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煌星のバルトラ  作者: ハル
31/35

集結


 会議から数日後。

 叡智の森《ミレス=グローヴ》にて──。


 ルクシオン王国、オルドラ公国の調査隊が到着し、クロード率いる帝国の先発部隊と合流した。


 肥沃な大地を誇る帝国は、食糧の備蓄にも余裕がある。そのため今回の遠征では帝国領内に拠点が置かれ、合流地点も同じく帝国領内の叡智の森(ミレス=グローヴ)表層に決まった。


 森の表層の魔物討伐や調査は、これまでも各国が独自に行ってきた。しかし、三国合同での調査は初めての試みだ。そのためか、調査隊に選出された者たちの間には、緊張感が漂い、互いの距離感を探るような気まずさが漂っている。


 森に踏み入るのは、総勢三十名の精鋭たちだ。決して多い人数ではないが、物資の運搬や指揮系統を考えてのことだった。そのかわり、拠点には有事に備えた援軍が六十名待機している。


 そして今、クロードの呼びかけで、調査に向かう主要メンバーが集まっていた。


「本日、公国の調査隊との合流も完了した。さっそくだが情報共有をはじめ──」


「おいおい、クロード。相変わらず君はクールだな!」


 クロードの声を遮るように現れたのは、ルクシオン王国の代表、カイラス・ラナド。


赤みを帯びた髪に鮮やかな青い瞳、太陽のような笑顔を浮かべ、腕を広げて歩み寄ってくる。


「王国、帝国、公国──三国の部隊が一堂に会するなんて滅多にない機会。

そんな堅苦しい挨拶ではじめるなんて、つまらないじゃないか。私はまず、君たちのことが知りたい!」


 カイラスとクロードは顔見知りだった。初めて剣を交えたときの鮮烈な印象は、今もクロードの脳裏に焼きついていた。少々クセはあるが、誠実で信頼できる人物だ。


「確かに、互いを知っておくことは必要だろう。しかし、事は急を要する。ひとまず、この場では代表者のみとしよう。」


 そう言ってクロードは一歩前に進み、礼をとった。


「ヴァルカディア帝国、クロード・シャルヴァン。今回の調査では全体の指揮を任されている。長期戦となる可能性もある。何かあれば遠慮なく声をかけてくれ。責任をもって対処する。」


 名乗りを聞いた帝国、公国の騎士たちがざわめく。


「あれが帝国の自由騎士か……」

「本物を見られるなんて……」


 次に名乗ったのはカイラスだった。


「私は、ルクシオン王国、カイラス・ラナド。よろしく頼む!

クロードとは剣を交えたことがある。初めて戦ったのが五年前だったか……以来、好敵手(ライバル)という間柄だ!」


 ニカッと輝かんばかりの笑顔をこちらに向けてくるカイラスに、クロードは「相変わらずだな」と呟いた。


思わずその手を掴みたくなるような、その真っ直ぐな気質は、彼の美徳だ。


しかし、自身とは真逆とも言える快活さに、クロードは未だ戸惑うことも多い。


「ルクシオンのラナド公爵家といえば、代々武芸に秀でた名門と聞きます。中でも三男は歴代最強との噂も……

クロード・シャルヴァン殿に、カイラス・ラナド殿。公国にも名の届くお二人にお会いでき、光栄です。」


 そう言って頭を下げたのは、公国代表のレメレイだった。


「そういうあなたこそ、腕が立ちそうだ。」


 カイラスの言葉にレメレイは、「いえいえ戦闘はあまり得意ではありません。」と否定しつつ柔らかな笑みを浮かべて立ち上がった。


「ご挨拶が遅れました。オルドラ魔導公国より参りました、レメレイ=エスカディエ。ベルノア魔導アカデミーの学院長を務めております。」


 大陸最高峰の教育機関、その頂点に立つ者──。公国は家柄や種族よりも実力を重んじる国だ。学院長ともなれば、公王に次ぐ権威といっても過言ではない。


 案の定、レメレイの名乗りを聞いた、カイラスの瞳がギラリと光る。


「カイラス、間違っても力比べなぞはじめるなよ。」

クロードが釘を刺すと、カイラスは肩をすくめた。


「時と場所は弁えるさ。」

そう答えはしているが、表情を見るに怪しいものだ。隙を見計らって、手合わせを申し出るに違いない。


 ラナド家は代々、武に重きを置く家紋として有名だった。


強者を見れば、挑まずにはいられない。言葉を選ばずに言うならば、武術馬鹿の集まりなのだ。一見、人当たりの良いカイラスも例外ではない。むしろその家風を色濃く受け継いでいる一人と言える。


 一方レメレイは、変わらぬ表情でこちらを見ていた。若そうに見えるが、所作には隙がなく、まるで聖職者のような気品を漂わせている。学院長と聞けば納得の風格に見えた。


「アカデミーの学院長ともなれば、公王に次ぐお立場にいるはず。そんなあなたがなぜ直々に?」

クロードの問いに、レメレイは口元に笑みを浮かべた。


「言いたいことはわかりますよ。たしかにリスクが大きい。公国内でも実は少々揉めました。しかし、何を置いても私はこの調査隊に参加しなければならなかったのです。この命に換えても。」


「たしかにこの森の重要性は極めて高い。しかし、なぜそこまで…」


 ぐっとなにか溢れ出しそうになる感情を抑え込むかのように、レメレイは顔を伏せた。表情は見えない。しかし、その尋常ならざる様子に、どうやら只ならぬ事情がありそうだ、と皆固唾を飲んで彼の言葉を待った。


「……悲願、だったのです。」


「悲願…?」


「そう。この場所は、私にとって長年の夢……。

ようやく──ようやくその深淵に触れられる機会が巡ってきたのです!!」


 ばっと顔を上げたレメレイは、頬は赤く染まり、息が荒い。先ほどまでの静かな威厳が嘘のように、目が爛々と輝いていた。様子がおかしい。


「わかりますか!? この濃度、この純度……かつてないほど洗練された魔素! かつての禍々しい瘴気も、興味深かったが……これは、あぁ、正直言葉になりません」


 レメレイはまるでタガが外れたかのように興奮していた。そんな様子に、クロードは額にわずかな皺を寄せ、顎に手を当てた。


カイラスは目を細め、興味深そうにレメレイの様子を観察している。


 そんな中、凛とした声が場を割った。レメレイの背後に立つ少女が一歩進み出る。


「兄さん。」


 高い位置で二つに括られた翠色の髪が揺れている。白いブラウスに金糸のリボン、濃緑のスカート。アカデミーの学生服を見に纏っている。


「ご挨拶の場です。落ち着いてください。」

レメレイは少女の声に、はっと我に返ったようだ。


「……失礼。つい興が乗りました。」


 まるで何事もなかったように、居ずまいをただすレメレイを横目に、少女は淡々と名乗った。


「ルネ・エスカディエと申します。兄は知識欲が豊かで、我を忘れる節がありますので、同行を命じられました。見ての通り学生ですが、皆様の足を引っ張らぬよう尽力いたします。」


 年齢に似合わぬ落ち着きぶりだ。学生といえど、この場にいるということは、彼女もまた、相当な実力者なのだろう。


「兄…ということは、君はエスカディエ殿の妹君か。」


「はい。ですので、私のことはルネと。兄のことはレメレイとお呼びください。公国ではあまり家名を重視されることはありませんので。」


「なるほど、家名が重視されないというのも、実力主義の公国らしいな。」


「改めてよろしく頼む。では名乗りも終えたところで、さっそくだが、今後の方針を決めていこう。先発部隊として森の調査を行っていたが、その中で得られた情報について…フェルレン。」


「はーい。」

 クロードの呼びかけを受け、傍に控えていたフェルレンがフラッと前へ歩み出た。


「あっと…どーも皆さん。王国第二騎士団所属のフェルレンと申します。探知魔法を使った調査を担当してます。」


 軽く頭を下げ、フェルレンは自身が書き記した地図を中央のテーブルに広げた。


「これは……見事だな!たった数日で、ここまで精密な地図を作り上げるとは。」

カイラスが感心した様子で地図を見つめている。


「フェルレンは、探知魔法において帝国騎士団でも指折りの実力者なんだ。おかげで短期間にここまでの情報を集められた。」


「ちょっ……照れるじゃないですか。まぁでも、調査できたのは森の表層と中域までですよ。」


 フェルレンの言葉を受け、クロードは地図上の一点を指で示した。


「以前は魔物や瘴気に阻まれ、中域に到達することすら難しかったが、今回は魔物との遭遇はなく、気配すら感じられない状況だ。


深部の調査は、三国の調査団が合流して体制が整った後、進めるべきと判断した。


そして、この地図にあるこの三つのルート。そのうちこの中央を進んでいくのはどうかと考えている。」


「中域まで魔物との遭遇がなかったとは、俄には信じられない話だが……なるほど。たしかにこのルートは好ましい。道が開けていたほうが、有事の際にも戦いやすいしな。」


地図に目を落としつつ、カイラスが賛同した。

 

「飲料に適した水源も複数見つけました。この印の地点です。食料と水は、主要拠点から持ち出す予定ではありますが、現地調達できるに越したことはないですからね。」


「水源に関しては、魔素の状態も一度確認して、口にして問題ないか、再度確かめたい。そのあたりは、魔術に長ける公国に助力願いたいのだが。」


クロードの視線を受け、レメレイが頷いた。


「中心部まではおそらく六日程度かかるだろう。道中の休息地点と隊列を決める必要もある。


それと……帝国では過去の調査で、瘴気にあてられて体調を崩す隊員が多く出た。その対策も必要だ。この辺りの魔素は澱みがないが、深部も同じとは限らない。」


 すると、レメレイが「ああ、それなら」と言い、懐から奇妙な魔導具を取り出した。


 木枠に嵌め込まれた透明な球体。その中で、光の粒がゆらゆらと漂っている。


「これはその場の魔素の状態を視覚的に把握できる魔道具です。今は限りなく白に近い色をしていますね? もし色に濁りが出始めた場合、魔素の状態が不安定、もしくは瘴気が発生しているということがわかりますので、その場を離れる目安になります。」


「ほぉ、さすが公国だ!こんな道具は初めて見る。」

カイラスが興味深そうに、魔道具を手に取った。


「開発したばかりで、まだ名がないのです。

そうですね……“魔素測定器”とでも呼びましょうか。」


「兄はこの調査が決まってすぐにこの魔道具の開発を始めたのですよ。」


ルネはどこか嬉しそうに補足した。その表情には、兄への畏敬の念が浮かんでいる。


「前々から試作はいくつかつくってあったので、仕上げといくつかの試験をしただけですがね。」


 レメレイはどうと言うこともないという様子だが、このような有益な魔道具を、短期間で開発するなどということは通常不可能だ。


 この調査が決まってから一月も経っていない。おそろしい才能だ。


クロードは魔道具に改めて視線を向ける。


「なるほど……さすがだな。魔素の状態は、今回の調査で最も大きな懸念点だった。常に視覚化され、確認できるというのは助かる。」


「水など口にするものに関しては、わたしが直接確認しましょう。」

レメレイの言葉にクロードは頷いて返した。

 

「では、前線は帝国が務めよう。測定器は地形を把握しているフェルレンに任せる。常に注視してくれ。

隊列は国ごとに固め、公国は中央に、戦闘になった際には魔法による支援を頼みたい。王国は後方警戒を。各国の代表者は俺と共に前線に来てくれ。」


 視線を交わし、全員がうなずく。


「隊列の詳細と野営地点は代表者で詰めるとして、異論がなければ、準備が整い次第、中心部へ進む。」


「異論なし!」


 カイラスが即答し、他の者たちも賛意を示した。

 こうして三国の調査隊は、叡智の森の深奥を目指し歩み出したのだった。


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