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第6話 惑星エルマティスの軌道崩壊を救う 前編

【勇者ギルド本部 ギルド長執務室】


荘厳な大理石の壁に、数百の惑星系を示す魔法地図が浮かび上がる。中央の卓にはギルド長、漆黒のローブをまとった竜種の男が腕を組み、深刻な表情を浮かべていた。


そこに、リリィ、ガルド、ジャック、コモン、マーガレット、そしてクロシャが呼び出されていた。


ギルド長

「よく来てくれたな、『虹色の風』たちよ。緊急クエストだ。宇宙座標第87α域、惑星“エルマティス”の救助依頼だ」


リリィ

「エルマティス、あの辺りは、数十億人が暮らす惑星系だったはずです。いったい何が?」


ギルド長は手元の魔導水晶に触れ、空中に投影されるホログラムを操作した。そこには、星系の軌道図が表示され、一本の異常軌道が示されていた。


ギルド長

「原因はこの“浮遊褐色矮星”だ。この巨大な天体が、星系をかすめるように通過し、重力の乱れを引き起こした。エルマティスは本来の公転軌道を外れ、恒星に向かって落ち始めている」


ガルド

「軌道崩壊か。つまり、このままじゃ」


ジャック

「半年後には、灼熱地獄。そして、星そのものが蒸発する」


ギルド長

「もちろん、今も避難は進んでいる。だが、輸送能力には限界がある。惑星全体を救うことは、現状の手段では不可能だ」


マーガレット

「家や畑を残して逃げるのって、きっと、すごくつらいニャ。あの人たち、どんな気持ちで空を見上げてるのかニャ~」


沈黙が流れた。リリィが一歩前に出る。


リリィ

「それで、私たちに何を?」


ギルド長

「なんとかしてほしい。方法は問わない。エルマティスの人々を、少しでも多く救う手段を探ってくれ」


クロシャ

「現地調査が必要ですね。惑星の状況と、避難状況、現地の技術レベル、あらゆる情報を」


ギルド長

「もちろん、その通りだ。まずは惑星へ転移し、現地の行政機関と連携してくれ。そこから作戦を立ててほしい」


リリィは力強くうなずいた。

「了解しました。必ず、道を見つけてみせます」


ギルド長

「頼んだぞ。君たちが来てくれるだけで、彼らは救われたような気持ちになるだろう」


ホログラムの中で、燃え上がるな恒星が不気味に輝いていた。


・・・・・

◆惑星エルマティス救出計画


【惑星エルマティス・軌道ステーション 仮設作戦本部】


高層のガラス越しに見えるエルマティスの大地は、青と緑の輝きを保ちながらも、すでに大気の変動が始まりつつあった。恒星に近づくごとに、気温が上昇し、干ばつや森林火災の報告が相次いでいる。


ステーション内の会議室。円卓にはリリィたちと、勇者ギルド星拠点から合流したホー博士、そして、グネルの姿があった。


ジャック

「これまでに避難できたのは、全人口のわずか3%。残りの数十億人を半年で全て移送する手段はない」


グネル

「魔法転移ゲートを多重に展開できればいいけど、転移先の『お盆の世界』の準備が間に合わない」


ホー博士は腕を組み、投影された軌道図を見つめながら、静かに言った。

「それなら、発想を逆転しよう。“星そのもの”を動かすのは不可能だが、“灼熱地獄”になる前に、惑星の表層だけでも守れないか?」


リリィ

「表層の保護、シールドですか?」


ホー博士

「そう。大気と地表を魔法的に保護し、温度と放射線を遮断する巨大な“防熱・反射結界”を展開する。要は、“星のパラソル”だよ」


グネル

「それには、軌道上に遮光シールドを構築して恒星光を制御する必要がある。遮光シールドの壁を大量のダンジョンコアで生成すれば、光と熱を偏向できるかも」


ガルド

「ダンジョンコアの壁を繋ぐ資材をどうする?」


ホー博士

「それもダンジョンコアで生成した資材を利用して惑星の公転軌道の内側に配置するしかないだろう。短期間で、数百基の遮光シールドを持つ衛星を展開できる」


リリィ

「結界と連動すれば、地表の温度上昇を抑えて、避難の猶予が増える」


マーガレット

「このままじゃ、草も木も動物たちも、みんな焼けちゃうニャ。避難できない人たちが取り残されるのは、悲しいニャ〜、少しでも守ってあげたいニャ」


ジャック

「ただし、結界は膨大な魔力を必要とする。恒久ではなく、避難期間を稼ぐ“時間稼ぎの盾”になるだろうな。」


クロシャ

「その時間で、残る人々の避難と避難先の『お盆の世界』を準備するしかないだろうな」


巨大遮光シールドによって惑星を恒星光から守るという案に、一縷の希望が見えかけていたそのとき。


部屋の片隅に浮かぶ球体型の機械、コンが、ふわっとホバリングしながらぴょこんと飛び出した。


コン

「んーっ? それ、本気でやるの? ちょっと待って〜! すっごくヤバい構造になってるっぽいよ!」


ホー博士

「どういうことだ?」


コン

「えっとね、解析したの。惑星の引力、恒星の光と風、それから熱とかいろいろ全部混ざって、わーってぐらぐらして、うーん、76時間くらいでバラバラになっちゃう感じ!」


リリィ

「それじゃ、この案では惑星を守れないってこと?」


コン

「うん。ぜんぜん持たないの。デブリまみれになる未来、見えちゃった。だからね、もうひと工夫いると思うよ〜」


ホー博士

「つまり、遮光はダメなのか」


コン

「うん、がっつり引っぱって、惑星を正しい道に“くいっ”て戻す感じ? そのほうが長持ちする!」


ホー博士

「どういうことだ?まさか軌道修正?」


ガルド

「軌道修正?どうやって?あの惑星は巨大だぞ」


ホー博士は黙って考え込んだ。数秒後、手元の魔導デバイスに何かを打ち込みながら口を開いた。

「いや。できるかもしれない。“押す”のではなく、“引き寄せる”重力で“導く”んだ。」


グネル

「まさか、惑星をブラックホールで引っ張ると?」


ホー博士

「そう。重力定数の低い宇宙に存在する“元ブラックホール素材”。極端に重くて、それでいて安定している。あの素材で“重力の大きなロケット”を造る」


ホー博士は即座にホログラムを操作し、模型を表示させた。

「この重力ロケットを惑星の公転軌道の前後に2機配置する。ひとつは惑星を“引き”、もう一つは“追う”。前後から挟むことで、ゆるやかに惑星の軌道を修正し、本来の安定軌道に戻す」


コン

「おお〜、いいねそれ! 今シミュレーションまわしてる〜。えっとえっと、成功率32.1パーセント! でもね、いろいろ発生する重力を調整すれば50パー超えるかも!」


マーガレット

「重力で未来を“つないであげる”ってことニャ。助けを待ってる人たちがいるなら、この手で星を包んであげたいニャ〜」


ジャック

「前代未聞だな。惑星を重力で“誘導”するなんて聞いたことがない」


コモン

「だが、理屈は通ってる。転移魔法で素材を運び込めば、建造も現実的だ」


グネル

「問題は、2機の衛星を正確に配置し、同期させる制御ね。でも、挑む価値があるね」


リリィ

「私たちは惑星の地上で、住民の安全確保と誘導を続けるわ。ホー博士、グネル、コンは、この“重力の誘導計画”の詳細を立案して」


ホー博士

「了解。目標、惑星エルマティスの軌道安定、必ずやり遂げる!」


・・・・・

◆ロケットの製作

【エルマティス救援作戦・希望の記憶】


ロケットの設計段階で判明した、重力ミサイルの推進装置では、大きくしても惑星の大質量に対しては推進力が足りないことが分かった。


沈黙が続く制御室で、リリィは静かに思い出した。


リリィ「もっと大きな推進力ロケット?そういえば、あのとき、植物惑星で・・・」


ジャックが顔を上げる。「植物惑星?」


リリィは頷いた。


リリィ「そう。あの星の住民たちは、私たちにこう言ったわ。“もし必要なら、いつでも宇宙船を貸してあげる”って。しかも、もし足りなければ“10000人乗りの宇宙船なら、今からでも作れる”とも」


ジャックも思い出し、うなずいた。

「確かに、彼らは、かつて滅びた惑星の住民の末裔でありながら、高度な生体工学と宇宙航行技術を持っていた」


そのとき、リリィはふっと柔らかく微笑みながら、言葉を重ねた。


リリィ「そこは、マーガレットの仲間が大勢いるところ。マーガレットの故郷でもあるわ。」


マーガレットはぱっと顔を輝かせ、嬉しそうにくるりと回った。

「また、みんなに会えるニャ〜!」


コモンが冷静に補足する。

「つまり、交渉次第では、現地で恒星間宇宙船を借りるか、あるいは新たに建造してもらうことも可能ってわけだ。」


コンがにこにこしながら手を挙げた。

「転移座標、バッチリ残ってるよ〜! すぐにゲート開けるっぽい!」


リリィは仲間たちを見渡し、力強く告げた。

「エルマティスを救うために、あの星の力を借りましょう。きっと、あの優しい人たちなら、助けてくれるはず」


ガルドが豪快に笑った。

「へっ、ジャングル探検に宇宙船交渉か。おもしれぇじゃねえか。」


ホー博士も慎重に付け加える。

「ただし、現地の事情には最大限の配慮を。借りるなら、誠意をもってな」


リリィは静かにうなずき、エルマティスで必死に生き延びる人々の未来を思い浮かべた。


リリィ「必ず、助ける。そのために、マーガレットの故郷の人たちの力が必要よ」


こうして、『虹色の風』は、小さな観測宇宙艇で、植物惑星へと転移した。


・・・・・・・

【植物惑星・森の都市】


転移の光が晴れると、目の前にはかつて見た以上に広大な森が広がっていた。高くそびえる巨木の間に、立体的に広がる枝の都市。空中を行き交う車両。大地にも樹上にも、人々の営みがあふれていた。


ジャックが驚きの声をあげた。

「前に来たときより、都市が、何百倍にも広がってる。1000年でここまで発展するとは」


ガルドも感心して腕を組む。

「立体都市ってレベルじゃねぇな。森そのものが巨大な街になってる。」


そのとき、木の上から馴染みのある顔が軽やかに飛び降りてきた。


チューリィ船長「おおっ、魔法陣が光ったから来てみたら、リリィじゃないか!全然、変わらないニャ。ものすごく久しぶりニャ!元気そうニャ!マーガレットもよく帰ってきたニャ」


リリィは微笑みながら迎えた。

「ええ、あなたたちもずいぶん賑やかになったわね。」


マーガレット「チューリィ船長、お久しぶりですニャ。帰ってきたニャ」


チューリィ船長は誇らしげに胸を張った。

「今や、一族は船に保存されていた5000万人をすべて再生したニャ!それだけじゃないニャ。子孫も増えて、いまは2億人を超えているニャ!」


コンがぱちぱちと目を瞬かせる。

「に、2億人っぽい!? すごいよ〜!」


マーガレットも嬉しそうに駆け寄った。

「みんなすごいニャ〜! 誇らしいニャ!」


リリィは温かい気持ちでその光景を見つめた。

「森と人々が、ここまで復興して、本当に素晴らしいわ」


ジャックが周囲を見渡しながら尋ねる。

「これだけ人が増えたなら、もしかして、宇宙船も?」


チューリィ船長はにっこりと笑った。


チューリィ船長「その通りニャ!


もとの恒星間宇宙船はすべて再建、さらに新しい船も何艘か建造済みニャ!もし必要なら、すぐに貸せるニャ!」


リリィは真剣な表情で一歩進み出た。

「実は、私たちの仲間がいる惑星エルマティスが、恒星に引き寄せられているの。惑星そのものを引っ張って、救うために、推進力の大きな宇宙船を貸してほしいの」


チューリィ船長はすぐに頷いた。

「もちろんニャ。貸し出し可能な新造船は3艘あるニャ。それぞれ、恒星間推進エンジンと惑星規模の重力耐性を持ってるニャ」


ホー博士が補足する。

「見せてもらったこの性能なら、理論上、惑星エルマティスを引き戻すための推進力も十分だ」


コンが端末を叩きながら嬉しそうに言った。

「性能データもバッチリ! これなら、十分間に合うよ〜!」


マーガレットが張り切って叫んだ。

「よーし、これで、星ごと助けるニャ!」


チューリィ船長は大きく笑った。

「さあ、整備班に準備させるニャ!エルマティスを救う旅、私たちも全力で応援するニャ!」


リリィは胸の奥に広がる熱い想いを噛み締めながら、仲間たちに向き直った。

「ありがとう。この船で、必ず、惑星エルマティスを救うわ」


・・・・・・・

【惑星エルマティス救援作戦 — 新たなる黒い渦の採取へ —】

【植物惑星・森の宇宙港】


整備班の手によって、新しく完成した恒星間宇宙船2艘が、森の宇宙港に並んでいた。それは流線型の船体を持ち、とても美しい船だった。


チューリィ船長が胸を張って言った。

「この2艘、まだ名前もついていないニャ!どちらも恒星間航行級、推進力も十分ニャ!」


リリィは感謝の気持ちを込めて一礼した。


「本当にありがとう。お借りするわ。これでエルマティスを救えるわ」


ホー博士は船体を見上げながら言った。

「ただし、このままではダメだ。今回の作戦には、さらに“大質量の黒い渦”を船に積み込む必要がある。」


ジャックも頷く。

「つまり、ただの航行船じゃ足りない。船の先端部に、黒い渦を安定して保持できる構造を新たに組み込まなきゃならない。」


コンが元気よく答える。

「もちろん、そのためにダンジョンコアver3.0を持ってきたっぽい!魔力制御で船体を再構成、重力耐性と空間バブル安定機構を追加するよ!」


リリィは静かに命じた。

「グネル、船体をコアで改造して」


グネルはダンジョンコアver3.0に手をかざし、詠唱を始めた。

「重力制御拡張。空間バブル展開補助。船体改造開始!」


黄金色の魔法陣が宇宙船全体に展開され、滑らかな船体に新たな骨組みが組み込まれていく。先端部には、黒い渦を安全に保持するための特殊な空間隔壁と、魔力フレームが構築された。


数時間後、改造は完了した。


ホー博士がシステムチェックを行いながら頷く。

「よし。これで黒い渦を安定保持できる。通常空間に戻っても、暴走の心配はない」


ジャックが操作パネルを確認しながら付け加える。

「推進力も補強完了。黒い渦の質量を抱えたままでも、エルマティスを引けるはずだ」


リリィは静かに告げた。

「これで準備は整った。次は、重力定数の小さい宇宙に向かって、黒い渦を採取しに行く」


マーガレットもわくわくした様子で跳ねる。

「いよいよニャ! 星を救う材料を取りにいくニャ!」


コンが転移ゲートを起動しながら声を上げた。

「座標設定オッケー! 目標は、重力定数の小さい宇宙の黒い渦のある地点だよ〜!」


2艘の新造船を連れて観測宇宙艇は、静かに転移した。


・・・・・・・@@@

【重力定数の低い宇宙 宙域A16】


空間は異様なまでに静かで、空気すら感じさせない無重力領域。その中心に、黒い渦がゆっくりと回転していた。渦は半透明で、外見は霧のよう。だが、その実態は、かつてブラックホールだったものが原子レベルにまで分解された状態だった。


ホー博士は静かにその黒い渦を見つめていた。

「これが、元ブラックホールの姿。重力定数が極端に低いこの宇宙だからこそ、このような黒い渦の姿で“存在”していられる」


グネル

「まるで、時間が止まってるみたい。でも、あの黒い渦、ただのガスじゃない。一つ一つの粒子が、想像もできないほど重い。あれを扱うなんて、とほうもないことよ。」


ホー博士

「だからこそ、この宇宙を選んだ。通常宇宙でこんなものを扱ったら、一瞬でブラックホールに逆戻りして、エルマティスどころか星系ごと消えるからな」


コン

「えっとえっと〜、渦の密度は、地球のど真ん中の1億倍くらい重いっぽい!それにね、ここならず〜っと安定してるけど、他の宇宙に持ってっちゃうと、めちゃくちゃ危ないから、空間バブルぜったい必要だよ! ゆらゆらしたらアウト〜!」


ステーションから伸びた制御アームが、黒い渦から採取して魔導フレームを構築していく。

魔力制御装置と空間バブル展開機構が、同時並行で組み立てられていく。


グネル

「この“黒い渦”を核として、内部に積み込んでいく。重力ロケット“グラヴィス01”、建造開始」


ホー博士

「素材の形がないから、外殻が自律的に包み込む構造にする。これもまた前代未聞だが、可能性はある」


黒い渦の周囲を、六角構造のフレームがゆっくりと回転しながら展開され、渦の動きに合わせて同調を始めた。大質量ではわずかに回転している。


コン

「ねぇねぇ、空間バブルの初期設定、ちゃんと気をつけてね!もし失敗したら、どかーんって再凝縮しちゃって、ブラックホール化! 惑星もステーションもまるっと飲みこまれちゃうよ〜!こわい〜!」


グネル

「わかってるわ。でも、恐れてばかりじゃ何も救えない」


ホー博士

「この“大質量の渦”が、惑星を引き戻す鎖になるんだ」


建造は続いた。静かな宇宙で、黒い渦がゆっくりと“形”を持ちはじめる。

その姿は、まるで重力そのものを凝縮したような“黒い固まり”。


ホー博士

「あとは外殻の安定化。これができれば、惑星エルマティスを導く重力ロケットの片翼が完成する」


グネル

「じゃあ、もう一艘にも積み込むよ」

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