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救世のピルグリム  作者: レヴィン・コール
3/6

墓の上の少女

 ある程度はっきりと周囲を認識できるようになると、やはり吹雪の中を歩いていた。

 

 ふと疑問に思う。

 僕は、どこへ向かっているのだろうか。

 この先に、一体何があると言うのか。

 あるいは、目的なんて、終わりなんて、ないのか――

 

「あっ、」

 

 ――そんな思考に意識を預けていたせいか、僕は足元の()()に気づくことができず、足を取られて顔面から雪の中へと沈み込むことになった。

 

「……なんだ……これ………………」

 

 立ち上がり、何につまずいたのかと足元を見てみると、そこには半透明で虹色の不思議な物体が顔を出していた。

 何か、得体の知れない禍々しさを伴った紫色の光を纏っている。

 そいつの周りの雪をいくらか手でかき出してやると、それは大きな、それこそ人が一人二人入れそうなくらいの球体だとわかる。

 

――否。入れそうな、ではない。

 

 半ば反射的に生み出した火の玉が、思い描いたように球体の周りを一周した。

 

 それに触れた雪はシュアッと音を立てて白煙になり代わり、そのまま大気の中に霧散していく。

 

「これ……は…………」

 

 球の中には、胎児のように丸まった状態の女の子が入っていた。


「――あれ、なんか……火、吸われてる…………?」


 僕がそれに気づいたのとほぼ同時、結界はふわりと、大気に溶けるように霧散していった。

 解き放たれた少女は重力を感じさせない動きで地面に足をつけると、緩慢とした動きで目を開け、数度パチクリとした後、静かに口を開いた。

 

「……あなたは…………だれ?」


 少女が捉えているのは、当然青年である。


「僕は……僕…………は………………誰、なんだろうね?」


 二人の間を、変な風が吹き抜けた。


「へんな…………ひと?」

「そうかもしれないね。……ところで、君は誰?」


 少女は数秒静止したあと、眉根を寄せた。


「……わたしも…………何もわからない。…………あと、さむい」


 そう言った少女は、いきなり手を叩いた。

 すると少女の纏っていたワンピースがひとりでにグニャグニャと動き出し、一度球体になったかと思えば次の瞬間には急速に萎んで体にぴっちりとーー張り付くことはなく、それらはコートやマフラー、ブーツへと姿を変えていた。

 

「……すごいね」

「……すごい」

 

 二人の間に、再び変な空気が流れた。


「……え、それはそうなることをわかっててやったんじゃないの?」

 

 少女は首を横に振った。


「…………癖?……みたいな」

「……なるほど」

 

 会話が一区切りついて、僕はふと辺りを見回した。

 そして、気づく。

 分厚い、自らの背丈よりもはるかに高く降り積もった雪のその下。

 自らが足をつけているここが、墓地であったことに。

 

――私は、ここで待ってる

 

 不意に、何かの光景が脳裏を過った。

 セピア色の、ノイズ混じりの光景が、なぜだか胸をひどく締め付ける。


――またいつか、必ず。


「――待ってくれ!!まだ、まだ――」

「?どうし――」


――瞬間、僕が半ば無意識的に伸ばしていた手の先を起点として、どこまでも草原が広がっていった。

 いつの間にか流れていた涙が大地に染み込み、そして蒼の花園が広がっていく。




「これは……」


 少女は青年の方を見るが、青年も何に対してその言葉を発したのかはよく分かっていないらしかった。

 ややあって、青年は力なくその手を下ろすと少女に向き直る。


「ごめん、取り乱した。……僕も詳しくはわからないんだけど、僕は意識が戻るたびこうなって、そしたらまたしばらく意識を失うんだ」


 少女はしゃがみこむと、咲き誇る花々の一つに軽く触れた。


「蒼いアイピルス…………花言葉は、たしか……また会う日まで、忍耐、幸せな思い出………………」


 少女は、青年へ再度目をやった。


 一陣の風が吹き抜けて、花びらが一斉に空へと舞い上がる。

 それらはやがて、その広大な青をさらに深めんとするかの如く混じって溶けて、消えていった。

補遺

 今回の解読には、ずいぶんとかかってしまった。

 というか、もともと――――で――てあるからそれだけでこっちは手いっぱいだっていうのに突然――――まで使ってくるとか、読ませる気ないだろこれ。

……それにしても、聖女――とこの花言葉の蒼い花、という事はもしかして――か、――か、あるいは――だろうか?

 もしそうだったら、多少解読が楽になるんだが……いや、 どこかで呪詛の話が出れば確定とみていいだろうがそれまでは仮説に留めておいた方が無難か。

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