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7.アルデバラン公爵邸


 アルデバラン公爵とシリウス様がご不在の中、私とナシラは公爵邸に移り住む事になった。


 初めて訪れる公爵邸は、生家とは比べ物にならないくらい立派な造りをしていた。

 左右の門柱の上には、巨大な獅子の彫刻が鎮座し、敷地内は鮮やかな緑の芝生と手入れされた広大な庭園が広がっている。


 宮殿と見間違うほどの大きなお屋敷の入り口には、英雄の像が立っていた。


 屋内に入ると、義母となるアルデバラン公爵夫人と使用人たちが出迎えてくださった。


「ミラ嬢、ようこそアルデバラン公爵家へ。戦の最中で皆、出払っていてね。私しか出迎えられずに申し訳ないけど⋯⋯」


「いえ、このような時期に申し訳ございません。これからこの家の事を覚えて、お役に立てればと存じます。どうか末永くよろしくお願い申し上げます」


 頭を下げご挨拶をすると公爵夫人は頷いてくださる。


「今日は疲れたでしょうから、明日またゆっくりお話しましょう。案内は彼女たちに任せてあるから、困ったことがあれば、何でも言ってちょうだい」


 公爵夫人の後ろに控えている三人の侍女が、こちらに向かって深々と頭を下げる。


 夫人はその事を確認した後、微笑みながらも足早に立ち去っていった。

 

 公爵閣下とシリウス様が戦に向かわれて、執務に追われていらっしゃるんだろう。

 それに、いくら今まで戦果を上げてきたとはいえ、愛する夫と息子が戦に出たのでは、心労が絶えないことは想像に難くない。


 もちろん私だって、シリウス様のことが心配でないと言えば嘘になる。


「ミラ様、早速ではございますが、屋敷の中をご案内致します」


 侍女たちの案内で屋敷の中を歩いて回る。

 食堂に書斎に、客室に遊戯室。

 そして、私の寝室と隣接するドレスルーム。


 寝室は白と金を基調とした明るい部屋で、ソファやカーテンなどは淡いピンク色が使われていて、可愛らしい雰囲気だ。 


「まぁ、素敵。今日からわたくしは、この部屋で生活するんですね」


「はい。何でも、家具やカーテンはシリウス様がお選びになったとか。私どもは本日、初めてミラ様にお目にかかりましたが、可愛らしい雰囲気がピッタリですね」


 侍女の内の一人、アトリアは、にっこりと笑いながら言った。


「そうだったのですね。シリウス様が、わたくしのために⋯⋯」


 シリウス様は私が可愛らしい雰囲気が好きなのをご存知だから、好みに合わせてくださったのね。

 今は直接お会いすることは叶わないけど、素敵なプレゼントを用意してくださった事が嬉しい。


「それと、こちらの扉はシリウス様の寝室と繋がっております」


「まぁ! そうでしたの!? とてもロマンチックですわね! ミラ様!」


 アトリアの説明に興奮した様子のナシラ。


「そうなのね。確かに小説でもよくありますものね。実物を見たのは初めてですけど⋯⋯」


 努めて冷静に振る舞うも、内心、私も興奮状態に陥っていた。


 私とシリウス様の寝室同士が繋がっているですって!?

 それはつまり、誰にも見られずに、部屋を行き来出来るということで、突然シリウス様が部屋を訪ねて来られるようなこともあり得るわけで⋯⋯


 ポーカーフェイスでその場をやり過ごし、ナシラとアトリアたちに入浴を手伝ってもらった後、天蓋付きベッドに横になった。


 一人きりになって、今日一日感じたことを振り返る。


 こんなにも広いお部屋を一人で使わせてもらえるなんて、どれだけ贅沢なことなんだろう。

 生家とは比べ物にならないくらいの設備と使用人の数⋯⋯


 これだけこの家が栄えているのは、それだけ武功を立てて来たから。

 私だってその豊かさをただ享受するだけではなくって、この家の一員として貢献しないと。



 決意を胸に迎えた翌朝。

 公爵夫人改めお義母様と食事を摂ることになった。


「私のことはお義母様(かあさま)と呼んでちょうだい。私も貴女の事をミラと呼ぶわね」


 優雅に微笑むお義母様は、私が萎縮しないよう気を配ってくださる優しいお方だ。

  

「あのシリウスが恋に落ちてプロポーズをしたと言うから、どんなお嬢さんなのかとても楽しみにしていたの。素直で可愛らしい方で安心したわ」


「そんな、とんでもないです⋯⋯」


 シリウス様のいない場で、いきなりお義母様と二人きりで話すことになるなんて、思ってもみなかった。

 なんだかくすぐったい気持ちになるけれど、お義母様が気遣ってくださるから、すぐに打ち解けることができた。

 

「早速なんだけど、書類の整理を手伝ってもらえないかしら? 毎日、山のように処理しないといけなくって、ついつい適当に仕舞い込んでしまっているの」


 公爵家の人間としての初仕事は書類整理だった。

 事業内容ごとに分類した後、日付順に並べて綴っていく。


「助かるわ。今は良くても後で見返す時に、ぐしゃぐしゃのままでは絶対に困るから。書類整理に数日かかると思うから、それが終わった頃にまた新しいお仕事を頼もうかしらね」

 

 一つの作業に慣れてから次の作業に移れるよう、お義母様が配慮してくださったお陰で、混乱することなく仕事を覚えられた。


 使用人の管理や領民の生活状況の把握、税収の管理に伝統行事の運営、さらには、慈善事業の支援に社交界での人脈作りなどなど。


 日々の仕事を慌ただしくこなし、半年が過ぎた頃、西部で行われていた戦争は、わが国が勝利を収めたとの知らせがあった。


 功績を挙げられた公爵閣下とシリウス様も、帰還されることになった。

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