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第3話 迫るブラックホールの危機 救えナシム連星系

◆空間バブル魔法の誕生 

研究室の奥で、ホー博士はひときわ光る魔法陣を前に静かに立っていた。

黒く重たい鎧をまとった「闇将軍」の死体が、魔道装置の上に横たわっている。その胸には緑色の光を放つ魔道具の欠片が埋まっていた。


ホー博士「これはただの魔道具ではないな。空間そのものの理を作り出す構造になっている。いわば、独立した宇宙の縮小模型のようなものだ」


グネルがその傍らで膨大な魔導式を記したノートを広げ、真剣な眼差しで答える。


グネル「上位結界神器。その内部にいる限り、あらゆる攻撃を遮断できる。空間を守られる設計だった」


コンは死体の周囲をくるくる回りながら、興味津々で質問を投げかけた。


コン「ねえねえ、この人って前に虚無空間に送ったやつだよね? なんで戻ってこられたの?」


グネル「この神器があったからだ。虚無には時間も空間もないが、この結界は自らの中に宇宙を構築し、居場所を作り出す。だから外界の影響を受けずに存在し続けられたんだ」


ホー博士「つまり、自分だけの宇宙を結界内に持ち込んだということか。興味深い理屈だ」


グネル「ただし、闇将軍は攻撃のために自ら結界を解いた。その瞬間、リリィたちの攻撃を受けて敗北した」


コン「なーんだ。無敵なのに、わざわざ解いちゃったのか。ちょっともったいないよね」


グネル「この神器の構造を参考にして、魔法陣を解いて一般化した。持続時間は短くても、ある程度の防御性能を持たせることができた」


グネルは手を掲げ、指先に魔力を集中させると、彼の周囲に半透明の球体が現れた。外気を遮断し、淡く揺らめくその泡は、まるで小さな空間を閉じ込めているかのようだった。


グネル「空間バブル魔法。内部にいる者を、物理的・魔法的に保護する。短時間だけならば、大気制御や毒物遮断にも使える。緊急避難にも応用可能だ」


ホー博士「すばらしい。宇宙港での事故対策、医療環境の封鎖区域としても使える。研究所でも役に立つだろう」


コン「じゃあプリン専用のバブル作ってもいい? 完全密閉して絶対に腐らないやつがいいな。おかわりしても風味が変わらないやつ」


グネル「構造次第では食品保存にも応用できる。熱も湿度も調整可能だ」


コン「やったー! コンのバブル・プリン部屋つくるー!」


ホー博士は笑みを浮かべ、闇の生物の持ち物から生まれた技術が、日常の平和や便利さにつながる未来に思いを馳せた。


その時、研究員の一人が隣の作業台から報告にやって来た。


研究員「博士、スペースキングワームとスペースデビルワームの死体から採取した外殻ですが、想像以上の物理耐性と魔法耐性を示しています。新素材候補として試験を進めています」


ホー博士「ほう、あの宇宙域で生きていた巨大な虫たちか。それなら、宇宙施設の外装材としても最適かもしれん。いろいろな施設の強化にも使えるだろう」


グネル「魔力の流れを遮断せず、反射特性もある。武具や装甲材としても応用可能だ。うん、戦闘用ゴーレムの外骨格にも試験導入してみよう」


こうして、異星の怪物たちの死骸から生まれた超耐性素材は、新たな技術の可能性を拓いていった。


ホー博士「まさに、災い転じて福となすだな」


・・・・・・・・・・・・


◆迫るブラックホールの危機 


場所は、勇者ギルド星 ギルド長執務室。


荘厳な大理石の壁に囲まれた執務室では、天井近くにまで広がる魔法の地図が、宇宙全域に点在する惑星系を煌めく光点で示していた。

中央の卓に立つのは、漆黒のローブをまとった竜種の男、勇者ギルド長である。鋭い目を細め、地図上のある星系を凝視していた。


ギルド長「来たか」


足音とともに扉が開き、リリィたち6人が姿を見せた。


リリィ「急な招集、失礼します。何か問題でも?」


ギルド長は黙ったまま、手元の魔法端末を操作し、一つの星系を拡大表示した。周囲の空間が微かに揺れ、赤い警告表示が浮かび上がる。


ガルド「重力歪曲? 星系の重心が乱れてる。これは」


ジャック「ブラックホールだな。しかもかなりの質量だ。これが星系に接近してるとなると、惑星の軌道が持たない」


ギルド長が口を開く。


ギルド長「この星系は、ナシム連星系。人口三十億。魔法文明が進んだ領域だ。各惑星に冒険者ギルドはあるが、もちろんブラックホールには対応できん。それに退避だけでも数年はかかる」


リリィ「この規模の災害、回避は無理でも、ブラックホールを空間転移で避ける余地はあります」


ギルド長「だからお前たちを呼んだ。既に星系の中核、第三惑星は重力の影響を受け始めている。余裕は、ない」


コモン「三十億人の転送ルートを確保しないと。分身を複数送り込めば、現地の政府との調整もできるはず」


マーガレット「ニャ。未来の私からのメッセージによると、重力波の増幅が予想より早いニャ。あと数週間で重大な影響が現れる可能性が高いニャ」


クロシャ「諜報網はすぐに動かそう。地上にいる敵性勢力やパニック誘導を狙う集団は排除しないといけない。あとは現地の行政が混乱しなければいいが。」


ギルド長は全員を見渡し、重々しい口調で言った。

「無茶ぶりなのは分かっているが、君たちしかいない。なんとか救ってくれ」


リリィは一歩前に出て、ギルド長にまっすぐ視線を向けた。

「了解しました。この惑星系、守り抜きます。どんな手を使ってでも」


ギルド長はわずかに頷いた。

「これがクエストだ。ブラックホールに飲まれる運命を、跳ね返してくれ」


重苦しい空気の中、6人は無言で頷き、執務室を後にした。


・・・・・・・・・・・

◆作戦会議 ブラックホール転移作戦


【ナシム連星系の第3惑星ムロウ 軌道ステーション・仮設作戦本部】


軌道ステーションのガラス越しに広がる惑星ムロウの大地は、まだ青と緑の輝きを放っていた。だがその美しさの裏で、ブラックホールが近づいたことによる異常気象で気温上昇が進行し、干ばつと森林火災が各地で報告され始めている。


会議室の円卓には、リリィ、ジャック、ガルド、コモン、マーガレット、クロシャが座り、その対面には勇者ギルドの星拠点から合流したホー博士、グネル、コンの姿があった。


会議室の壁面に映し出された宇宙マップには、星系に近づくブラックホールの位置を示していた。


リリィたちは、すでに複数の対策案を検討していた。だがどれも、惑星を救うには無理があった。ブラックホールの重力には歯が立たない。


ホー博士が静かに語り始めた。

「私はかつて、“重力定数の異なる宇宙”に関する資料を調査したことがある。理論だけではなく、実際の観測記録が残っていた。」


ジャック「観測できたのか? 別の宇宙を?」


ホー博士「次元望遠鏡で、一度だけその宇宙をみたことある。そこでの重力定数は、地球基準の10000分の1以下。あの世界では、ブラックホールは存在しえない。形を保てない」


ガルド「つまり、ブラックホールをその宇宙に転送できればいいのか。」


ホー博士「ブラックホールとしての存在を維持できず、構造が崩壊し、ただの重い星となる。理論上は、災いの元を無力化できる」


ジャック「だが問題は二つある。まず、あの質量の塊をどうやって“封じ込めるか”。そして、その宇宙へどうやって送り込むか、だ」


グネル「空間バブル魔法が使える。以前、闇将軍の神器から抽出した魔法陣から編み出した空間バブル魔法が使える。ブラックホールを覆うほどの巨大な“空間バブル”を形成すれば、外界との干渉を遮断できるはず」


コモン「宇宙空間に直径数千キロの魔法陣を展開する必要がある。そのために、ダンジョンコアを複数連動させ、巨大な転移門を構築する」


クロシャ「俺が先行して宇宙空間にコア設置部隊を送り込む。外敵の干渉は最小限に抑える」


リリィ「転送ゲートの展開には、丸い構造がいいね。空間の歪みを均等に分散できるから。」


ホー博士は水晶端末を天井にかざし、投影したイメージを指さした。

「これが、空間転移門。直径2000kmの円環型ゲートを宇宙空間に浮かべ、そこに空間バブルで包んだブラックホールをくぐらせる。送り先は、“重力定数の低い宇宙”だ」


ジャック「送られた時点で、あいつは崩壊を始める。最初は不安定化、そして構造の分解。こちら側には影響が残らない」


マーガレット「ニャ、ナシム連星系への影響も出ないニャ。理想的な処理方法だニャ」


リリィ「これで決まりね。魔法と科学の総力をかけた、宇宙最大の引っ越し作戦よ」


全員の表情に緊張と覚悟が浮かぶ。


リリィ「明日から、コア設置を開始。三週間以内に空間バブル結界と転移門を完成させる。これは、宇宙の運命を変える戦いになる」


・・・・・・・・・・

◆結界展開 巨大転移門完成


【ナシム連星系外縁】


深宇宙の闇を裂くように、無数の青い線が宙を駆け巡っていた。

それは魔力で描かれた光の筋であり、百を超えるダンジョンコアから放たれ、巨大な魔法陣を形作っていた。


そこは、ブラックホールと最も近づく軌道上。

だが、星の光すら飲み込むその“災厄”の姿は、いまや目視では捉えられない。周囲の星々の軌道が歪み、磁場が乱れ、時間の流れさえ微妙にずれている。

そんな空間で、かつてない作業が進行していた。


グネル「ネットワーク安定。空間バブル結界の基礎構造が完成する」


軌道ステーションの主制御席で、グネルが歯を食いしばりながら魔法制御陣の出力を確認していた。


グネル「あと十分。十分間、魔力の流れを一秒たりとも乱せば、結界全体が崩壊する」


ガルドは隣の席で、重力波観測値をにらみながら応えた。

「ブラックホールの外縁がこの魔法陣内に入った。予測より三分早いぞ。最終展開を急げ」


【軌道ステーション】


遠く離れた惑星の軌道ステーションでは、ホー博士が、魔法通信を通じてリリィたちと連携を取っていた。


ホー博士「こちら軌道ステーション、魔力出力、安定域に入った。空間バブル展開に必要な魔素量、確保済み」


ホー博士の背後には、かつて彼が研究した“別宇宙”の転送座標が、水晶パネルに複数重なって表示されている。


ホー博士「転送先は、かつてダンジョン探査中に接続された重力定数0.008の宇宙。そこでは、質量を持つ天体の構造は極端に不安定で、ブラックホールは存在できない」


【ナシム連星系/軌道ステーション・仮設司令室】


リリィは司令卓の前でホログラムを睨み、各パートの進捗を確認する。

マーガレットが肩越しにデータを読み上げる。


マーガレット「結界展開率、現在92パーセントに達したニャ。空間バブルが完全球を形成しつつあるニャ」


コモン「ゲートの周囲にも、座標のずれは見られない。転移門の起動準備に入るよ」


クロシャ「外敵反応なし。ただし、引き潮のように周囲の小惑星が吸い寄せられている。あと二時間が限界だ」


リリィ「よし、最終フェーズに移る。巨大転移門起動、空間の座標固定を開始して」


【巨大転移門出現】


全てのダンジョンコアからの魔力線が集束し、やがて空間の一点に巨大な“歪み”が生まれた。

そこに、星の輪郭のような発光が走り、徐々に“門”の形が現れていく。直径2000kmの円環状の構造体。ゲートの中心には、真っ黒な渦が見えていた。深く、しかし静かな虚空だった。


グネル「巨大転移門、完全展開。空間位相の歪みなし。転移経路、開通」


ガルド「転送開始。空間バブル展開、進路維持」


ステーション全体に緊張が走る中、リリィは全体通信を開いた。


リリィ「いま、この瞬間。全員、集中を」


【空間バブル/ブラックホール封印作業】


魔法陣の中央、空間バブルがついに完成した。

ブラックホールを包み込むそれは、淡く青白い半透明の球体。

中に潜む災厄の姿はほとんど見えない。ただ、空間そのものがうねっているのが見えた。


ガルド「重力波、遮断完了。バブル内部の空間、安定化確認」


マーガレット「転送門、揺れなし。いつでも通過可能ニャ」


グネル「いける。いまだ。くぐらせろ!」


コモン「進行ルートに魔力誘導照準、完了!」


リリィ「よし、転送開始!」


【転送の瞬間】


空間が鳴動した。

バブルに包まれたブラックホールが、ゆっくりと巨大転移門へ進んでいく。

接触の瞬間、ゲートから光が吹き上がり、時空が震えた。

深宇宙の向こうに吸い込まれるようにして、あの災厄が、姿を消していった。


十秒後、空間が静まり返る。


ガルド「転移完了。座標からの再帰信号、なし。完全転送を確認した」


ホー博士「転移したブラックホールは、空間バブルを解除して、物理結界で維持している。あちらの宇宙でブラックホールが変化し始めている。成功だ。本当にやり遂げた」


リリィは、全員の顔を見てから静かに言った。

「みんな、お疲れ様。成功したわ」


崩壊寸前だった星系を救い、宇宙の災厄を無力化する。

それは魔法と科学の、ひとつの到達点だった。


・・・・・

◆黒い渦の静寂 転送先宇宙の観測記録


【重力定数の低い宇宙 建造宙域A16】


そこは、かつてない静寂に包まれた空間だった。

地球の物理法則が通用しないその宇宙は、重力定数が通常の宇宙の10000分の1以下という極限環境だった。


人工的に構築された観測ステーションから、ホー博士たちは黒い渦を見つめていた。


空間の中心で、黒い霧のようなものが、ゆっくりと回転している。その回転には力強さも速さもない。ただ静かに、緩やかに、そこにあるというだけだった。だがそれが、かつてナシム連星系を脅かした“ブラックホール”の成れの果てであることを、誰もが理解していた。


ホー博士「これが、元ブラックホールの姿。重力定数が極端に低いこの宇宙だからこそ、このような黒い渦の姿で“存在”していられる」


グネルは、観測パネルのデータを食い入るように見つめながら言葉を継いだ。

「まるで、時間が止まってるみたい。でも、あの黒い渦、ただのガスじゃない。一つ一つの粒子が、想像もできないほど重い。あれを扱うなんて、とほうもないことよ」


ホー博士「だからこそ、この宇宙を選んだ。通常宇宙でこんなものを扱ったら、一瞬でブラックホールに逆戻りして、星系ごと消えていただろうな」


ホログラムの解析図では、黒い渦の中心にごくわずかな引力の歪みが観測されていた。

引力そのものは極めて小さいが、渦の内部の密度は異常だった。地球の中心核を何十層にも重ねたような圧縮状態。にもかかわらず、この宇宙では拡散も崩壊も起きない。


コンが通信越しに明るい声で報告を入れる。

「えっとえっと〜、渦の密度は、地球のど真ん中の1億倍くらい重いっぽい! それにね、ここならず〜っと安定してるけど、他の宇宙に持ってっちゃうと、めちゃくちゃ危ないから、物理結界はぜったい必要だよ! ゆらゆらしたらアウト〜!」


グネル「物理結界を解いた瞬間、重い粒子が拡散されてしまう。それはとても危険だ」


ホー博士「そうだな。物理結界が、重い粒子を押さえ込んでいる。」


観測ウィンドウ越しに広がる“静かなる災厄”。

そこにはもはや重力の暴走も、時間の歪みもない。

ただ、濃縮された質量が、漂っていた。


ホー博士「この成果を地球に持ち帰るわけにはいかない。封印したまま、ここで保管し続けるしかない。だが、同時にこれは、ブラックホールを制御する技術の第一歩でもある」


グネル「まさか、こんな形で“災厄”を飼いならすことになるとはね。まったく魔法と科学ってやつは、どこまでも際限がない」


ホー博士「そうだな。今はまだ道具にはできないが、いずれ、あの黒い渦を利用できる技術を開発しよう」


観測チームは慎重にモニタリングを続けながら、静かに宇宙を見守り続けた。

・・・・・・・・・・・

◆クエスト完了報告

勇者ギルド星・本部

ナシム連星系の作戦を終え、リリィたち『虹色の風』は、完了報告のため勇者ギルド本部へと転移した。

まだ、多少の疲労を見せながらも、誰もが晴れやかな表情をしていた。


本部の執務室で、ギルド長が待っていた。

竜種の血を引く堂々たる姿は、静かな威厳を放っている。


ギルド長はリリィたちを迎えると、ゆっくりと頷いた。

「よくぞ戻ったな。ナシム連星系のブラックホール封印、完全成功と聞いた」


リリィは一歩前に進み、静かに報告した。

「はい。作戦は完了しました。ブラックホールは別宇宙へ転移、星系の軌道も安定を確認済みです」


グネルが続けた。

「空間バブル結界と巨大転移門の起動も問題なく、転移先の観測ステーションで確認できました」


ギルド長は深くうなずいた。

「見事だ。君たち『虹色の風』は、またひとつ星系を救った。」


マーガレットがにっこり微笑んで付け加える。

「本当によかったニャ、住人みんな、きっと喜んでるニャ~。」


コモンは少し肩をすくめた。

「まあ、派手だったけどな。でもこれで、星系ひとつが救われたってわけだ」


ガルドも腕を組み、豪快に笑った。

「おかげで、また救助テクが増えたってもんだな」


ジャックはデバイスをちらりと見ながら、冷静にまとめた。

「被害なし。転移エネルギー効率も予測通り。最高の結果だな」


ギルド長は静かに手を掲げた。

「その働きに対し、正式に勇者ギルド本部から、最大級の表彰と感謝を送る。そして、」


彼は改めてリリィたちを見渡し、口元に微笑を浮かべた。


ギルド長「星系連合国からも連絡が来ている。彼らは今回の功績を称え、祝賀会を開催するそうだ。もちろん、『虹色の風』の全員に、招待状が届いている。」


コンが嬉しそうに跳ねた。

「祝賀会っぽい! いっぱいごちそうあるっぽい!」


マーガレットもくるりと回りながら声を弾ませた。

「楽しみニャ~。おめかししなきゃニャ」


ガルドはにやりと笑った。

「宴か、久しぶりに盛り上がるな」


リリィは仲間たちを見渡し、微笑んだ。

「じゃあ、みんなで行きましょう。


・・・・・・・・・・・

◆光の祝宴 星系連合国首相スピーチ

【ナシム連星系 第3惑星ムロウ エルマティス首都広場】


夜空を照らすのは、人工衛星の灯りではない。

それは、救われたこの星に住む人々が、自らの手で放った光の祝福、魔法花火の光だった。

広場を彩る色彩は、感謝と歓喜、そして平和への祈りを込めて、空を染め続けていた。


子どもたちは光る風船を追いかけ、魔導スイーツの屋台が立ち並ぶ。笑い声が絶えず響き、大人たちも音楽に合わせて踊り出す。誰もが、生き延びたこの瞬間を全身で楽しんでいた。


その中心に、リリィたちの姿があった。


コンは屋台で大忙しだった。

「これが〜、僕が作った『無重力プリン』だよ! 舌の上でとろ〜って消えるんだ〜! おかわりもあるよ〜!」


子どもたち「わー! すごーい! ふわふわだー!」


マーガレットは猫耳を揺らしながら、魔法で花火に星型の光を足して子どもたちを喜ばせていた。


マーガレット「願いごとをこめてごらんニャ〜。きっと、星が叶えてくれるニャ」


ジャックとコモンは魔法トリックショーを披露し、ガルドは風船を魔法で飛ばして遊んでいる。


ガルド「ほらっ! 今度は鳥の形だぞー!」


リリィはその光景を静かに見守っていた。


やがて、壇上に立ったのは星系連合国の首相、カーリス・エンデル。

彼は静かに視線を広場全体に巡らせ、ゆっくりと口を開いた。


カーリス首相

「国民の皆さん、今夜、私たちは歴史の節目に立っています」

「かつてこの惑星は、無慈悲なる重力の奔流――ブラックホールの接近によって、確実な終焉の淵にありました。空は裂け、大地は軋み、時さえ歪んだ。誰もが心のどこかで、“終わり”を覚悟していたのです」


「しかし、私たちは運命に抗いました。希望を捨てず、知を集め、勇気を重ね、未来を選び取った。この勝利は偶然ではなく、誇るべき意志と犠牲の結晶です」


「異世界から集った英雄たち。リリィ隊長とその仲間たち。

そして、科学と魔法を繋げ、未知の技術を生み出したホー博士と研究陣。

あなた方の献身が、我々の空を取り戻したのです」


広場に、万雷の拍手が響いた。

リリィたちは控えめに一礼し、観衆の祝福に静かに応えた。


カーリス首相

「今ここに灯る光は、ただの祝宴ではありません。これは、“文明の誇り”そのものです。

我々は恐怖に屈することなく、未来を信じる選択をした。

そして今日、この広場の笑顔が、その選択が正しかったことを証明してくれています」


「ナシム連星系は、もはや孤独ではありません。星を超え、世界を超えて、私たちは手を取り合った。

この経験を礎に、我々は真の平和と共栄を築いていくと、ここに誓います」


その言葉に応えるように、再び拍手と歓声が湧き上がる。

だがそれは儀礼ではなく、心からの共鳴だった。


そして、夜空に最後の魔法花火が打ち上がった。

かつてのブラックホールを模した黒い球が、高く、高く昇り、やがて七色の光となって砕けた。

星々のように広がるその残光は、この星に新たな物語の始まりを告げていた。


リリィ(心の中)

「守りたかったのは、この笑顔。この夜が、未来の光になる」


静かに舞う星の光の下、祝宴は夜遅くまで続いていった。

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