メイドは見た リベロン様あなたでしたか!
「……うーん。男難の相が出てるわね」
「男難の相?」
「読んで字のごとく、男性にまつわる災難に見舞われやすい相よ」
「……そういえば」
確かに最初は男性の死体を発見し、次は女装した男性に目撃者に仕立て上げられ、次は見知らぬ男性に犯人にされそうになり、極めつけは上から降ってきた死体で死にかけるというろくでもない目に遭ってきた。それもこれも全て男性にまつわる出来事である。
「当たっています……私どうしたら良いんでしょう?」
「水晶でどうすれば良いか占ってみるわ。でも、追加料金がかかるけどどうかしら……」
「いかほどでしょう?」
「このくらい♡」
さすが超当たるという噂の占い師。目が飛び出るほどお高い!!でも、背に腹はかえられない。
「払います!!占ってください!!」
今月のお小遣いを全てベットします!!
最近なぜか殺人事件に縁があるスフィア=メルシエです。メルシエ男爵家長女で、難関の王宮メイド試験を突破し、晴れてこの春から第3王子殿下カイン様のメイドとして働いています。
まだ働いて間もないのに、殺人事件に巻き込まれること4回。前回はよく効くという祈祷師にいただいたお守りまで切れてしまう始末。これはきっと末期です。はやく何とかしないとと思い、メイド仲間に聞いてよく当たるという噂の占い師のお店にやって来ました。
「じゃあ見て見るわね……見えるわ……金髪……紺碧の瞳の男がカギね」
「金髪……紺碧の瞳」
思い当たるのはただ1人。やはり全ての小悪の根源はアイツだったのね……。
一際目を引く艶やかな金髪。どこまでも吸い込まれそうな紺碧の瞳。百人中百人が美しいと認めるその美貌。仕事に関しては一切の妥協を許さず、にこりともしないことで有名な第三王子付近衛兵筆頭リベロン様。その人である。
「リベロン様……許すまじ……」
今回の私は本気です!!
徹底的にやります。やってみせます。
その日から私の涙ぐましい努力の日々が始まった。
私の男難の相の源リベロン様とは残念ながら、職場が同じでしかも同じ主に仕えているため接点が多い。そのため、必要最低限の会話にとどめどうでも良い話は聞いていないふりで乗り切ることにした。そうするとリベロン様も私には声をかけないようになり、自然と距離を取ることができだした。
やはりイケメンは目の保養に離れたところから見るのが一番である。関わるとろくなことが起こらない。
そうして、リベロン様と全くしゃべらなくなってから1週間が経った。
「ねぇ、スフィ。リベロンとケンカしたの?」
「カイン様、特にはしていませんが?」
ケンカするほどもともと仲良くはない。
「でも、最近しゃべってる姿を見ないよ?」
「それは特に必要がないからで……」
「ケンカしたら早めにごめんなさいしなきゃダメだよ。お母様も悪いと思ったらすぐに謝りなさいって言ってた」
「ですが私は別に悪くは……」
「ウソ!スフィがなんかしたんでしょ?はやく謝りなさい」
「何もしていませんが……」
カイン様、なぜ私が悪いとお思いで!!リベロン様の可能性だってある……かも。それに本当に話さなくなっただけで何もしていません。
「スフィ、悪い子なの?」
カイン様は目をウルウルさせている。
うっ。胸が。でも私の命も大切なんです。
それを見たメイド長に注意を受ける。
「ここは良いから、はやくリベロン卿のところに行ってらっしゃい!!……最近あの男やけに機嫌が悪いのよね」
最後の方は聞こえなかったが、とにかくリベロン様の前に他のメイドによってドナドナされ、ポイと放り投げられた。
目の前にはいつも以上に冷たい雰囲気をかもし出しているリベロン様がいる。……いや、怖いんですけど。
「あの……」
「……」
私の呼びかけにも無視である。
「カイン様に仲直りをしろって……」
「……」
「だから……あの……」
「……」
いやいやいや。これだけ私が歩み寄ってるんだから反応返してくれても良くない?私がやったことをやり返すなんて本当に小さい男。でも今回は私が悪いし……。
「……すみませんでした」
「……何がだ?」
ぼそりとリベロン様が呟く。
「あの……リベロン様の話を聞かなくて」
「それで」
「私も話しかけなくて……」
リベロン様は鋭い目つきでこちらをじっと見つめる。でも、これ以上何もでてきません!!
リベロン様は大きくため息をつくと、口を開いた。
「……カイン様に救われたな。このまま業務に差し障りが出るようならお前をクビにするよう進言するつもりだった」
「クビ!?」
それはヤバい!!こんなに恵まれた職場は無いのに生活できなくなる。そう、殺人事件に巻き込まれる以外は同僚にも主にも恵まれ(上司はこの人筆頭に微妙だが……)給金も良いという私にとって天国のような職場なのである。
「すみませんでした」
慌ててもう一度謝る。ヤバい……ヤバいぞ。この男有言実行だから、やると言ったらやる。
「2度目はないぞ」
こく、こくと何度も頷く。
ギリギリセーフのようだ。
無視!ダメ!ゼッタイ!!
「それで、なんでこんな真似したんだ?」
「実は……」
占い師の話をする。
「私も死にたくなくて……」
「お前……相変わらず馬鹿だな。金髪に紺碧の瞳などこの王宮に務めているだけでもかなりの数がいるぞ。カイン様もそうだしな」
言われてみれば……あまりにリベロン様の印象が強すぎて、他の男については考えていませんでしたが、確かにたくさんいます。
「……しかも、カギって言われたんだろ?むしろそいつが助けてくれるってことなんじゃないか?ま、こんな理不尽なことをしてくるやつを俺は助けるつもりはないがな」
確かに!!前回もリベロン様が助けてくださいました。そう言えば前々回も……。
はっ。もしや私は救いの手を拒絶していたのでは?
まずい、まずすぎます!!
言い終えたリベロン様はスタスタと私を置いてどこかに行きます。
「リベロン様――!!」
私は慌ててその手にしがみつきます。
「……だずげでぐだじゃい」
溢れる涙を拭いもせず、恥も外聞もなくリベロン様にすがりつく。
「……都合のいい女だな」
「だっで……」
「……次はないからな」
私はこく、こくと頷く。良かった!!さすがリベロン様!!神である!!さす神!!
いや……この人を私の恋人にしたら最強じゃね?
最強のボディーガード!!
「好きです」
「何急に気持ちの悪いことを言っている。手を離せ、涙を袖で拭くな……とにかく、馴れ馴れしくするな!!」
いや、私の命のため。死んでも離さないぞ。
「お前……極端すぎるんだよ。万が一の時は助けてやる……気が向いたらだが……だから離せ、好きだとか馬鹿なことは言うな!!」
珍しくリベロン様が焦っている。
私はスッポンのようにしがみついていたが、その言葉を聞き手を離す。
「本当ですか?ありがとうございます!!」
よし。無料のボディーガードゲットである。
「それと、これで涙を拭え。返す必要はない。さっさと仕事に戻ってカイン様に報告しろ」
分厚めのタオルをもらう。いつも思うが意外と物持ちが良い。そして何気に親切なところもある。(ほんのちょっとだけど)それにしてもこれ、リベロン様のどこに入れてたんだろう。
涙と鼻水もろもろを拭い、そのままリベロン様とはわかれた。
仲直りも無事にできたし任務完了!カイン様のところに戻って報告しよう。
……タオル邪魔だな。どこに入れようか。
胸!よし!いい感じ。いつもより2割増グラマラスになった。
カイン様にスフィえらいねと褒めてもらおう!
ルンルンで廊下を歩いていると、見知らぬ貴族の女性とすれ違う。ここは王宮でも一般人は立ち入り禁止区域である。
「あの、こちらは一般の方は立ち入りが禁止されています。どちらに行かれたいんですか?」
たまに迷い人が出るので、見つけてしまった場合一般の方が行けるところまで案内することになっている。
「貴方は?」
「申し遅れました。私は第3王子殿下のメイドとして働いておりますスフィアと申します」
「そう……貴方が……」
「どちらにご用でしょうか?近くまでご案内しますが……」
「貴方さえいなければ……」
「えっ?」
次の瞬間、胸にナイフが刺さっていた。衝撃でそのまま倒れる。占い師!!男難の相って言ったじゃない!!
ダン
大きな音が辺り一面に響く。
バタバタと誰かが走って来る音がする。
「スフィア!!」
「犯人を取り押さえろ」
この声はリベロン様……助けてくれるって言ったのに遅すぎ……ない?あれ、体が動く。
どうやら私を助け起こしてくれているらしいリベロン様とバッチリ目が合う。
「お前……なんで生きてるんだ?」
「えっと……本当ですね。特に痛みを感じません」
「ナイフは胸に刺さってるぞ」
「えっと……抜いてみましょうか?」
胸に刺さったナイフを抜くが、血が付いていない。確かに刺さっていたし本物なのに……。胸?まさかタオル!!
私はリベロン様の後を向くとタオルを取り出した。やはりバッチリ穴が空いている。タオルが盾の役割をしてくれたらしい。
「リベロン様、やはりリベロン様が私のカギです!!いただいたタオルを胸に入れていたので助かりました!!」
「……なぜ胸にタオル?」
「乙女の秘密です!!」
デリカシーのない男性は嫌われますよ!!
「その女のせいで私は振られたのよ!」
えっ、私実はどこがでモテてる?
「私の恋人を寝取ったの」
寝取った!!何ていうパワーワード!!そんなはずは……私は男性とお付き合いしたこともないのに……。
「そこのスリアって女は許しておけないわ。離して、離しなさいよ!!」
「……スリア?」
「何よ!自分で名乗ったじゃない!!」
「……私の名前はスフィアですが……」
「えっ?」
一瞬何とも言えない空気が漂う。
ぷっ。
腹を抱えてヒーヒー言っているのは笑わないという噂のリベロン様である。
「勘違いで殺されかけて、タオルで助かるって」
私だって、好きで殺されかけたわけじゃありません。
「ま、何にしろ感謝しろよ」
そう言い残すと犯人と部下とともにリベロン様は去っていった。
「それにしてもあの占い師インチキね。男難じゃなくて女難じゃない!!」
◇ ◇ ◇ ◇
リベロンとその部下の会話
「筆頭、スフィア様と仲直りができて良かったですね」
「あんなヤツでも、話さないと調子がくるうからな」
「しかもあんなに楽しそうに笑う筆頭初めて見ましたよ」
「いや笑うだろう?勘違いに胸のタオルだぞ」
「ま、何にしろスフィア様に怪我がなくて良かったです」
「今回のことでアイツの悪運の強さが証明されたな。これからも目が離せん」
リベロン心の声
( きっとまた殺人事件に遭遇しそうだな。 )
部下心の声
( 目が離せないくらい夢中なんですね!スフィア様と喧嘩中、筆頭の機嫌が氷点下まで下がってましたから、必ず2人が上手くいくよう取り持たないと…… )
占い師心の声
( この間の客はどっちに転んだかしら?金髪に紺碧の瞳の男の執着がすごそうだけど……ま、運も不運も紙一重よね )




