表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

第4話 巨大隕石襲来 惑星アステリアを救え

勇者ギルド星。星々を渡る冒険者たちの集まるこの拠点に、リリィたち一行は一時の休息を得ていた。


だが、その静寂は突如破られた。


勇者ギルドの長が、リリィたちを会議室に呼び出したのだ。かつて世界を救った英雄たちに託された、新たなる宇宙規模の危機。


ギルド長は、重苦しい表情で語り始めた。

「ある宇宙の辺境星系に位置する惑星アステリアに、巨大隕石が衝突する軌道が確認された。衝突までの猶予は、およそ一年。既に人族をはじめとする生物の避難が進められているが、全てを救うことは不可能だ」


ジャックが端末モニターで星図を開く。

「アステリア、古代文明の遺跡が複数確認されていたはずだ」


ギルド長はうなずく。

「そうだ。失われた技術の鍵となる遺跡も多く、放棄すれば数千年の知が失われる。だからこそ、惑星そのものを守ってほしい。クエストの報酬は勇者ギルドの最高等級で準備する」


リリィは黙って席を立ち、メンバーの頷く顔をみて言った。

「分かりました。受けましょう、このクエスト」


・・・・・


アステリア、青と緑の美しい星が、静かにその危機を迎えようとしていた。


天文観測所の魔導通信が届いたのは、1カ月前、巨大隕石が、ある宇宙の辺境星系に位置する惑星アステリアに、高速で接近していることが判明した。


惑星政府はただちに非常事態を宣言し、各都市で避難指令が出された。冒険者ギルドは勇者ギルドに連絡、避難が開始された。勇者ギルド主導で避難を開始、避難場所として多数の『天動説のようなお盆の世界』を準備し、現在、宇宙空港には長蛇の列、転移門には規制がかかり、重病人や幼い子供たちが優先的に搬送されていく。


空を覆うシャトル群と、惑星軌道上を行き交う救援船団。人々は涙をこらえながら、故郷の地に一礼して船へと乗り込んでいった。


だが、すべての命を救うには限界があった。収容可能な船は数に限り、転移魔法も一日に使用できる回数が決まっている。

地上に残された者たちは、祈るように空を見上げながら、自分たちの運命を静かに受け入れていた。


リリィ「直径は約2100km。これは、惑星を丸ごと吹き飛ばす規模ね」


ジャック「核融合パルスミサイルでも無理だ。速度が速すぎるし、断片化しても地表へのダメージは避けられない」


ガルド「じゃあ、どうする? 異世界に転移するには、この星は大きすぎるぞ」


リリィは一冊の記録書を開いた。そこには、かつて彼女たちが“重力定数の小さい宇宙”へ転移させたブラックホールの記録が残されていた。


リリィ「あのときのブラックホール、使えるかもしれないわ。そこから“かけら”を採取できれば、マイクロブラックホールを生成できるかも」


ジャック「なるほど。巨大隕石をブラックホール化させて、サイズが小さくなれば転移魔法を展開しやすい」


コモンがすかさず補足する。

「ただし、ブラックホールの“かけら”を安全に採取するには、物理結界と空間バブルの二重構造が必要です。重力ミサイルの開発もしなければ、急ぎましょう」


ガルド「爆薬じゃなくて、マイクロブラックホールを先端に仕込むんだな。面白いじゃないか」


ジャック「つまり、まとめると、隕石ごとブラックホール化させて、さらにそれを重力定数の小さい宇宙に転移すれば、惑星を救えるってわけだな。転移先は、元ブラックホールを設置した座標から数光年離れた場所にしよう。あそこは、数億光年内に何もないボイド空間だ。誰にも迷惑をかけずに済む」


リリィは小さくうなずき、仲間たちを見回す。

「決まりね。準備を始めましょう。アステリアは、必ず守る」


・・・・・・・・・・・・

◆元ブラックホールの“かけら”採取


舞台はあの別宇宙。重力定数が小さい宇宙、ブラックホールさえ星へと変わる世界。リリィたちは再びその宇宙へと転移し、元ブラックホールの黒い渦に接近していた。


ジャック「探知完了。黒い渦は安定してる。だが近づきすぎると危険だぞ」


リリィ「コモン、転移座標を調整して。ジャック、スペースメタルゴーレムで採取を」


ダンジョンコアver3.0により高度の物理結界魔法と空間固定術式によって採取するのは、元ブラックホールの黒い渦の“外縁”に浮かぶ小さなかけら、極限の密度を持つ物質だった。


スペースメタルゴーレムは精密制御を受け、ゆっくりと黒い渦の外層へと腕を伸ばしていく。空間に軋むような圧が走った。やがて、黒いかけらが浮かび上がり、結界で包まれて収容された。


コモン「採取成功。重力ノイズ、最小限に収まってる。これならミサイルの先端に格納できる」


リリィ「よし、とりあえず、それはここに置いて、帰還するわ。次はミサイルの設計よ」


・・・・・

【重力ミサイル・ノヴァの完成】


アステリアの上空に浮かぶ軌道工場。ここでジャックとガルドがミサイル設計を急いでいた。


ジャック「先端には多層式の物理結界。空間バブルの魔法陣で“かけら”の安定を維持する」


ガルド「ミサイルは三段構造。第一段階で加速、第二段階で異空間への転移、そして、空間バブルと物理結界を開放、最終段階で、巨大隕石の前で、マイクロブラックホールを生成する」


リリィ「名前を付けましょう。この武器に。敵でもなく、災害でもない。けれども力を持つ存在に相応しい名を」


ジャックがふと口にした。

「“ノヴァ”ってのはどうだ? 消えるはずの星を、重力が世界を守るってな」


リリィは微笑んでうなずいた。

「決まりね。“ノヴァ”、私たちの希望を繋ぐ、重力のかけらに」


・・・・・

【作戦実行当日】


宇宙空間に展開された転移魔法陣が起動し、既に弾頭に黒い渦のかけらをセットした重力ミサイル・ノヴァが別宇宙にへと吸い込まれた。転移座標は、巨大隕石の目前、全ては、計算と一瞬のタイミングにかかっていた。


コモン「座標一致、成功。転移完了。ミサイルは予定位置に転移」


ジャック「外殻解除、空間バブルと物理結界の解放まであと三十秒」


リリィ「“ノヴァ”、今こそその力で、この星を、守って」


ミサイルの先端が開き、超重力がひび割れるように広がる。マイクロブラックホールが発生、隕石を引き伸ばし吸い込み始めた。


静かに、ゆっくりと、確実に。隕石の巨大な質量が砕け、ねじれ、光を吸い込みながら消えていく。直径数十メートルのブラックホールへと変貌していく。


コモン「反応確認、全質量吸収完了!」


・・・・・・・・

【大転移門・展開】


グネルが即座にダンジョンコアver3.0を操作する。


ガルド「空間座標固定、大転移門、展開!」


新ダンジョンコアver3.0が空間を裂き、別宇宙への大転移門を開いた。

目標は、重力定数の小さい、異宇宙だ。


ブラックホール化した元巨大隕石は、大転移門へと吸い込まれていった。


【転移先・重力定数の小さな宇宙】


リリィ「転移先の様子を見ましょう」


虹色の風パーティは観測宇宙船ごと転移した。


そこは、重力定数が小さく、ブラックホールが存在できない宇宙だ。転移直後、生成されたばかりのブラックホールはさらに変化を始めた。重力場が崩壊し、黒い渦のような形へと移行していく。


マーガレットが静かに見つめながら言った。

「変わっていくニャ。あれは、もうブラックホールじゃないニャ」


リリィは即座に指示を出した。

「結界展開。物理結界であの黒い渦を封じ込めて」


コモンがダンジョンコアver3.0で素早く物理結界を起動し、黒い渦を囲んだ。ホー博士と連携して、空間座標と結界展開範囲を固定した。


十数秒後、透明な球状の物理結界が黒い渦を完全に包み込んだ。


グネルが結界の安定を確認し、報告する。

「物理結界、展開。内部空間、外部空間から完全遮断完了」


ガルドが腕を組んで頷く。

「これで、あの黒い渦が暴れても、どこにも影響は出ねえな」


ジャックも端末を見ながら続ける。

「念のため、二重、三重の結界を張っておこう。念には念をだ」


リリィは、漆黒の渦を静かに見つめながら言った。

「これで、アステリアも、周辺星系も救えたわ」


リリィ「元の宇宙に帰りましょう」


観測宇宙船ごと転移。


アステリアの大地には、青空が戻っていた。

天文観測所の魔導通信が、衝突の危機が完全に消滅したことを告げている。


リリィ「やったわ。これで、人々も文化も遺跡も守られた」


ホー博士が静かに言った。

「ノヴァは、もう単なる兵器ではない。未来を変える魔道具になった」


・・・・・・・・

◆重力ミサイルを巡る賛否


作戦は成功した。惑星アステリアは救われ、古代文明の遺産も無傷で残された。


だが、静かな勝利の裏側で、リリィたちは新たな波を迎えていた。


それは“ノヴァ”を巡る、ギルド内部の意見対立だった。


【作戦後の会議】


勇者ギルド本部の戦略会議室。

中央ホログラムには、“ノヴァ”の重力波記録と、作戦時の転移ログが再生されていた。


リリィは立ち上がり、堂々と語り始めた。

「このマイクロブラックホールの技術、今後の宇宙災害を防ぐ鍵になります。制御と管理を徹底すれば、同様の天災に対抗できるはずです」


一方、保守派のギルド幹部たちは顔を曇らせていた。


幹部A「冗談ではない。この力は破壊の極致。いかなる管理体制を整えようと、一度暴走すれば文明ごと飲み込む」


幹部B「敵対勢力に奪われた場合、星系全体が一夜にして消し飛ぶ。危険すぎる兵器だ」


コモンが静かに反論する。

「でも、それを恐れて封印してしまえば、再び来る災厄には何もできません。管理体制と使用条件の厳格化を前提に、知識と技術として保つべきです」


リリィ「私たちは、武器として重力ミサイル“ノヴァ”を作ったんじゃない。選択肢を増やすために作ったの。それを無かったことにするのは、私たちの未来を捨てるのと同じよ」


幹部C「だが、それが新たな戦争を招く可能性もある」


【議論の果てに】


会議は紛糾し、一時中断された。

翌日、ギルド長自らが全体を前に口を開いた。


ギルド長「“ノヴァ”は力だ。その扱いを誤れば滅びを招き、正しく使えば希望となる」


ギルド長はリリィたちに向き直った。

「リリィ、お前たちに問う。お前たちは“ノヴァ”の保有者として、この技術をどう扱うのか。いずれ、各方面からも問われることになるだろう」


リリィは一歩前に出て、真っ直ぐに答えた。

「“ノヴァ”は兵器ではなく、可能性です。私たちが先に恐れるのではなく、先に希望を見せていく。その責任も、私たちが背負います」


静まり返る会議室の中で、その言葉だけが重く響いた。


こうして、「マイクロブラックホール作戦」はあまりに大きな力ゆえに極秘情報扱いとなった。


重力定数が小さく、かつてブラックホールだった天体が星へと変わる別宇宙の座標。元ブラックホールがバラバラになり崩れた、巨大な黒い渦の座標。巨大隕石が変化しブラックホールを経て巨大な黒い渦となった座標。技術はマニュアル化はせずに、全てを極秘扱いとした。知る者は勇者ギルドの上層部の一部だけとなった。


・・・・・・・・

◆星を救った者たちの祝賀会

作戦は成功した。

惑星アステリアに迫る巨大隕石は完全に消滅し、地表にも空にも、その爪痕ひとつ残されなかった。


今、アステリアの空は再び晴れ渡り、各都市では避難していた人々の帰還が始まっていた。


かつて滅亡寸前だったこの星は、今、ゆっくりと日常を取り戻しつつある。


そして、


アステリアの首都オルセアにある大広場で、勇者ギルド主催の祝賀会が盛大に開かれていた。


銀の幕がはためき、空中には魔法の光で彩られた星々が舞う。

各国の代表、研究者、子供たち、冒険者、そしてアステリアの人々が、広場を埋め尽くしていた。


リリィたちは最前列の円卓に招かれ、銀の装飾を施した勲章を胸に受け取っていた。


ギルド長が壇上に立ち、魔法拡声器で声を響かせる。

「皆の者、この星がこうして息づいているのは、目の前にいる『虹色の風』パーティのおかげだ! 彼らの勇気と知恵、そして何より“諦めなかった意志”に、盛大なる喝采を!」


無数の拍手と歓声が広場を包む。

夜空には祝福の花火が、静かに打ち上がった。


その夜、祝賀会の裏で、静かな場所に集まっていたのは、いつものメンバーだった。


リリィ、ジャック、コモン、ガルド、そしてホー博士。


川沿いのテラスで、それぞれにグラスを手にしていた。


ガルド「星ひとつ、救った実感がまだ湧かねえなあ」


コモン「ブラックホールのかけらの威力は確認済みだ。納得せざるを得ない。」


ジャック「でもまだ、あれを完全に制御したとは言えない。今回うまくいったのは、運が良かった」


リリィ「その分、期待も責任も大きくなるわ。もう“冒険者”ってだけじゃ、済まされないわね」


リリィは、広場に集う人々の笑顔を見つめながら、静かにうなずいた。

「私たちが守ったこの光景が、次の星でも、次の時代でも続いていくように。“ノヴァ”を厳密に管理していきましょう」


風が吹き、花火の残光が空にゆらめいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ