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39.結婚式の夜

 学園卒業後は今までの人生と同様、隣国との戦争が勃発し、シリウス様とお義父様が出征する事になった。


 けれども、今回の人生では、シリウス様が機転を利かせ、お義父様の失明を阻止した。

 シリウス様のご活躍により、敵軍が速やかに降伏した事から、伯爵の爵位を授かった。


 そして、シリウス様のご帰還後、私たちはすぐに結婚式を挙げた。

 公爵家の式は王都の大神殿で行われるのが伝統で、王族に次いで大きな規模を誇るものだ。


 私たちが夫婦になる瞬間を国中の貴族に見守られている。

 その中には、アルキオーネ様やフォーマルハウト様、プロキオン様もいてくださった。

 もちろん、この時を一番待ち望んでくれた私の両親も。



「シリウス=アルデバラン、貴方はミラ=グラフィアスを妻とし、如何なる困難が訪れようとも、共に助け合い、喜び合い、分かち合いながら生涯を歩んでいくことを誓いますか?」


「はい。誓います」


「ミラ=グラフィアス、貴女はシリウス=アルデバランを夫とし、如何なる困難が訪れようとも、共に助け合い、喜び合い、分かち合いながら生涯を歩んでいくことを誓いますか?」


「はい。誓います」



「それでは誓いのキスを」


 目をそっと閉じていると、優しく肩に手を置かれ、唇が重なった。

 割れんばかりの拍手が沸き起こる。


 私は無事にまた、シリウス様の妻になることができたんだ。

 シリウス様が私のために勝ち取ってくれた、幸せな未来⋯⋯

 一日一日を悔いのないように生きようと思う。

 最愛の人の隣で⋯⋯


「ミラ、愛してる」


 唇が離れるとシリウス様は、世界一美しいものを見るような目で私を見つめながら、言ってくださった。


「シリウス様、ずっと隣にいてくださいね。愛しています」


 なかなか聞けなかった愛の言葉⋯⋯

 これからは何度だって伝え合いたい。

 私たちを縛るものは、もう、何もないのだから。



 夜、侍女たちが部屋に来て、入浴などの身支度を手伝ってくれた。

 

「ミラ様、今夜は新婚初夜ですから! いつも以上に完璧に仕上げさせて頂きますよ!」


「若旦那様も、さぞ、お喜びになることでしょう」


 侍女のナシラとアトリアは、腕によりをかけて準備してくれた。

 二人のおかげで、我ながら、かなりの出来栄えだと思う。

 けれども、頭の中をよぎるのは繰り返しの中で何度も経験した、一人虚しく迎えた朝。


 今回も一人ぼっちだったらどうしよう。

 あまり期待し過ぎるのもよくない。

 思い描いた通りにならなかった時に、悲しくなるだけだから。

 この期に及んで、暗い部屋で暗いことばかり考えてしまう自分が嫌になる。


 シリウス様が部屋に来てくださっても、そうでなくっても、私は愛されている。

 これだけは揺るぎない事実なんだから。

 

 抱えた膝に顔を埋めながら、ぶつぶつ唱えていると、遠慮がちなノックとともに扉が静かに開いた。


 ――――来た。


 どうしよう。ずっと顔を伏せていたから、おしろいが取れたり、浮腫んでいたりして。

 でも、ずっとこのままいるわけには⋯⋯


「ミラ、どうしたんだ? まさか、泣いているのか? 遅くなってすまなかった。決して、君をないがしろにしたかったわけでは⋯⋯」


 シリウス様は焦ったように私の肩に手を置いた。

 

「違うんです! シリウス様! わたくしは!」


 慌てて顔を上げると、心配そうにこちらを覗き込むシリウス様の顔がすぐ近くにあった。


 少し開けたローブの胸元から覗く胸筋に目が釘付けになる。


 普段は知的で穏やかな雰囲気のシリウス様⋯⋯


 剣の稽古も欠かさずしていらっしゃるから、筋肉質なのは想像に難くないはずなのに、普段の姿とのギャップにときめく。


「ミラ、君はどうしてそんなにも綺麗なんだ」


 いつもより低い声と鋭い視線に、胸がゾクゾクする。

 

 日頃、シリウス様は、私の事を庇護するべき生き物として捉えていらっしゃるのか、優しい眼差しと声で接してくださる。


 けれども、今、この瞬間のシリウス様は、私の事を女性として見てくださっているような気がして⋯⋯ 


 漂う色気にあてられ、言葉に詰まっていると、唇を塞がれた。


 ベッドに沈められ、指を絡めるようにして、シーツに縫い付けられる。 

 いつの間にか呼吸をするのも忘れて、キスに夢中になり、息も上がって心臓が激しく脈打つ。


 ご自身のことは二の次で、私が満たされているかを確認するかのように、じっと見つめられながら、優しく丁寧に触れられる。


 尽くすような愛に、女性として大切にされているという実感が湧くとともに、どうしようもない恥ずかしさを感じる。


「シリウス様、わたくしばかり⋯⋯」


 涙を堪えながら抗議すると、シリウス様はゴクリと喉を鳴らした。


 愛する人の温もりを感じながら、心から満たされた夜だった。

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