カクレガ × 2
「隠れ処かぁ〜 いいですね〜」
「うん 一応 俺のお気に入りの場所だよ」
「はいはいはい」「楽しい語らいの中悪いね
ランチお待たせ」
「お〜 来た〜 一言多いが美味そうだな〜」
「ホントです〜 凄く美味しそうです!」
「それじゃあ 早速 食べますか!」
「はいっ 頂きます〜」
「うん! 相変わらず 美味い!」
「はい とっても美味しいです!」
「有難う! そう言ってもらえると 嬉しいよ」
「最近自分の味に 不安になる時があるんだ」
「え?こんなに美味いのにか?」
「この味で お客様が満足してくれるかな?」
「また この店に来たいって思うかな?」
「とか そんな事ばかり考えてしまうんだ」
そう言って 俯いている姿に 俺はどんな言葉
を掛ければいいか 分らなかった
すると それまで黙々と食べていた阿部さんが
カウンターに派手な音を立てて両手を着くと
席を立ち 口を開いた
「それは 今この店に来てくれてる人達に
失礼だと思いますよ!」
阿部さんの思わぬ言葉に 唖然とした
「初めてこの店に来た人も居ると思います」
「だけど 常連さんも居るはずです」
「その常連さん達は この店が気に入ったから
常連さん何ですよね?」
「そうやって来てくれてる 人達は沢山ある
お店から ここを選んでくれたんですよね?」
その言葉で店内は静まり 皆の視線が阿部さん
に集中していた
そして 軽く息を吸い 阿部さんは話し始めた
「料理に完璧は無いんじゃないかなって私は
思ってるんです」「母に夕食を作る時に もう
ちょっと 味を濃くした方が よかったかな?
とか 隠し味はあれがよかったかな?って」
「それでも 母が私の料理を美味しいって
食べてくれたら それだけで 嬉しいんです」
「貴方だって そうじゃないですか?」
そう言ってカウンターを挟み 奴を指差した
「は はい そうです」
カウンターの中で後ずさりながら 何故か敬語
で 答えた
「それなら簡単じゃないですか!美味しく
作るより 今迄通りお客様の為に作る それで
いいんじゃないですか?」
そしてニコッと笑うと 椅子に座り食べ始めた
店の中は まだ静けさを保っていた
その静けさを破ったのが 拍手の音だった
パチパチ その音は 一人から二人 四人 六人
そして店中が 拍手で溢れかえった
「その子の 言う通りだぞ〜 俺はこの店が
気に入ったから 来てるんだぞ!」
「そうよ わざわざここ迄 来てるのよ〜」
「そうそう 近くにも在るけど 来てるのよ」
「そうだな 料理も美味いが 珈琲も美味い」
ここに居る人達の思いが 声になった
そしてそんな思いを 声にするキッカケを
作ったのが 残りのランチを パクついている
この阿部さんだ だが当の本人は食べる方が
忙しくて そんな事は御構い無しといった感じ
だった・・・




