第10話 流動生命体の救援要請 惑星フェルノアを救え 前編
1000年前、滅びゆく星に残った者たちがいた。
彼らの名は、流動生命体。
熱と毒に包まれた惑星・フェルノアの深奥で、ただ“待ち続けて”いた。
そして今、救援の信号が勇者ギルドに届く。
「魔素枯渇、結界崩壊寸前、救援、求む」
宇宙規模の災厄――潮汐加熱。
巨大衛星の重力が星を焼き尽くし、命を飲み込もうとしていた。
彼女らは宇宙を駆け、星を救う。
【勇者ギルド本部 中央会議室】
勇者ギルド本部の中央会議室。星光を模した天井の下に、重苦しい空気が漂っていた。
魔導通信卓には、緊急の信号が映し出されている。差出人は、約1000年前、『お盆の世界』に避難せず、灼熱の惑星フェルノアに留まった、流動生命体たち。
ギルド長アグニス・レイヴァンが眉をひそめ、ホログラムを指差した。
「1000年の時を超え、彼らから救援要請が届いた。内容は、極めて深刻だ。」
リリィ、ジャック、ガルド、マーガレット、コモン、『虹色の風』のメンバー、さらに、植物と共鳴できるドライアドの冒険者シルフィーナ・ローリセルが加わり、席につき、真剣な面持ちで耳を傾ける。
ホログラムには、簡素なメッセージが記されていた。
『魔素だまり、枯渇しかけている。結界、維持限界近い。灼熱、侵入目前。救援、求む』
リリィは小さく息をのんだ。
「あの惑星フェルノアの、魔素だまりが枯れてきているのね」
シルフィーナ
「あのとき世界樹とともに、避難していればよかったのに、動きたくないと頑固だったわ」
ジャックも冷静に分析する。
「魔素供給が絶たれれば、結界は崩壊する。溶岩の海の灼熱に晒されれば、流動生命体たちは滅亡する」
ガルドが重く拳を握る。
「時間がねぇってことだな」
マーガレットがコモンの肩にそっと手を置いた。
「コモン、大丈夫ニャ?」
コモンはゆっくりと顔を上げ、力強い声で言った。
「みんな、私の故郷を、どうか救ってください」
アグニスは静かに頷き、魔導卓に新たなホログラムを映し出した。
「虹色の風に、正式にクエストを発令する。目標は、流動生命体の故郷に赴き、結界を維持するための新たな魔素源を確保、あるいは生命体を安全な宙域へ避難させること」
リリィは真っ直ぐにアグニスを見据えた。
「了解しました。必ず、助け出してみせます」
ジャックも静かに続く。
「方法はこれから考えますが、あきらめる選択肢はありません」
ガルドがにやりと笑った。
「このチームがそろってりゃ、どんな災厄だってぶん殴れるさ」
マーガレットも元気よく手を挙げる。
「ぜったい助けるニャ。でも焦らず、落ち着いて行くニャ。」
コモンは胸に手を当て、深く頭を下げた。
「ありがとう。みんな」
アグニスは微笑み、重々しく言った。
「頼んだぞ。彼らを救ってくれ」
・・・・・・・・・・・
【勇者ギルド星・周回軌道 観測宇宙船内】
漆黒の宇宙に浮かぶ、勇者ギルド星の周回軌道上。観測宇宙船。船内では、クロシャ、ホー博士、グネル、コンの4人に加えて、リリィ、ジャック、ガルド、マーガレット、コモンの『虹色の風』のメンバーがギルド長のクエストを引き受け、既に乗り込んでいた。
リリィが窓越しに宇宙の星々を見つめながら、静かに息を吐く。
「また、あの星に行くのね」
ジャックは端末をチェックしながらうなずく。
「フェルノアの座標、問題なし」
ガルドが大きく背伸びをしながら笑う。
「ふん、溶岩だろうがなんだろうが、今さらビビらねぇさ」
マーガレットは転移ゲートの準備を終え、
「マーガレット、転移の準備できたニャ! 早く行くニャ!」
コモンは観測機器をチェックしながら落ち着いた声で答えた。
「流動生命体のみんなのために、慎重に行きましょう」
クロシャは黙々と安全チェックを続け、ホー博士は最終座標データを確認していた。
そこへ、転移ゲートがふわりと光り、シルフィーナが現れた。
「遅れてごめんなさい。みんな、準備はいい?」
ホー博士も微笑みながら続けた。
「君が来て、ようやく全員だ」
リリィが頷き、静かに答える。
「さあ、出発しましょう」
クロシャは無言でうなずき、腰の剣に手を添えた。
・・・
◆溶岩惑星フェルノア 衛星軌道上
観測宇宙船が、赤く燃え上がる惑星の軌道上に転移した。眼下には、荒れ狂う溶岩の海。
炎と煙が渦を巻き、大地は消え失せていた。
リリィが窓越しに真剣な眼差しで地表を見つめる。
「間に合って」
ジャックが航行データを確認しながら呟く。
「地表温度は以前よりさらに上昇している」
ガルドが転移ゲートの調整を終え、元気よく振り返る。
「準備できた!すぐ転移できる!急ごう。あいつらを助けるんだ」
リリィは頷いた。
「行くわよ。コモンの故郷へ!」
・・・
◆地下空洞 流動生命体の湖
観測宇宙船で転移、彼らはかつて訪れた巨大な空洞に来ていた。
そこには、銀色に輝く湖、流動生命体たちの集合体が、弱々しく光を放ちながら、辛うじて生き延びていた。
湖から、なじみのある姿がにじみ出る。流動生命体が、リリィたちを見つめていた。
コモンは前へ出て、静かに呼びかけた。
「助けに来ました」
流動生命体たちは、一斉に微かな波紋を広げた。まるで、懸命に何かを訴えているかのようだった。
リリィは静かに決意を込めて言った。
「安心して。まずは、安全な場所を作るわ」
ジャックが頷き、作業を始める。
「ここに、ダンジョンコアver3.0で空間バブルを設置する。避難用に最適化した世界だ」
グネルがダンジョンコアver3.0を取り出し、起動させる。
「空間拡張と魔素固定、ま、やってみる価値はあるわね」
マーガレットも補助魔法陣を展開し、加勢する。
「優しい風と、やわらかい土を呼び出すニャ!」
魔力が空洞に広がり、
やがて、銀色の光に包まれた“世界”が周りに広がった。
コモンが湖に向かって両手を広げる。
「皆さん、どうか、この避難世界へ。ここなら、安心して生き続けられます」
銀色の流動生命体たちは、次々と波紋を広げながら、ゆっくりと避難世界へ流れる水のように移動していった。
ジャックがモニターを見ながら確認する。
「全個体、移動完了。生命反応、安定」
リリィは胸をなでおろし、優しく微笑んだ。
「よかった。間に合ったわ」
最後にコモンも小さく頷いた。
・・・・・・・・
◆潮汐加熱の真実
【溶岩惑星 衛星軌道上】
観測宇宙船は、赤く煮えたぎる溶岩の惑星の周回軌道に入っていた。地表からは立ち昇る煙と炎、絶え間ない溶岩の流れが見える。
流動生命体たちを無事ダンジョンの避難世界へ避難させたその後、ホー博士、グネル、コンの三人は、惑星の異常な現象の根本原因を突き止めるべく、調査を開始していた。
ホー博士は宇宙船の観測席に座り、端末を操作していた。
「まずは地磁気と重力分布をスキャンする。異常な潮汐パターンが出ていれば、何か見えるはずだ」
コンもモニターをチェックしながら声を上げた。
「表面の溶岩流の流れ方、すごく偏ってるっぽい。普通の火山活動じゃ、こうはならないよ〜」
グネルはダンジョンコアver3.0のポータブル端末を使い、空間のゆがみと重力波の残留パターンを分析していた。
グネル
「この地表温度上昇、外部からの、強烈なエネルギー干渉があるわね」
ホー博士がふと画面に映ったグラフを睨み、顔をしかめた。
「これは、間違いないな」
コン
「なになに? なにがわかったの?」
ホー博士は重く言葉を続けた。
「この星は、かつて、巨大な浮遊惑星と遭遇して、連星化したんだ」
グネルも端末を指しながら説明を加える。
「浮遊惑星の巨大重力によって、この惑星に極端な潮汐力がかかったのよ。地殻の内部摩擦が発生し、マントルが過剰加熱され、ついには地殻そのものが融解して、溶岩の海に沈んだのよ」
コンが驚きながらも、まとめるように言った。
「つまり、潮汐加熱で、この星は燃えちゃったってこと?」
ホー博士は深くうなずいた。
「そうだ。しかも、相手の質量規模は、本星の惑星と同じ程度だ。ただし、相手は大気を持たない巨大衛星だ」
グネルも静かに呟く。
「この星に起きたのは、宇宙規模の災害よ」
コンは窓の外、どこまでも赤く燃え続ける惑星を見ながら、小さく拳を握った。
「でも、流動生命体のみんなは、生き延びた。あきらめなかった」
ホー博士は目を細め、宇宙の彼方を見つめた。
「宇宙には、こういう脅威は多いのかもしれない。だからこそ、私たちが、このような場合に対処できることを探し続けなければならない」
グネルも、静かにコア端末を閉じた。
「この調査結果、ギルドに報告しましょう」
三人は小さく頷きあった。
・・・・・・・・・・
◆巨大衛星分離作戦
【勇者ギルド本部 中央会議室】
ギルド長アグニス・レイヴァンの主導のもと、リリィたち『虹色の風』と各部門の専門家たちが集まり、緊急作戦会議が開かれていた。
巨大な星系図がホログラムで展開され、その中に、問題の惑星と接近して連星を形成してしまった浮遊惑星の軌道が映し出されている。
ホー博士が説明を始めた。
「現在、この惑星は浮遊惑星と連星状態にある。潮汐力による加熱は、浮遊惑星が近すぎることが原因だ。これを解決するには、浮遊惑星そのものを引き離すしかない」
グネルが隣のパネルを操作し、新たなプランを提示する。
「計画案。重力ロケットを3機展開し、浮遊惑星に牽引力をかける。公転軌道の外側へ大きく引っ張り出すことで、潮汐力の影響を大幅に減少させる」
コンが手元の資料を確認しながら続けた。
「同時に、本星には重力ロケット2機を設置して、位置を固定するっぽい!浮遊惑星だけを動かして、本星を動かさないためのバランスだよ!」
ジャックも端末を覗き込みながら頷く。
「理論上は可能だ。推力とバランスを慎重に調整すれば、潮汐力を一気に弱めることができる」
ガルドが腕を組みながらニヤリと笑った。
「つまり、押して引いてってことだな。力技だけど、俺たちらしい作戦だ」
マーガレットもにこにこと言った。
「これで、みんなの故郷、守れるニャ!」
ホー博士はさらにパネルを切り替え、次の目標を提示する。
「そして、もう一つ、未来への布石だ。本星、つまり溶岩惑星そのものを、テラフォーミングする案も実施したい」
リリィが興味深そうに目を細める。
「テラフォーミング、惑星の環境を再生するのね?」
ホー博士
「ああ。まずは惑星表層の冷却、次に大気の再構築、最後に生態系の再植生だ。数百年単位の計画になるが、流動生命体たちが戻れる場所を、取り戻す希望になる」
シルフィーナも静かに頷く。
「世界樹のあった世界を再生できるならば、その意味はとても大きいわ。この星で再び生命を育むようにしたい」
ギルド長アグニスは、深く頷き、重く言葉を継いだ。
「よし、作戦を許可する。まずは連星分離、そして惑星再生へ。作戦遂行してくれ」
リリィたちは席を立ち、互いに視線を交わした。
・・・・・・・・・・・
◆巨大衛星分離作戦、重力の鎖を断つ
【溶岩惑星 衛星軌道上】
広がる漆黒の宇宙。その中心には、かつて連星を成したまま、今なお、重力で結びついている本星と巨大衛星の姿があった。
リリィたち『虹色の風』は、すでに作戦準備を完了していた。
重力ロケット3機、それぞれにダンジョンコアver3.0で強化された推進魔法と重力制御システムを搭載。巨大衛星を公転軌道の外側へと引き出すために、正確な位置取りが求められる。
本星側には、重力ロケット2機が配置され、安定軌道を死守する準備が整っていた。
ホー博士が最終確認の指示を出す。
「重力ロケット、推進系起動確認。重力ロケット、バランスシミュレーション完了。すべて、作戦通りだ」
ジャックが端末を見ながら頷く。
「浮遊惑星の潮汐ベクトル、収束領域に入った。推力集中ライン、5秒後に最大効率になる!」
グネルが冷静に補足する。
「本星への重力反作用も計算済み。ロケットのアンカーが失敗しなければ、ズレは許容範囲内よ」
コンが元気よく声を上げた。
「いけるっぽい! みんなで星を救うっぽい!」
リリィは静かに仲間たちを見渡し、力強く命じた。
「重力ロケット、発進!」
・・・
◆作戦行動開始
3機の重力ロケットが一斉に点火。蒼白い尾を引きながら、巨大衛星の軌道側面へ向かって突き進む。
本星では、二機の重力ロケットが固定アンカーを展開。惑星の軌道を保持するため、強烈な重力フィールドを生成していた。
ジャック
「重力圧、上昇開始。巨大衛星、わずかに軌道外偏移!」
ホー博士が冷静に計算を続ける。
「推力バランス成功。もう少しだ、焦るな」
ガルドがモニターを睨みながら拳を握る。
「ゆっくり、引っ張れ、もっと引っ張れ!」
コンがわくわくしながら実況する。
「軌道、ほんの少しズレたっぽい! でも確実に動いてるよ〜!」
数日にわたる精密な重力操作。
やがて、
ジャック
「巨大衛星、独自公転周期に移動完了!」
ホー博士
「本星、潮汐力変動、急速低下!!」
リリィは静かに呟いた。
「成功よ」
マーガレットがぱたぱたと尻尾を振りながら笑った。
「これで、みんなの故郷、守れたニャ〜!」
・・・
◆惑星再生計画始動
【勇者ギルド本部 作戦司令室】
連星分離作戦の成功から数日後。
リリィたち『虹色の風』は、次なるミッションに取りかかっていた。目標は、溶岩に沈んだ本星に、再び水を取り戻すこと。
ホー博士が巨大なホログラム地図を指し示しながら説明する。
「巨大衛星は惑星となって独自の公転軌道にある。本星の潮汐加熱は無くなった。だが、このままでは地殻活動が落ち着くまでには数千年単位の時間が必要だ」
グネルが端末を操作しながら付け加える。
「そこで、急速冷却と大気改造、土壌改造が必要だ」
コンがわくわくしながら提案を出す。
「そこでね、外縁部の氷惑星から、氷をいっぱい運んじゃうっぽい!氷を転移して、ここにドバッて流し込む作戦だよ〜!」
ジャックも頷く。
「氷を水に変えれば、冷却だけでなく、川を作り、大気にも水蒸気を増やせる。問題は、そこから発生する硫化物ガスだな。」
リリィは静かに微笑み、力強く言った。
「錬成で硫化物の毒性物質を抽出して元巨大衛星に封印すればいいわ」
ガルドが拳を握ってにやりと笑った。
「やっぱり力技だな。でも、気に入ったぜ」
ホー博士が作業手順を確認する。
「計画はこうだ。
外縁部の氷惑星へ転移し、巨大氷塊を採取。本星へ連続転移させ、氷を大量投入。
氷が溶けて川を形成、水蒸気が発生。雲が発生、雨が降り、水の循環ができる。
錬成魔法で川の水に溶けた毒性硫化物をまとめて固形化。
固形化した毒素を元巨大衛星に転移、隔離保存だ」
コンが勢いよく手を上げる。
「ボク、氷惑星チーム行くっぽい! 氷いっぱい運ぶ〜!」
マーガレットもぴょんと跳ねる。
「私も氷を置く作業を、手伝うニャ!」
アグニス・レイヴァンが、司令卓から声を掛けた。
「命を繋ぐための作戦だ。勇者ギルドも、全力で支援しよう。」
リリィたちは力強く頷き、作戦を開始した。
・・・・・・・・
【外縁部・氷惑星 採掘拠点】
一面、青白い氷の大地。コンとジャック、ガルドが協力して、ダンジョンコアの転移陣を設置していく。巨大な氷塊が魔法の光に包まれ、次々に空間を裂いて本星へと送られる。
コン
「まかせて! 氷、あと300回は運べる!」
ガルド
「よし、いいぞ。この調子だ!」
【本星・赤熱地表】
氷塊が地上に転移されるたび、ジュワアアッという轟音とともに大量の蒸気が噴き上がった。やがて、雲ができ、大雨が降り続く。
グネル
「毒性硫化物を抽出、固形化。」
グネルが、川の中の硫化物を感知し、ダンジョンコアver3.0の錬成プログラムで瞬時に分離・固形化していく。
ジャック「固形毒性硫化物を転移」
メタルゴーレムが、固形毒性硫化物を転移門から巨大衛星に次々と転移させていく。
ジャックもモニターを確認する。
「転送座標、完了。毒素物質、衛星に封印確定!」
リリィは地表に広がり始めた小さな川を見つめながら、静かに呟いた。
「生まれ変わるわ、この星」
シルフィーナとマーガレットが協力して、水の魔法を展開する。
マーガレット
「水だけ、きれいに取り出すニャー!」
マーガレットも笑顔で言った。
「川ができたニャ! お花の準備、しなきゃニャ!」
コンが大きな氷塊をさらに転送しながら叫んだ。
「うんうん、データ通りっぽいけど、もうちょっと確認するね〜!」
水蒸気が、かつて焦土だった空に広がり、巨大な雲が広がっていく。大地はまだ荒れ果てていたが、それでも星の再生が始まった。
・・・・・・・・
◆フェルノア土地浄化作戦
【フェルノア・世界樹浮島 観測テント】
新たに形成された浮島のひとつに、臨時の観測拠点が設けられた。中央には地表から採取された赤黒い溶岩と土壌のサンプルが並べられ、魔道顕微鏡と錬成解析機が稼働している。
ホー博士が、慎重にサンプルから立ち昇る煙を観察しながら言った。
「予想通りだ。フェルノアの表層溶岩には、大量の二酸化硫黄とフッ化水素が含まれている。しかも、この周囲の土壌には鉛とヒ素の反応も出ている」
グネルが錬成魔法で土壌からガスを分離しながら頷く。
「このままじゃ、どんな植物も根を張れない。根が吸えば即死、葉が触れれば焼ける」
コンが魔導フィルターにかけた空気を嗅いで、顔をしかめる。
「うぅっ、くっさい。この気体、ぜったい体に悪いっぽい!」
コモンは静かにモニターを操作しながら分析結果をまとめた。
「有害成分:SO₂(硫黄)、HF(フッ素)、HCl(塩素)、および微量のCd、As、Pb。植物に対して強い毒性あり」
マーガレットが不安そうにする。
「お花、咲かせられないニャ」
グネルがすぐに反応し、ダンジョンコアver3.0を起動する。
「鉛とヒ素のオンパレード、この星、本当に命に向いてるのかしら」
ホー博士も頷く。
「その毒素抽出の錬成個所を展開しよう」
重金属類、酸性ガス成分を地表の雨水から抽出。地中の有害鉱物は固化して、元巨大衛星に転移した。空気中の酸性ガスも、同様に固化して転移した。そして、このような毒素抽出の錬成個所を地表10000個所に展開した。
ジャックが作業隊を指揮しながら配置を整える。
マーガレットは、安心したように頷いた。
「じゃあ、咲かせるニャ! お花、いっぱい咲かせるニャ!」
・・・・・・・・・
◆新たな命の星――クエスト完了報告
【勇者ギルド本部 中央会議室】
星光結界の下、重厚な空気に包まれた中央会議室。
ホログラム魔導卓には、リリィ、ジャック、ガルド、マーガレット、コモン、そしてシルフィーナが並んで立っていた。
正面には、ギルド長アグニス・レイヴァンが静かに座り、彼らを迎え入れる。
アグニス
「報告を」
リリィが一歩前に進み、深く一礼した。
「はい。これより、流動生命体救援および本星再生計画について、完了報告を行います」
シルフィーナが続き、ホログラムに映像を投影する。
【映像】
赤熱した惑星 → 氷の転移 → 海の形成 → 浮島の出現 → 流動生命体たちの新たな居住地が映し出される。
ジャックが冷静に進行を補足する。
「まず、連星となった浮遊惑星は重力ロケット3機によって公転軌道の外側へと移動させ、
本星は重力ロケット2機で現在位置を安定化。潮汐加熱は停止、惑星冷却は順調に進行しています」
ホー博士がさらに付け加える。
「外縁部氷惑星から採取した氷を大量転移し、地表に水を供給。硫化物など毒素除去も完了済みです」
マーガレットがにっこり笑いながら言った。
「川も海もできたニャ〜! お花畑作りも始めたニャ!」
コンが嬉しそうにまとめた。
「浮島をたくさん作って、流動生命体のみんなを無事に移転させたっぽい!それに、世界樹も戻ってきたよ〜!」
リリィは最後に、静かに宣言するように言った。
「これで、惑星は再び命を育む準備が整いました。
あとは、ゆっくりと時をかけて、世界樹と流動生命体たちが、この星を育てていきます」
ギルド長アグニスは、じっとホログラムを見つめた後、深く、静かに頷いた。
「よくやった。これでまた、ひとつ星が滅びずに済んだ。君たちの働きに、心からの感謝する」
マーガレットがぴょんと跳ねながら手を挙げた。
「えへへ、本当によかったニャ!」
コモンも少し照れたように、しかししっかりと答えた。
「はい。これからも、この星と、みんなを守ります」
アグニスは微笑みを浮かべながら、力強く告げた。
「虹色の風よ。よくやった」