小話 バレンタインという名のわずかな進展?
進展するのは仄亞や雪白ではありません。彼らは行きつくところまでいきついちゃってるので。今回は片思い中の「彼女」のお話です。
「ねえ、雪白、仄亞。」
「何?」
「何ですか?」
真剣な眼をした実希。何かあったのかな?
「二人とも、バレンタインってどうするの?」
バレンタイン……それは女の戦い。ああ、そろそろだね。
「んー……まあチョコレートあげるよ?」
多分この中で一番R指定かかりそうな方法で。
「私もそうですねー……あげますよ?」
「手作りを?」
「そうじゃなかったら殺されるからねー。」
私の場合は。笑顔で壁際まで追い詰められて……うん、考えるのやめよう。
「そっかー……私、毎年既成品だったのよね……」
「まあ重くはないですね。」
「いいなあ、それが許されるのが。」
私なんて。私なんて……あ、視界がにじみ出した。
「いや、許されるも何もまず私たち付き合ってないわよ……で、どうしようかなと思ってね?」
「あー……んじゃあ一緒に作る?」
どうせ私も作らなきゃいけないわけだし。
「いいの!?」
「うん。雪白も一緒に作る?」
「はい。」
ということで…………
「んーこんな感じかな?」
みんなでチョコクッキーを作ってみました。うん、美味しそうにできてる。
「ふう、結構綺麗にできましたね。」
「そうだね。」
本当はタバスコかなんか入れてやろうかと思ったけどそれやったところで美味しいって全部食べるだろうしね。それでお腹痛めて看病させられるくらいなら最初から美味しいものを食べさせるほうがいいし。
「で、どのタイミングで渡そうかしら……」
「え? そんなの適当に。」
いちいち考えてもどうしようもないし。
「うーうー……」
そうこうしているとドアが開く音がした。
「あ、お兄ちゃんだ。おかえりー。」
「おー……いい匂いしてんなー。」
「私はお兄ちゃんの分は作ってないよ? 暁留の分しかないから既成品で我慢してね。」
「はいはい。」
まったく、独占欲の強い彼氏を持つと大変だ。
「え、えーっと桐生君?」
「ん?」
「これ、よかったら……いや、いらないならいいのよ! 私が食べるし……」
「いらないなんてそんな……もったいない。いただくよ。」
そのままチョコクッキーは実希の手からお兄ちゃんの口の中へ……お兄ちゃん、無意識なんだろうけど実希の顔が真っ赤だよ。
「ん、美味しい。」
「あ、う、あり、がとう。」
「まだある?」
「え、あ、はい。」
その後数分間、チョコクッキーは実希の手からお兄ちゃんの口へと旅を続けましたとさ。
「んー……ご馳走さま。」
「ど、どういたしまして。」
「結構甘かったよなー……まあ俺は平気だけど。」
「??? これ、苦めに作ったんだけど?」
「あれ? おっかしいなー……」
二人して疑問符を頭に浮かべる。いや、多分それ……
「実希さんの手から頂いたからそうなってるんじゃ」
「教えちゃだめだよ。面白くなくなる。」
さて、鈍い二人がくっつくのはいつのことになるのやら……
本当、いつになるんでしょうね。
ちなみに彼らは本気で分かってません。そして桐生の行為は何も意識されていません。(実希はあたふたしてましたが。)
桐生君はどうやら天然だったようです。ある意味計算してやってる暁留や白雪よりも性質悪いタイプ。