浮気されたので、金をぱーっと使おうと思います
「何故浮気なんてしたんですか」
自分で思っていたより低い声が出た。でも、私のそんな非難も彼はどこ吹く風だ。
「だって、お前が美人じゃないのが悪いんだろう。デブスなお前の婚約者でいてやるだけ感謝して欲しいね」
まあ確かに私の容姿はものすごく悪い。亡くなった父に代わり、十八歳の若さで侯爵となった私。
幸いにも、親身になってくれる親戚たちの支えと古くからの使用人たちの協力、そして領民たちの支持があってなんとかやっていけている。元々、遠い将来には女侯爵となる予定で勉強していたからそれも大きかった。
それでも加速するストレスから、やけ食いを繰り返して今ではすっかり醜くなった。だから、この男にバカにされるのも舐められるのも仕方がない。けれど、浮気するような男を侯爵である私の夫にする気もない。
「婚約は破棄させていただきます」
「…は?」
「貴方は私の夫に相応しくありません」
私のその言葉に逆上した彼は殴りかかってきた。しかし使用人の一人、最も信頼している腹心の部下が守ってくれる。
「さようなら」
そのまま屋敷から叩き出した。そして、彼の所業の証拠を彼の親である伯爵に突きつけて婚約は破棄した。
私の容姿も原因の一端なので請求する賠償金は最小限にしたが、伯爵は最後まで青い顔で謝り倒していた。
彼は伯爵から勘当されて、行くあてもなくスラムに流れ着いたと風の噂で聞いた。彼は私の婿になる予定の三男だったので、浮気なんぞしたらさもありなん。
「さて、バカと別れたおかげでお金が少し浮いたわね」
今までは色々な付き合いもあって、バカの実家になんだかんだと援助もしていた。しかしこれからはそんな必要はない。
私の容姿も理由の一端ではあるが、あちらの有責で婚約破棄したことに違いはない。付き合いのある人たちも、もうあのバカの実家に援助しろとは言えまい。
まあでも、息子の一人だけはバカだったとはいえ基本世渡り上手な一家だ。バカを切り捨てた以上、うちからの援助が無くなっても色々上手くやっていくだろう。
「浮いたお金は何に使おうかなぁ」
元々あのバカとは、お互い好意はなかった。痩せてた頃も含めて。だからこちらに精神的ダメージはない。
とはいえせっかくの浮いたお金。さらに微々たるものとはいえ賠償金もある。ぱーっと使ってしまいたい。
「…エステとか、やっちゃう?」
「良いと思います、お嬢様」
腹心の部下の後押しもあり、激痩せ激美肌が売りのヤバい人気のエステティシャンを浮いたお金の分だけ今月中に呼びまくることにした。
それが正解だった。
一ヶ月間エステティシャンさんの施術を受け続けた結果。
「お嬢様、体型戻りましたね。元のお美しいお嬢様だ」
「や…やったー!」
「余ってしまった皮も、あのクソ野郎の実家からの賠償金を使って取れましたし」
「エステティシャンさんのエステの腕と魔法すごい!肉は施術で落として、皮まで傷をつけずに綺麗に魔法で取ってくれるのヤバい!」
「でも、もう暴飲暴食はやめましょうね」
優しく窘められてさすがに反省する。
「はーい」
とはいえ、月々あのバカの実家に援助していた分が浮いたので一ヶ月経った今月もまた自由に使える分がある。
ストレスで暴飲暴食するのを防ぐためにも、何かしら楽しいことに使いたい。
「…うん、よし」
「どうされました?お嬢様」
「今月分のあのバカ関連で余ったお金全額、使ってない別邸に使うわ」
うちの敷地内には、大きすぎるくらいの本邸の他に使っていない別邸がある。しかも二つも。
先先代が色ボケだったらしく、愛人宅として利用していたらしい。アホか。
だが、勿体ないのだ。頑丈な建物で今もしっかりと残っているし、ヤバいことにならないよう使用人たちに定期的にお掃除もしてもらってるから普通に綺麗。いつでも使える状態だ。
なので使わないのは勿体ない。むしろドンドン使いたい。
というわけで!
「別邸に使うというと?あそこはいつでも使える状態ですが」
「うん、あの別邸を使うのに使うのよ」
「???」
「ニャンちゃんとワンちゃんを!我が敷地内にたくさんお迎えするのよ!」
「ああー…」
ヤベェ、という顔をされるが知らぬ。お迎えすると言ったらするのよ!
というわけで早速、国内の慈善団体から『欠損や病気のある』ニャンちゃんとワンちゃんを集める。
そして、ニャンちゃんとワンちゃん用の極上ポーションを与えた。これが意外と高くて、あまり多くのニャンちゃんとワンちゃんをお迎え出来なかったのは痛い。
それでもその結果欠損した身体の部位を取り戻したり、病気を完治するニャンちゃんとワンちゃんたちを見るとガッツポーズは出てしまう。治ってくれてよかった!元気に生きて!うちで!うちの敷地内で!私の目に見えるところで!!!
ちなみにニャンちゃんとワンちゃんたちはそれぞれ別の別邸にいてもらっているが、いつか嫌がらない子たちは交流もさせたい所存。まあそこはその子たちの性格による。
「ペット用ポーション、想定外に高くてお嬢様の理想ほどの頭数はお迎え出来ませんでしたね」
「それはそうだけど、その分定期的な検査とかの病院代とご飯代が想定の範囲内だったから助かったわ。ペット用ポーションについても保護団体に連絡する前に事前に調べておいて正解だったわね」
「ええ、飼うならばやはり事前に色々調べるのは大切だと学びましたね」
「よかったよかった」
「まあ、一番の出費はペットの面倒をみてもらうため新しく雇い入れた使用人たちの存在でしょうけれど」
うん、正直一番お金を使っているのはそこ。でもいいのだ。
雇用も生み出せるし、ニャンちゃんとワンちゃんはまだ人間に警戒してるけど基本穏やかに過ごしてるし、私はニャンちゃんとワンちゃんを見に行くだけで心が癒され暴飲暴食をしようとも思わないし、お金は浮いた分で済ませてるし。
誰もが幸せになり、誰も不幸にはならない。
え?援助を受けられなくなったバカの実家に関しては我関せずだ。知らん。
あのバカ自身はもっと知らん。きっと、新しく雇った人たちが全員スラム街でスカウトした動物好きの人なのも、その中にあのバカに似ているのが一人いるのも気のせいだ。名前も違うから気のせいだ。あのバカに影響されて動物好きになった過去も気のせいだ。
「…お嬢様は少しお人好し過ぎます」
「あーあー聞こえなーい」
「まったく…」
見てみれば呆れた表情だけど、この人だけは私を見捨てないという確信があるから平気で甘える。
「そうそう。それと結婚そろそろ考えなきゃね」
「そうですね」
「知り合いにちょうど、辺境伯家の末の息子で優秀な人がいるから婿にどうかな」
「おや。いいですね」
「妾腹なんだけど」
それを言うと、悟ったらしく驚いた顔をされる。
「受け入れてくれたら嬉しいなぁ?」
この言葉で完全に理解したらしく、腹心の部下は顔を真っ赤にして手で覆った。
「…私でいいんですか」
「うん!貴方がいいの!」
「仕方のない人だ…」
ということで、受け入れられた。これからはニャンちゃんとワンちゃん、そして旦那様に囲まれて大家族として幸せに暮らそうと思う。
【長編版】病弱で幼い第三王子殿下のお世話係になったら、毎日がすごく楽しくなったお話
という連載を投稿させていただいています。よかったらぜひ読んでいただけると嬉しいです。




