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煌星のバルトラ  作者: ハル
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宿にて


「それにしても、奴隷制度なんてものが罷り通っているなんて信じられないよ。」


 道中、至る所に奴隷の姿があった。人間のみに留まらず、中にはエルフや獣人もいるようだ。


 エルフや獣人など他種族を見るのは初めてだったが、それが奴隷として不当な扱いを受けている姿ということが残念でならない。


「エルフや獣人の住処は、帝国領にはないと思っていたけど…」


「密売人が捕まえてくるのよ。高値で売れるからって理由でね。」


《こんな辺鄙な土地がこれほどまでに栄えておるのは、あれを良しとする商いが認められているからというわけか。》


「あら、けだまちゃん見た目に似合わず鋭いじゃない。」


「おいっ!もふもふだの、けだまだの、勝手に変な呼び名をつけるでないわ!」


 ジュノがプンプンと怒りを露わにしている横で、シャンディラは気にした様子もなく続けた。


「交易が盛んな場所は、海に面していることが多けれど、ここは内陸にも限らず様々な物や人が集う。

その理由は、もちろん立地的な要素もあるのは事実だけど、でも1番の理由はね、大陸内で唯一、この場所は奴隷取引が国によって黙認されているということ。」


「国が認めている…?」


「大々的に許可を出しているわけではないわよ?ただ、ここを収めている領主が…まぁ、ちょっとこんなところで大っぴらに話せる内容でもないから、詳しくはまたあとで説明するわ。」


 その後、シャンディラの案内で、ユリウスたちは雑多な路地を抜けた先で、宿屋らしき建物へと辿り着いた。


 木組みの柱には細かな彫り込みが施され、天井から吊るされた灯具は金細工を思わせるような複雑な造りをしていた。壁には色鮮やかな絨毯が飾られ、窓際では透明なビーズのカーテンが光を受けて揺れている。


どこか異国情緒の漂う佇まいの美しい内装にユリウスは目を奪われた。


 一階の酒場には数人の男女がいて、ユリウスたちが中へ入ると、チラリと視線を向けたが、またすぐに談笑をはじめた。


「ここのオーナーとは顔見知りなの。お礼と言っては何だけど、リフノア滞在中は、ここの部屋を好きに使って。」


 シャンディラはそう言ってパチリと愛嬌たっぷりに目配せをし、鍵を指先でくるくると弄んでいる。


「そんな、悪いよ。」


「いーの、いーの!言ったでしょ。仮は作らない主義なの。」


 シャンディラは「ついてきて!」とユリウスの返事を待たずに階段を登っていく。


階段を上がると、二階には長い廊下が続き、小さな個室が一定の間隔で並んでいた。


 突き当たりの部屋に通されたユリウスは、勧められたソファーに腰を下ろす。清潔感があり、過ごしやすそうな部屋だ。内装や装飾品もこだわりを感じるものが多く、目が楽しい。


「素敵な部屋だね。」


「気に入ってくれたならよかった。好きなだけ滞在してちょうだい!命を救ってもらったお礼としては少し軽いくらいだけど。」


「そんなことないよ!なんだか申し訳ないくらいだけど…甘えさせてもらうことにするよ。ありがとう。」


 ジュノはいつのまにかベッドに寝そべりゴロゴロころがっている。どうやらお気に召したらしい。


「ふふ。気に入ってくれたみたいで嬉しいわ。…さて、ここなら他の目も耳もないし話しやすいでしょう。」


 シャンディラはユリウスの対面に腰を下ろし、真剣な眼差しでユリウスに向き直った。


「さてーーさっそくだけど、ここを収める領主の話をしたわよね。奴隷制度に怒りを覚える気持ちは正直わかるわ。

でも、この町でその件に深入りすることはタブーなの。怒りのままに動けば、間違いなく“排除”される。この問題はかなり根深いところにあるの。」


「……排除っていうのは?」


「奴隷は様々な経路で集められる。貧困ゆえに親に売られた子なんかも多いけど、中には人攫いによって無理やり連れてこられた人もいるわ。

大事な人を連れ去られた人たちが、ここへ連れ戻しに来ることも実はよくある。けれど、代金を払えなければ、どうしようもできない。領主に逆らおうものなら、その後ろ盾の登場よ…。」


「後ろ盾…というと?」


「ここの領主の後ろ盾は、ヴァルカディア帝国第一皇子、ライハルト。王子様に出張ってこられちゃあ、平民にはどうしようもできない。そして、逆らった物たちの行き着く先は、みんな同じ。」


「ずいぶん詳しいんだね。」


「商人ってのはね、耳をいくつも持っているものなの。情報がすべて。

……だからね、いい? 余計なことはせず、自分のことだけ考えて、目を瞑っておきなさい。それが賢い生き方というものよ。恩人をみすみす死なせるようなマネ、したくないの。」


 シャンディラからは、真摯な思いが伝わってくる。本当に、ユリウスの身を案じてくれているのだろう。


「……シャンディラの気持ちは、ちゃんと伝わったよ。」


 シャンディラの気持ちはわかる。心配きてくれていることにも感謝している。それでも、やはりこのまま何もせずにいることはきっとユリウスには無理だ。


ユリウスは顔を上げ、まっすぐにシャンディラの目を合わせた。


「でも、この目で何を見て、どう生きるかは、僕自身が決めるべきことだ。君もそうやって生きてきたはず。」


 シャンディラの瞳が揺れる。息を飲み、そのままユリウスから目を逸らすことなく、こちらを見ている。


「……そうね、その通りだわ。」


 しばらく沈黙が落ち、シャンディラは小さく笑った。


「……あなたって、本当におもしろい。そんなまっすぐな瞳を見たのはいつぶりかしら。キライじゃないわ、そういうの。


まあ、今夜はゆっくり休みなさい。頭が冷えたら、少しは気持ちが変わるかも。」


「うん。ありがとう、シャンディラ」


 彼女は立ち上がり、背を向ける。しかし扉の前で、ふと足を止めて振り返った。


「……言っておくけど、私だって、好きで目を瞑ってるわけじゃないわ。」


そう言い残し、彼女は部屋をでていった。




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