婚約という名の契約と兄の苦悩
仄亞はなんだかんだ言っても暁留を愛しています。溺愛です。愛に溺れてるんです。
「おい暁留。」
「何さ桐生。」
「今のはなんだ?」
「愛情表現です、とまでは言わないけどさ、どう考えても自業自得でしょ。これは。」
「……違うもん。ちょっと意趣返ししたかっただけだもん。」
ぼそりと呟いた声はどうやら届いてしまったようだ。その証拠に笑ってる。そういや地獄耳だったっけ。
「意趣返しね……それ、もう十分すぎるくらい出来てると思うんだけどな。どーせ昔の仕打ちを少し復讐しようと思ったんでしょ。したけりゃすれば?」
ば、ばれてる……
「していいの?」
「それで仄亞がそばにいてくれるならまあ……逃げる以外なら別に。」
「暁留がそんなこと言うなんて……これ、夢?」
「僕もまさか仄亞が帰ってくるなんて思ってなかったから夢みたいだ。」
そう言って私の頬をつねる。自分にやろうよ意味ないじゃん。
「いひゃい!」
「うん、どうやら夢じゃないらしいよ。」
「うぅ……」
「ていうかさ、楽園だか箱庭だかは仄亞も愉しんでたじゃん。」
「その前の出来事を指してるの!」
「あーあれ?もう良くない?時効だって。それにそのおかげで双方愉しめたんだからいいじゃん。」
「あとこのペンダントのことも!」
私の胸元には羽根をあしらった銀色のペンダントが光っている。その羽根には小さなルビーが埋め込まれていてなかなかいい趣味をしたものなんだけど……
「ああ……でもここ、向こうと同じく雨欺の支配下に置かれてるからそれぐらいのアクセサリーなら許してくれるよ?」
「そうじゃない!」
これ、外れないのだ。なんだか知らないけど。まあ水に入れても錆びないのだけれどだからいいって問題じゃない。
「外さないよ。言ったろ?どうしても外してほしいなら僕以上に信頼できる人見つけろって。その人なら外せるさ。」
そして、これ、暁留は外せるのだ。ってまあつけた本人だから当たり前だけども。で、暁留曰く自分以上私が信頼できる人なら外せるようになってるらしい。しかもこのペンダントにはある意味が含まれている。
「いいじゃない。僕の婚約者なんだしさ……もうそれうちじゃ決定事項だし咲良さんも普通に認めてくれるだろうし。ていうか仄亞じゃなきゃ僕結婚しないし。」
教室中がめちゃくちゃざわめいた。あぁもう……こんなところで言わないでよ。
「ね、仄亞。僕の《片翼》になって?」
めちゃくちゃ甘い声で言われた。あ、だめかも。溶けそう。
「うぅ……はい。なんで流されちゃうのよぉ。」
片翼……婚約者のこと。雨欺一族は基本不老不死に近い体ですが片翼が死ねば一日後に死にます。(暁留の父親は片翼を交通事故で亡くしたので一日後に息子の目の前で死んだんです。実は。)逆に、片翼も結婚と同時に雨欺の血を飲まされ、雨欺(人外)になるので不老不死に近くなります。こちらも相手が死ねば一日で死にます。片翼では鳥は飛べない。そういう意味での片翼です。ちなみにペンダントは片翼の証です。