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第2話 赤き巨星を若返らせよ アルデバラン救出作戦

「アルデバランの恒星活動が不安定化しています。観測記録によれば、赤色巨星化の末期段階にあります。約1年以内に、惑星圏の半分以上が飲み込まれる見込みです」


会議室の空気が重く沈む中、ホログラムに投影された赤く膨張した恒星が、ゆっくりと軌道内の惑星に迫っていた。


コモン「アルデバラン星系、ⅠとⅡはすでに外縁部の大気が剥がれています。Ⅲの文明は勇者ギルドによる避難を始めていますが、全員を救うのは時間的に不可能です。」


リリィ「それなら、恒星そのものを、なんとかするしかないわね」


ガルド「は?恒星をなんとかするって、無茶にもほどがあるだろ」


ホー博士が静かに手を上げる。


ホー博士「いや、可能性はある。恒星が赤色巨星化するのは、中心の水素を使い果たし、鉄を中心に抱えて核融合が止まるからだ。ならば、水素を補給し、鉄を抜けば、恒星は若返るかもしれない」


ジャック「つまり“星の点滴と外科手術”ってわけか。なるほど、理屈は通る」


ガルド「でも、水素はどこから?何兆トンってレベルだぞ」


コモン「アルデバランⅤは巨大ガス惑星で、大量のメタンを含んでいます。錬成魔法で炭素を外して水素だけ取り出せば供給源になりませんか。」


リリィ「その水素を、転送魔法で恒星に注ぎ込む。そして、ジャックとガルドで中心の鉄を異空間に転送する。うまくいけば星を救えるわね。」


ホー博士「これは前例のない試みだ。だが、成功すれば恒星の寿命を数百万年単位で延ばすことができる。」


リリィ「うん、決まりね。赤き星を、若返らせる!」


・・・・・・・・・・・・・



◆水素の川を星に注げ


作戦決行まで、残された時間はわずか200日。アルデバラン星5番目の巨大なガス惑星の上空に、リリィ達が用意した錬成プラント型ゴーレム群が集結していた。


リリィ「ここの大気はメタンが主成分、星そのものが水素の海みたいなものね」


コモン「衛星軌道に構築した“水素錬成プラント型ゴーレム”は全て準備完了。メタン吸引、水素錬成抽出、炭素抽出の流れはテスト済みだ。スムーズにいけるはずだ。」


ジャック「除去する炭素は貴重な資源だ。固形化してダンジョン内に保管しておこう。」


リリィ「問題は、水素を“恒星まで安全に届ける”ルートね。そのまま一気に恒星まで流すわけにもいかないわね。コントロールして均一に恒星表面にばらまかないといけないわ。」


ジャック「水素錬成プラント型ゴーレム100体を惑星に設置して、それぞれで作った水素を転移陣でひとつの“中継ダンジョン”にまとめる。その中継ダンジョンと、恒星の近くにある“供給ダンジョン”を転移経路で繋ぐことで、太くて安定したパイプラインのような構造が完成する。


そして、恒星近くには1000体のスペースメタルゴーレムを配置して、水素の“出口”にする。そこから恒星に向けて、均一に水素を送り込むんだ。そういう仕組みだよ。」


ジャック「水素錬成プラント型ゴーレム100体とスペースメタルゴーレム1000体は俺が用意しよう。」


ガルド「それぞれのゴーレムの配置は俺がやる。」


コモン「ダンジョン間の転移経路、パイプラインの構築は私がやろう。10億キロ先の恒星まで、つなげよう。コン、手伝ってくれ。」


コン「了解です。」


リリィ「まだまだ時間は十分にあるわ。やりましょう。」


【錬成魔法による水素生成】


 巨大ガス惑星アルデバランⅤの大気を、水素錬成プラント型ゴーレム100体が吸い上げていた。衛星軌道上には、巨大な水素貯蔵用ダンジョンが展開されている。


コモン「水素錬成ラインA、安定供給中。メタン分解率97.8%。水素回収効率、目標超えた。」


ジャック「よし、水素供給に合わせて、“恒星までの転移経路”も稼働しよう。」


リリィ「気を抜けないわね。水素の注入タイミングを間違えれば、恒星が不安定化して暴走すると逆効果になるわ。」


【ガルドの転送魔法:星を繋ぐ魔力のチューブ】


宇宙に新ダンジョンコアver3.0で作った巨大転移魔法陣が展開されていた。直径1000km級の大きさだ。


ガルド「惑星から恒星までの転移魔法陣発動!パイプライン、繋がったぞ!」


リリィ「ありがとう、ガルド。これで、大量の水素が恒星を若返らせるわ」


ホー博士「これで錬成した水素を恒星のコロナ圏へ、直接注入できる」


ガルド「恒星側のスペースメタルゴーレム、全て配置完了した。テストも良好だ。」


マモル「送るぞ!第1便、水素放出開始!」


【恒星注入の開始】


アルデバラン、紅く膨張した巨星の外縁部へ、転移魔法によって“水素”が注がれる。


ジャック「注入成功。外層に一時的な温度上昇が観測された。コロナ活動が安定化している!」


コモン「恒星内の水素融合反応が、再活性化の兆候を見せている!」


ホー博士「やった。少なくとも、恒星は“死”から遠ざかっている。これで、延命の可能性は一段と高まった」


コモン「でも、まだ不安定。中心部の鉄を取り除かないと、恒星は本当に若返らない」


リリィ「次のステップに進みましょう。今度は、“星の心臓”に手を入れる時よ」


・・・・・・・・・・・・

◆星の心臓を穿て


アルデバランの外層は、水素供給によって一時的に安定していた。

しかし、恒星内部にはまだ“死の兆候”超高温の鉄プラズマ核が存在していた。


燃料の水素が少なくなると、なぜ巨星になるのか?


中心の水素が燃え尽きる→中心での核融合が止まり、放射圧が弱くなる→中心部が重力で収縮し始める→中心部が収縮すると、周囲の温度と圧力が上昇する→中心“の周辺(殻)”で水素殻燃焼が始まる→外側に向かって強いエネルギーと熱が放出される。


中心は縮む(=圧力減少)→周囲で代わりに燃える(=圧力が外向きにかかる)→ 外層が膨張して星全体が巨大化する。これが「赤色巨星が大きくなる理由」。


ホー博士「水素の再注入で表面は落ち着いたが、中心部には“鉄のプラズマ核”が残っている。これが膨張の原因だ。除去しない限り、いずれまた拡張する。」


リリィ「鉄を取り除けば、星は本当に若返るのね?」


ホー博士「そうだ。ただし、問題はその“中身”。鉄は液体じゃない、光る炎のようなプラズマ状態で核を満たしてる。普通の手段じゃ触れられない。」


ジャック「それを魔法の“ダンジョン空間”で段階的に包み取り、時間をかけて少しずつ転移する。急ぎすぎれば恒星全体の重力バランスが崩れてしまう」


コモン「了解。転送制御の補正システムは俺が担当するよ。鉄の量と重力データに応じて、自動で転移量を調整していく。」


リリィ「それでは開始しましょう!」


【恒星コアへのダンジョン展開】


直接は見えないが、ダンジョンコアver3.0を恒星コア近くに複数配置してコア状態がリアルタイムにモニターに映し出される。


アルデバランのコロナ圏に、魔法陣が広がる。魔力による空間スリットが、中心核の周囲にゆっくりと重ねられていく。


ジャック「中心核の構造確認。鉄プラズマの密度は安定。転移領域、まずは直径200kmから切り取る」


コモン「重力の影響範囲、フィードバックで補正済み。転移継続。これなら続けられる」


コモン「鉄プラズマを宇宙空間で一度冷やしてマグマ状態にしてからダンジョン内に保管していく。スタンバイ完了。転送したマグマ鉄は、ダンジョン内で浮遊状態のまま保存していく」


ホー博士「焦るな。これは“外科手術”じゃない。“代謝治療”のようなものだ。ゆっくりでいい。星が自分の形を取り戻せるよう、じっくり付き合うつもりでな」


【段階的な鉄プラズマの抽出開始】


リリィ「転送開始!フェーズ1、コア領域端部のプラズマを取り込み!」


コモン「第1断片、転移成功。質量1億トン。恒星内部に圧力の波形変化あり、縮小傾向!OK、重力バランス更新。次の転送まで15時間後に調整して再起動」


ジャック「うまくいってる。星が“呼吸”してるみたいだ。取り出すたびに、少しずつ身をすぼめていく」


【数百回にわたる分割転移ののち】


数週間に渡って行われた鉄プラズマの抽出は、慎重に、着実に進んでいった。

そのたびにアルデバランはわずかに縮み、熱放出が穏やかになっていった。


ホー博士「最終段階だ。残る中心核の鉄プラズマ、総量2%。これを処理し終えれば、恒星は再安定する」


ジャック「最終転送準備よし。コモン、システム側OK?」


コモン「問題なし。今のタイミングがベスト。ラスト行こう!」


ジャック「転移、開始!」


【恒星の再生】


最終断片の鉄プラズマが静かに宇宙空間に吸収、冷却、そしてダンジョン空間へと吸収されたその瞬間、アルデバランの光は少しだけ、白く輝きを増した。


コモン「観測データ更新。コロナ温度、安定。膨張停止確認。恒星半径、収束中!」


ホー博士「やった。恒星が若返った。今の状態なら、あと数百万年は寿命を延ばせる」


リリィ「よかった。これで、この星系の命も、未来も守れた」


ジャック「完全成功だな。」


マーガレット「素晴らしい瞬間に出会えて、最高ニャ」


ガルド「星の中の“炎の心臓”を抜き取って若返らせる。もはや、神業ってレベルだな」


こうしてリリィたちは、慎重に、確実に恒星の“再構築”を成し遂げた。


アルデバラン星系、惑星Ⅲの文明は勇者ギルドによる避難を中止し、もう一度、再建を始めだした。


アルデバラン星系は、再び穏やかな時間を刻みはじめる。


・・・・・・・・・・・・・


◆星の血を浄化せよ


アルデバランは確かに若返っていた。

水素を補給し、鉄のプラズマ核を段階的に抽出。膨張は止まり、恒星の半径は安定域に収束していた。


だが、ホー博士の観測によって、新たな課題が浮上する。


ホー博士「恒星のコロナ活動は安定した。しかし、内部の熱循環とスペクトル解析によれば、深層部の重元素濃度が依然として高い。特に炭素、窒素、酸素、硫黄、そして残留鉄。これは“星の老化毒”だ」


リリィ「老化毒。それを取り除けば、星はもっと若返る?」


ホー博士「可能性はある。今回は対流に頼らず、深層から直接“ピンポイント転送”で抽出する。星の奥に沈んだ老廃物を取り除く作業だ。」


ジャック「魔法と空間制御の融合作業だな。了解。精密な転移魔法で毒の層を抜こう。」


コモン「制御系は俺に任せてくれ。転送圧、バランス、タイミング、誤差なしで制御する。」


コン「元素分布のデータ、解析中。浮遊周期と層ごとの密度差も計算済み。」


リリィ「星の血を浄化しましょう!」


【作戦開始:恒星深層からの直接抽出】


魔法陣がアルデバランのコロナ圏に展開され、ダンジョンの空間リンクが中心核層へと接続されていく。


ジャック「まずは炭素層。転送スリット、形成」


コモン「転送出力、安定。温度圧制御、正常」


ガルド「回収完了。次、酸素と窒素の複合層へ」


ホー博士「星の内部がスムーズに循環し始めている。これで呼吸はずっと楽になるだろう」


マーガレットが転送された重元素の流れを見ながら、ふとつぶやいた。

「これ、鉄より軽い元素がぎゅうぎゅうに詰まってるニャ~」


コモン「そりゃそうだな。高温高圧でプラズマ化した元素のスープだな。つまり、恒星って、鉄未満の素材を全部精製できる“宇宙素材工場”じゃないか?」


ホー博士「面白い表現だな。その通りだ。赤色巨星は安定した核融合が続く限り、常に素材を生み出し続ける反応炉なんだ」


ジャック「なるほど、これからは“恒星を救う”だけじゃない。“恒星を使って素材を精製”して、それを利用する基盤にできるな。新しい未来が見えてきた」


リリィ「じゃあ、今の転移作業で得られた元素、どうするの?」


ジャック「素材別に分類してから冷却のため宇宙空間に展開して、まずプラズマを冷やしながら、錬成分解して固体化。その後ダンジョン内に“分類保存”だ。まるで“素材の倉庫”だな」


【素材精製ステーション構築】

ギルスが地球から呼ばれた。恒星を使って、鉄未満の素材を全部精製する宇宙素材工場を

新たに新ダンジョンコアver3.0で設計され、転移された炭素、窒素、酸素、硫黄、鉄などが純度別・性質別に保管され仕組みを作ることとなった。


ギルス「保存完了。結界封印済み。元素分類ラベルも設定。これからは恒星レベルで大量の素材調達が可能だ」


ホー博士「これは大きな一歩だ。“恒星医療”から“恒星産業化”へ転換した瞬間だ」


ガルド「いいな。星の命を救って、その命がまた“世界を作る素材”になるってわけか」


マーガレット「未来を文字通り錬成してるんだニャ」


【そして、再び星が輝きを増す】


リリィ「アルデバラン、あなたは、ただ輝くだけじゃない。“未来を生む工場”になったのね」


こうしてリリィたちは、星の命を救うだけでなく、星から未来を生み出す技術へと踏み込んだ。


◆星の宴、英雄たちの打ち上げ会


作戦完了の報告が勇者ギルド本部に届いたのは、アルデバランから帰還した翌日だった。

恒星の若返りに成功し、さらに「素材精製ステーションを構築」したという前代未聞の成果のニュースに、勇者ギルド星中が沸き立った。


赤色巨星を救うことと素材精製ステーションを構築することの2つをマニュアル化して勇者ギルドに提出した。早速、利用したいと問い合わせが多いそうだ。


そしてその夜、


勇者ギルド星の中央広場、七色に輝く空中庭園に、勇者ギルドの仲間たちが次々と集まってきていた。


リリィ「みんな、今日は本当にありがとう。ささやかだけど、打ち上げ会を開きます!」


ジャック「星を救って、やっと一息つけるってもんだな。こっちは超特製の“地球のシチュー”作ってきた。」


マモル「俺はバンド仲間呼んでおいた。今日はギター弾くぞー!なんならみんなで踊ってもいいからな!」


ガルド「うまい肉、持ってきたぞ。ダンジョン農場の最上級の肉。焼き加減は任せろ」


マーガレット「ふふ、こっちはデザートニャ。アイス50種、全部そろえたニャ」


【会場:空に浮かぶ“勇者の庭”】


宴の場は、浮遊魔法によって大空に浮かぶ透明な庭園。地上の光が反射して、星屑のように輝く。


マーガレット「みんな笑ってるニャ。未来が明るいと、世界もこんなに優しく見えるんだニャ」


クロシャ「今日は警備もいらない。勇者ギルド星だからな。安心だ。」


ホー博士「いいねぇ。困難な作戦が成功したときの美酒は最高だ。」


【夜空に浮かぶ“星のスクリーン”】


会場上空には、ジャックの魔法によって映し出された映像が映る。

そこには、かつて炎に飲まれかけたアルデバランと、若返った今の輝きが並んでいた。


リリィ「これはみんなで成し遂げた奇跡よ。ありがとう、心から」


ガルド「礼なんていらねえさ。仲間ってのは、こういう時こそ一緒にいるもんだ」


マモル「じゃ、そろそろ一曲いくか!『赤き星のバラード』、この日のために作った!」


マーガレット「フフ、きれいなタイトルの歌だニャ。いい夜だニャ。」


【そして、夜が更けて】


星空の下、笑い声が広がっていく。


コモン「まだまだ、赤色巨星になりそうな終焉の恒星は多い。もっと、やろう。」


リリィ「ええ。また、みんなでね」


その夜、銀河は静かに輝いていた。

星を救った英雄たちは、ひとときの休息を心から楽しみ。

そしてまた、次なる未来へと歩き出すのだった。


・・・・・・・・・・・


ギルド長「赤色巨星を救うマニュアルについてだが、星系一つを救っただけでは、マニュアルにするのは、ダメだという意見がでている。他の赤色巨星も同様に救うよう、要請があった。クエストとして受けるか?」


リリィ「もちろんよ。そんな文句が言えないような実績をあげるわ。みんないいわね。」


一同「「「「「おぅ!」」」」」

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