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30.星空祭の夜


 よく分からないまま準備室に押し込められてしまったので、大急ぎで頭の中を整理する事にした。


 今の私がやるべき事は恐らく二つ。


 一つは、プロキオン様からなんとしても逃げ切ること。

 一度見つかってしまえば、あの手この手で脅されて、きっともう後戻り出来なくなるから。


 そしてもう一つは、よく分からないけれども、私がシリウス様の唇を奪うこと。

 あとはシリウス様が何とかしてくださる――アルキオーネ様もフォーマルハウト様も、何故か同じ事をおっしゃる。


 それって、既成事実を作って、シリウス様に責任を取って頂くように仕向けるという意味なのかしら。

 メリディアナ王女殿下と愛し合っているシリウス様を誘惑して、自分のものにしろということ?

 

 そんな恐れ多い事が自分に出来るとは到底思えないし、万が一成功したとしたら、私はメリディアナ王女殿下に処刑されるのでは⋯⋯


 次の行動をどうするべきか戸惑っていると、廊下から見知らぬ男子生徒の話し声が聞こえた。


「なぁ、聞いたか? メリディアナ王女殿下が、庭園で泣いていらっしゃったらしいぞ」


「なんだって! 何があったって言うんだ?」


「シリウス様が急な用事で出かけられたそうだ。何でも軍の関係で断れなかったらしい」


「それは殿下も深く悲しんでおられる事だろう。今夜は恋人たちの祭だと言うのに」


 生徒たちはそれぞれの部屋に帰っていったのか、声はそこで途切れた。


 シリウス様が軍関連の用事で外に出られている?

 アルデバラン領に帰られたのか、王都にある騎士団本部に出向いておられるのか⋯⋯


 フォーマルハウト様にこの事を知らせないと。

 早く帰って来てくださらないかしら。


「ちょっと、そこの君〜! 人を探してるんだけど、手伝ってくれないかな〜?」


 この不快なまでに明るい声は⋯⋯プロキオン様だ。 

 廊下にいた生徒を呼び止めたらしい。


「ミラ=グラフィアス子爵令嬢を見かけなかったかな? 鮮やかな黄色の髪色で、長さは背中が隠れるくらいの子」 


「いえ、ミラ嬢のことは今日はお見かけしておりませんね⋯⋯」


「そう。もし見つけ出してくれるなら、お礼も弾むからさぁ。ちょっと手伝ってくれない?」


 金属が擦れるようなチャリチャリとした音がする。

 まさか、お金を握らせて、私を探させようとしている?


 その生徒は素直に協力する事にしたのか、足音が遠ざかっていく。

 そこまでして私を探すなんて、何がどうなっているのよ。

 得体の知れない恐怖に身体が震え出す。


 そこに、近づいてくる誰かの足音。


「あ! フォーマルハウト様〜! ごきげんよう! ()()()()()ミラを見かけませんでしたか〜?」


 足音の主はフォーマルハウト様⋯⋯帰って来られたんだ。

 とうとうプロキオン様と接触してしまったらしい。

 シリウス様はいらっしゃらないし、どうしたら⋯⋯


「やっと見つけました。ミラ嬢からあなたへの手紙を預かっているんです。ミラ嬢は照れ屋な一面があるようですね。今夜は学園内ではなく、あなたとの思い出の場所で過ごしたいと。まったく、遣わされるこちらの身にもなって頂きたいものです」


 フォーマルハウト様はトゲのある言い方をしながら、ガサゴソと音を立てた。


 私からプロキオン様への手紙?

 当然そのようなものは用意していないし、私はここにいるから、フォーマルハウト様が準備してくださったみたい。


「そうでしたか〜では、俺はミラの元へ行かねばなりませんね。悪く思わないでください〜」


 プロキオン様は、フォーマルハウト様の名演技に騙されてしまったのか、私の最後の悪あがきにも付き合ってやろうという気分なのか、鼻歌混じりに立ち去っていった。


「ミラさん、もう大丈夫ですよ」


 フォーマルハウト様が声をかけてくださり、内側から鍵を開けた。


「あの男にはアルキオーネ嬢が書いた偽物の手紙を渡しました。上手く騙せたかは分かりませんから、馬車に乗るところまでは僕が確認します。アルキオーネ嬢はメリディアナ王女殿下を慰める会に参加中ですので、そのまま動向を見届けてもらいます」


 アルキオーネ様も協力してくださるんだ。

 これが嘘だとバレた時に、プロキオン様がどんな手を使って報復してくるかも分からないのに。


「あなたはご自分の部屋に戻り、鍵をかけて中にいてください。シリウス様がお戻りになれば、あなたの元へ向かって頂けるよう誘導しますから」


 フォーマルハウト様はそう言い残して、プロキオン様の後を追った。



 夜。

 フォーマルハウト様のお言葉の通り、自分の部屋で過ごしていた。

 今のところプロキオン様が訪ねて来られる事もないし、いい時間稼ぎになっているみたい。

 

 部屋の明かりを消して空を眺めると、無数の星たちが輝いているのがよく見えた。


 生徒たちが中庭で歌を歌ったり、楽器を演奏したりと祭を楽しんでいるのが聞こえてくる。

 夜も更けて、もういい時間だけれども、まだまだ祭は終わらなさそうだ。


 確かにこんなにも幻想的な雰囲気の中、愛する人と過ごす事が出来たとしたら、永遠に幸せになれる気がする。


 ふかふかのベッドにごろんと寝転びながら、笛の音に耳を傾けていると、ドアの方で気配がした。

 

 外の喧騒にかき消されてしまいそうな遠慮がちなノックの音。

 

 もしかして、プロキオン様?

 けど、彼なら今頃、怒っているだろうから、もっと騒がしく帰って来るはず。


 ということは⋯⋯

 恐る恐るドアの隙間から外を覗くと⋯⋯そこに立っていたのはシリウス様だった。

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