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臆病なわたしと花屋のきみ  作者: 佐倉涼@もふペコ料理人10/30発売


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打ち合わせとスズランとスイートピー②

 結婚式の装花にどれほどの情熱を傾けるかは人それぞれだろう。

 式場提携の花屋が手がける場合、一、二回打ち合わせをしてイメージを固めて当日に挑む新郎新婦もいる。値段から選ぶ人もいるだろうし、色味と雰囲気だけ伝えてあとはお任せという人もいるだろう。

 竜胆が手がける装花は、唯一無二なものばかりだ。

 こだわりを持って式に挑む人々に、花で彩りを添えるーー花は会場に入ってすぐ印象を与えるものだから、慎重に作り上げなければならないと竜胆は思っている。

 イメージを図に描き起こし、納得いただいて初めて当日に臨む。

 だから竜胆は、生半可な気持ちでは引き受けられなかったのだ。

 店の仕事をこなしながら鈴木夫妻の結婚式のために装花のイメージをする日々がはじまった。

 朝、花材を仕入れに花き市場へ行き、そこで結婚式で使えそうな花がないのかも探す。そうすると店に戻る時間が若干遅くなってしまうのだが、母が仕事復帰したことで水揚げ作業がスピードアップしたので問題ない。

 日中は営業に集中して、閉店後にイメージ図を描く。会場の装花のことだけ考えればいいというわけではない。

 ウエディングドレス用のブーケとブートニア。それにカラードレス用のブーケ、ブートニア、花冠まで手がけることになっているので、ドレスの写真と合わせてみて映える花になっているのかを考える必要がある。

 竜胆はこうした全てを手書きで描くようにしている。ネットでイメージに近い写真を拾って切り貼りしているだけだと、どうしてもオリジナリティに欠けてしまう。せっかく自分を選んでくれているのだから、期待に応えて全てを一から描き起こすーーそういう姿勢が竜胆を若手人気のフラワーデザイナーの地位へと押し上げたのだ。

 しかしこの仕事、どうしても竜胆一人だと男目線になってしまう。もしかしたら無骨に仕上げすぎているのかもしれない、と不安になったりもする。以前の会社に勤めている時であれば同僚の女性のフラワーデザイナーの意見などが聞けたのだが、今は難しい。

 そこである日の仕事終わり、竜胆は同じく仕事を終えた織本に尋ねてみた。


「なあ、織本さん。ちょっとこのイメージ図見て欲しいんだけど」


 エプロンを畳んで鞄に入れた織本が近づいてきて、竜胆の持つ十枚のコピック用紙を眺める。


「これ塩崎店長が描いたんですか?」

「そう」

「絵、上手いですね……! フラワーデザイナーって、絵も描けないとダメなんですね」

「絵が苦手な人もいたし、ダメってわけじゃないけど。白と青で統一して、ナチュラルな感じに仕上げてみた。どう?」


 織本はコピック用紙を受け取ると、一枚一枚時間をかけてじっくりと眺める。


「すごく素敵で、いいと思います……! 繊細で優しさがあって、清純な感じがして。私も実物見てみたいです」

「織本さんにも来てもらうよ」

「え?」

「人手が足りないから、当日は装花の手伝いに来てもらう」

「えっ、えっ」

「早朝手当てはずむから、よろしく」

「ええー!」


 てっきり他人事だと思っていたらしい織本は驚いていたが、最後には「……邪魔しないように、精一杯頑張ります」と言って頭を下げてくれたので、とてもいい子だなと思った。

 日々はあっという間に過ぎ去っていく。

 竜胆が忙しくしている間に梅雨が過ぎ、夏がやってきた。暑さは花にとって致命的だ。気をつけなければあっという間に枯れてしまうので、一年で最も花の扱いに気をつけなければならない。

 そしてお盆前が、古川書店の最後の営業日となった。


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