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煌星のバルトラ  作者: ハル
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奴隷商人ボラード


「…」


 星紬による演目は大盛況のうちに幕を閉じ、ユリウスはジュノとともに宿への帰路についていた。


 あたりはもうかなり暗いが、街灯が一等間隔で置いてあるため、大通りは比較的明るい。


《何か気になることでもあったのか?》


 公演を見てからずっと考え込んでいたことに気づいたらしい、ジュノが問いかけてきた。


「ん?あぁ、ごめん。…気になると言っても、まだもしかしたらって段階なんだ。だから、もう少し情報が欲しいなと思って。」


 ユリウスが気になったのは、演目の中で登場した聖騎士の存在だった。


 その戦い方、いわゆる型のようなものが、ユリウスが幼い頃に目にしたセレスティアの剣技にとても近く感じたのだ。


そう言った流派があるのだろうか。塔にある本の中には、母のような動き方の流派について書かれているものはなかった。


あと単純に、名前が母と似ていると思ったが、それこそ偶然と言われればそれまでの話だ。


「あの一座の人たちに話が聞きたいな。さっき声をかけてみようかとも考えたんだけど、公演直後はさすがに迷惑かなって。この町に滞在している間に会えたらいいんだけど。…ん?」


 視線を感じてふと周りを見渡した。ユリウスの横を通りを過ぎるたび、すれ違う者たちが気の抜けたような表情で、こちらを凝視している。


「…一体なんなんだ?」


《ユリウス》


 ジュノがぽんぽんと自身の頭を示す。その動きに倣って、ユリウスも自身の頭部に手をやると、フードがない。考え事に夢中で、いつのまにか外れていたようだ。


「髪色や瞳の色を変えてもだめか……」


《まぁ、元の色よりは幾分目立たぬじゃろう。ほれ、もっと深く被っておれ。》


 ジュノに言われ、ユリウスはフードをぐいと引き下ろす。しかし、そんなユリウスたちをなおもじっと見つめる男が一人。


「ーー旦那様。」


 自分のこととは気づかず、通り過ぎようとしたユリウスに、声の主が近づいてきた。


「旦那様!だーんーなーさーまっ!」


 声をかけてきたのは小太りの男。身なりは中流以上、光沢のある毛皮付きの上着。腰を低く保ち、人付きの良い笑みを浮かべて近づいてきた。


「私はわかっておりますぞ!」


「……なにがかな?」


「ご遠慮なさらず。お顔立ちからして、上客とお見受けしましたので。ご案内いたします。ええ、奥へ──」


 男の手がやけに馴れ馴れしくユリウスの背を押す。ジュノが警戒するようにその袖に爪をかけた。


「ひっ!なんだこのたぬきは…っと、おやまぁこれはこれは、中々珍しいものをお連れですな。」


 そう言って商人風の男はじろじろと値踏みするような視線をジュノに向けてきた。そんな商人から守る様に、ユリウスはジュノを腕の中に抱き抱える。


「もしそれの売却をご希望の際はぜひともうちへいらっしゃってくださいませ。他よりずっと高値で買い取らせていただきますので、はい。」


 愛想よく言った男の言葉に、ユリウスは怒りを覚える。


「物じゃない。」


「えぇ、えぇ、そうでしょうとも!まぁ、ひとまず旦那様、どうぞこちらへ。あぁ、申し遅れました。わたくしは奴隷商を生業としております、ボラードと申します。」


 ユリウスの言葉を気にもとめず、勝手に名乗った男は、そのまま半ば強引に建物の中へと連れ込んだ。


 石造りの建物。所々に飾られている装飾品の派手さが目に入る。部屋の中は、まるで何かの臭いを隠すように、強めの香が焚かれていた。


 奴隷商ボラードは、応接室のような場所へとユリウスを招き入れると、一度深々と頭を下げて「こちらで少々お待ちください。」と、部屋を出ていく。


《ユリウス、どうするつもりじゃ?あの男、たしか奴隷商と言っておったな。このままわしらを捕まえて売り飛ばす気かもしれぬぞ。》


「そうかもね。……まぁ、どのみち奴隷については調べたかったんだ。手間が省けたと思おう。僕を客として招いたにしろ、商品として売り飛ばそうとしているにしろ、やることは変わらない。情報を得られるなら、彼の話にある程度のってみるのもいいかもしれない。

ジュノが話せることは、気づかれない方がいい。いざとなったら力づくで逃げるから、ジュノは僕のそばから離れないで、じっとしていて。」


 ユリウスの言葉に、ジュノが頷いたところで、ドアがノック音とともに開かれた。


扉の先から、先ほどの男ーー、ボラードが部屋に入ってくる。その後ろには年若い、奴隷と思われる少女が銀盆を持ちつづいた。


「お待たせを。まずはお口を潤していただければと。」


 飲み物をすすめながら、ボラードは正面の光にさらされたユリウスの顔を、改めて観察している様だ。


……瞬間、その笑みがぴたりと固まる。


「……ほぉ、これはこれは……」


 ボラードの喉から無意識のうちに漏れた声。


(照明のある場所で改めて見ると、とんでもないなこれは……もともと貴族の坊ちゃんだろうとは思っていたが、この顔は売れる。いや、“売れる”などというレベルの話ではない。とんでもない値がつくぞ!)


 内心でボラードがその様なことを考えているとは知らないユリウスだったが、その不躾な視線には不快感を感じていた。


「いやはや失礼。あまりにもお美しいので見惚れてしまいました。本日はお忍びですかな?ご両親はこの町に滞在中で?」


 表面上は先ほどまでと同じ、客に対する丁寧な物腰のまま。だがその目の奥に灯った光は、値札のついた獲物を見定めているかのように見える。


「この店は、そのように客の詮索をするのか。不快だな。」


「これは、大変失礼いたしました。ではさっそくですが、ご要望をお聞かせいただけますかな?」


 ボラードは、ユリウスの尊大な態度を気にするでもなく、笑みを貼り付けたままだ。


「なぜ、僕が奴隷を探していると思ったか聞いても?」


「長年商人をしているとわかるのです。貴方様は、どう見ても平民ではない。それに、おそらくこの辺りの生まれでもないでしょう。貴族のご子息やご令嬢が、戯れに奴隷を購入しにやってくることもままあることですしな。


こういう場所に足を踏み入れたことのない者は、もっと警戒する物です。物を知らぬだけ…という可能性もありましたが、旦那様はとてもそんなふうには見えませんのでね。普段からご贔屓にされているのでは…と。」


 どこか自信満々のボラード。なるほど、側から見るとそのように見えるのかとユリウスは思った。


「そうか。こんな目利きの商人が奴隷を見繕ってくれるなんて、期待できそうだな。」


 ユリウスはそう言って微笑んだ。


「ふふふ。もちろんですとも!」


 ユリウスの表情を見て手応えを感じたのか、ボラードの声が弾む。嬉々とした様子で机の引き出しに手を伸ばし、分厚い冊子を取り出した。おそらく、奴隷に関する情報が載っているものだろう。


「では、まずはこちらをご覧に──」


「実物を見たい。」


 ユリウスはニッコリと笑みを浮かべて、ボラードの言葉を遮った。口調こそ穏やかだが、拒否の余地を与えるつもりはない。


「……ええと、ですが、旦那様。奴隷たちのいる地下の収容所は少々……」


 ボラードの言葉が濁る。


「いや、管理を怠っているわけではないんですがね、なにぶん、こちらも商売なもので。匂いもキツイですし、旦那様の気分を害してしまうかと…」


「問題ないよ。」


「……ふむ。」


 ボラードは口の中で舌を鳴らす。目の前の少年は引く気はなさそうだ。であれば、ここは好きなようにさせて、適当な奴隷を買わせ、その後攫ってしまえば……金も奴隷も手元に戻る上に、極上の商品もついてくる。

ボラードはそう考えた。


「お望みとあらば、そうですな……」


 ボラードの顔から、わずかに愛想が薄れていく。それでも変わらず商売様の笑顔を貼りつけたまま、ゆっくりと腰を上げた。


「ご案内いたしましょう。ですが、どうかお気を悪くなさらぬよう。」


「…。」


 ユリウスは無言のまま、ボラードの後に続いた。



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