうとう脳にまで
転移していた
そうなると もう 妻や娘の顔も 分らず 何を言
っているのかも ハッキリ 聞き取れなかった
それでも二人は 笑顔で男性に接していた
最期を看取る為 儂達もその場に居合わせたが
その光景は 痛々しくて 見ていられなかった
看護婦の中には 涙を堪え病室を出る者もいた
その場に居た皆が 同じ事を思ったじゃろう
二人共辛いのに よく 頑張るわね・・・と
だが二人には 一番辛いのが 誰か分っていた
だから 泣かないと 決めていたそうじゃ
すると男性の口調が突然 ハッキリとした
「今迄 仕事ばかりで お前達には 父親らしい
事を何一つ出来なくて 本当にすまなかった」
「不出来な父親で・すまな・・」
「あ・り・・が・・と・・・う」
そして男性は息を引き取った
途端に二人の堪えていた涙は 溢れ出した
二人の涙に周りも 堪らず 泣き出したんじゃ
話が終わった時 俺はボロボロ泣いていた
そして我に返ると 恥ずかしくなり涙を拭い
ベッドに もぐり込んだ
俺の気持ちを察したのか 医者は立ち上がり
「明日 脳の検査で異常が無ければ退院じゃ」
医者は そう言い残すと 病室を出て行った
布団の中でまだ止まらない 涙を拭いながら
何時の間にか 眠りに就いたのだった




