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魔剣使いのリリィさん  作者: kano
8/14

『ぐおお…ダレだ…』

その存在は、うめく様な声を上げた。

私たちは一瞬たじろぐ。

なぜなら、そいつはとんでもない魔力を持っていることに気づいたからだった。

この奥の間に、何にも近づかない様に閉じ込められていた。

この存在に取り込まれる者がいないように。

その存在の姿は醜悪だった。

巨大な肉の塊。

青白い皮膚と3本の腕。

足は無数の触手だった。

顔は赤い目玉が1つ。

それは確かに妖精だったのだろう。

背中に不釣り合いな、青い昆虫の羽が生えていた。

魔に取り憑かれた妖精の成れの果て。

私たちはその魔力の強力さにひるんだ。

私は魔剣を抜いた。

皆んなが戦闘体制に入る。

「いくぞ!リリィ!」

「うん!」

私とライオットが走り出す。

後ろではミオンの祝福が唱えられていた。

「祝福よ!」

私たちに強化の魔法がかかる。

そしてすぐに、コルトが呪文の詠唱なしで魔力の玉をぶっ放した!

「マジックミサイル!」

私たちの横をすり抜け、魔力の玉は奴に命中する。

奴は一瞬怯んだ様だった。

そこを見逃さずに、私とライオットは、剣を振るった。

私の魔剣が、奴の3本の腕のうち、1本を切り離した。

ライオットは走りながら、奴の足元を薙ぎ払う。

触手が数本飛んだ。

ズズン…

奴はバランスを崩して倒れた。

そこを狙うように、ルルカの弓矢が降り注ぐ。

攻撃を全てくらい、それでもまだ蠢いている。

奴の腕が私の方へと伸びて来た。

私は身をよじってその手をかわす。

腕が宙をつかんだ。

私はその腕も魔剣で切り落とした。

「大丈夫!強いけどいける!」

私の声にみんながうなづいた。

奴の体力はあまり削られてはいない様だったが、腕を2本、触手を数本切り落としたのだ、戦力はダウンしている。

フェーンが魔力を解放し、魔物の姿に戻っている。

フェーンはルーンを守る様に立ち尽くしていた。

私は地面に降り立った。

フェーンとルーンを背後に庇いながら、奴に対峙する。

その時奴の姿が歪んだ。

ブウウウン…

羽が鈍い音をたてて鳴っていた。

「なに?!」

ライオットが私の横に立ちながら、そいつの姿を凝視する。

そいつは変身していた。

さながら第二形態へと。

巨大だった体は小さくなり、人の姿をとりはじめた。

頭に2本のツノが生えていた。

背に妖精の羽を生やした人の姿に変化していく。

「メタモルフォーゼ…?」

私たちは変化していくそいつの姿を見ているしかなかった。

『我はメテオール…』

そいつは声なき声を発した。

その存在、メテオールは私たちの前で変化を遂げていた。

巨大だった体は人間サイズに。

青白い肌、赤い一つの目玉。

そして頭に青黒いツノを2本。

背中の妖精の羽は元の姿の名残なのか…。

『人間たちよ、我を滅ぼすというのか?』

「あなたは魔物に取り憑かれた、女王様の願いよ」

私が魔剣を構えながら答える。

あいつの魂を吸い取れば、終わりだ。

ソウルイーター…ノイジー、私に力を貸して

ライオットが走った!

メテオールに向けて一撃を振り下ろす。

メテオールは俊敏な動作でそれを避けた。

先ほどからは考えられないスピードだった。

かわされたその一撃から、体勢を立て直すまもなく、ライオットは剣を薙ぎ払った。

メテオールの腕に当たった。

そしてライオットの力を込めた一撃は、メテオールの左腕を飛ばした!

しかしメテオールは意に介さず、そのままの体勢から、ライオットにつかみかかった。

ライオットはメテオールに腕を掴まれた。

「くっ…!」

ライオットはふりほどこうとするが、メテオールの力は強い。

魔力が膨張していく。

ライオットはなんとか腕を振り解き、後方へ飛んだ。

「いくぞ!ウインドロスト!」

コルトがまた強力な呪文を放った!

魔力を発しようとしていたメテオールにコルトの放った風の刃が襲いかかる。

メテオールは傷だらけになっていた。

私たちの方が押している、はずだった。

メテオールは自らの体を輝かせ、切り落とされた腕も無数の切り傷も元通りに治ってしまった。

「回復されてる!」

埒が開かない!

このままじゃ…!

私は歯噛みしながらライオットに叫んだ。

「ライオット!私が魔剣で魂を吸う!援護して!」

「わかった!」

私はライオットと共に再びメテオールの前に立った。

時間をかければかけるほど不利になる。

一撃で仕留めなければ!

「コルト!マジックミサイル、もう1発出せる?!」

「は、はひっ!やります!大丈夫ですっ!」

後方でコルトが答えた。

魔力の流れが出来ていく。

大きな力の奔流。

コルトの前に力が集まって来ている。

渦を巻き、練り上げる様にコルトが魔力を集めていた。

『無駄なことだ。人間ども。我はお主らでは倒せぬ…』

メテオールのくぐもった声が聞こえた。

やってみなくちゃ!わからないでしょ!

コルトが魔力を放った!

「マジックミサイル!」

先ほどよりも大きな魔力の玉だ。

メテオールは大きく息を吸った。

魔力の玉はメテオール目掛けて飛んでいく、はずだった。

メテオールは魔力の玉を、そのまま体に吸い込んでしまったのだ!

「うそ…!?」

私は魔剣を構えながらたじろいだ。

まさかあの魔力の玉を吸い込むなんて!

「どうしたら…!」

その時だった。

「もう1発!行きます!」

コルトが叫んだ。

先ほどよりも大きな魔力の流れ。

なんてこと、この人、とんでもない!!

コルトは巨大な魔力の玉を生み出していた。

「吸い込んだとしても、内部で爆発させます!リリィさん!ライオットさん!よろしくお願いします!」

真剣な表情でコルトは叫んでいた。

私たちは彼の手から魔力の玉が放たれると同時に飛んだ。

剣を構え、メテオールを挟み撃ちにする。

ゴオオ…!

魔力の玉を今度はメテオールは吸い込まなかった、爆発させられたらただでは済まないと判断したのだろう。

魔力の玉は今度はメテオールに直撃した。

ライオットが剣を振るった。

メテオールの右腕が飛んだ。

私は後ろからメテオールの背中に魔剣を突き立てた!

「さぁ!終わりよ!」

魔剣はドクンと波打ち、メテオールの魂を吸い込み始めた。

『馬鹿な…魔剣?!ソウルイーターだと?!』

メテオールは苦し紛れに腕を伸ばし、私の右腕を掴んだ。

『ただでは死なぬ、キサマも道連れだ…!』

メテオールの体内から魔力が漏れ出してくる。

しかし私は焦らなかった。

魂と魔力、両方を吸い込み続けた。

「リリィ!」

ライオットの剣が、残っていたメテオールの左腕を叩き切った。

そして

体勢を立て直した私の手にある魔剣の力で、メテオールの魂は吸い尽くされた。

そして抜け殻になった身体だけが残った。

ひざまづき、がくりと首を垂れた。

動かなくなったメテオールを見て私は息をついた。

「か、勝った…」

ハァハァと、私は荒い息を吐き出しながら、天を仰いだ。

「大丈夫か!?リリィ!」

「ええ、なんとか…」

私はゆっくりと立ち上がり、魔剣を鞘に収めた。

「大丈夫!?ミオン!リリィに回復かけたげて!」

ルルカが私に走り寄って来た。

その後ろからミオンがやってきて、私に回復魔法をかけ始める。

「つ、強かった…コルトがいてくれたおかげで勝てた…」

私がぼそりとつぶやくと、コルトは顔を赤らめた。

「そうだな、今回はコルトの魔法に随分助けられた」

ライオットもそう言って、コルトの方を見た。

コルトは恐縮して、ますます顔を赤らめる。

「そ、そんな!ぼ、僕は自分に出来ることをしただけですっ!」

「すごかったよね〜コルトの魔法!」

ルルカがニコッと笑った。

「だよね!かっこよかったよ!」

ミオンにそう言われて、コルトはもじもじとし始めた。

「お姉ちゃーん!」

フェーンがルーンを抱き抱えながら、近づいて来た。

「フェーン!大丈夫??」

「うん!ルーンも無事だよ!」

そう言ってルーンを下ろすと、フェーンは小さな子犬の姿になった。

「わんっ!」

「フェーンたら、甘えたいのね」

フェーンが飛び上がって抱きついて来た。

私はフェーンを抱きしめ、撫でながらライオットに言った。

「メテオールは抜け殻になったのよね?」

「そのようだ、魂が入っていないからな、そのうち身体も死ぬ」

その時、フォっと風が吹き、私たちの前に妖精の女王、ティターニアが姿を現した。

「ありがとう、お主らのおかげでメテオールは眠りにつくことができるだろう」

ティターニアはそう言うと、メテオールの体にそっと触れた。

その触れられた部分から、光になり、やがて光の玉になって体は消えた。

メテオールの姿はもうどこにもなかった。

「言われた通り、これでよかったのですね?」

「そうだ、我々には歯が立たない存在だったのでな。助かった、礼を言う」

「いえ、そんなことは」

ティターニアは少し寂しそうな表情をしていた。

一体メテオールは女王にとってどんな存在だったのか。

私からは聞くことはなかった。

多分聞いたところでどうにもならないことなのだ。

こうして私たちは妖精界での戦いに勝利した。

そしてティターニアが私たちを人間界まで飛ばしてくれると言ってくれた。

「ルーンに入れた精霊はルーンを今後守り抜くだろう。精霊使いになる道が出来た。もう少し大きくなったら色々な精霊と契約するといい」

ティターニアの言葉にルーンはうなづいた。

「ありがとうございます!そしてみんなも…」

ルーンは泣きそうな顔をしていた。

「みんなが無事で良かった!ありがとうみんな!」

ルーンの言葉に和やかな空気が流れた。

そして私たちはそのまま妖精界を後にした。



「さて!大団円ね!みんなお疲れ様!」

私たちは戻って来た街の酒場でお疲れ会を開いていた。

私たちのテーブルにお酒や美味しい料理が運ばれてくる。

「かんぱーい!」

お酒のグラスを掴んで乾杯する私たち。

すっかりリラックスモードだ。

「それにしても、今回はコルトの活躍がすごかったな!」

ライオットがビールを飲みながらコルトに話しかけた。

「は、はひっ!」

コルトはビールをちびちびと飲みながら、ライオットの言葉にびっくりしていた。

「ぼ、僕はなにも!」

「いや!あの魔力!ただ事じゃなかったぞ!なぁリリィ!」

「そうねーびっくりだよね!」

私はフェーンとルーンに料理を取り分けながらうなづいた。

「だよねぇ、あれだけの魔力がありながら、初めての冒険だなんて!いきなりすぎるよねぇ!」

ケラケラとミオンが笑った。

ミオンは笑い上戸なのだった、バンバンとコルトの背中を叩かながら笑っている。

「ミオンー!飲み方!気をつけな!」

ルルカが嗜める。

「はーい♡」

ミオンはぐびくびとお酒を飲んでいる。

もーっ、とルルカがため息をついた。

「ねぇ、コルトー、お兄さんとは仲が良いの?」

ミオンに絡まれながら困った表情のコルト。

「は、はい、…兄と僕とは違って優秀で、魔力も僕なんかよりもずっと上で」

「そうなの!?あなた以上って、とんでもないわね」

私の言葉にコルトはははっと笑った。

「そうですね〜学園史上最大の天才児とか言われて」

「うそー、まじー?」

ミオンは完全に出来上がっている様だった。

「ねーコルトー、あれだけの力があるのに、なんでそんなに謙虚なのー?」

ミオンに聞かれてコルトはむず痒そうな顔をした。

「いえ…僕はそんなに凄くはありません」

「お兄さんと比べてでしょ?でもあなたの力、すごいんだよ?」

ルルカに言われてコルトは少し困った様な顔をした。

「だって、詠唱なしであの大魔法を放てるんだもん」

ミオンの言葉にコルトはへへ…と照れていた。

「でも、僕は本当に凄くなんて…」

そう呟いた時だった。

パターン!

いきなり酒場の入り口が開け放たれた。

ハァハァと息を切らしながら、1人の男が飛び込んでくる。

「だ、誰か助けてくれ!」

男の様子は尋常ではなかった。

「魔法使いが魔物に取り込まれて…!」

男があわあわと叫んでいた。

私たちは立てかけられていた剣に手を伸ばす。

他のテーブルでも冒険者らしいもの達が、店を飛び出して行った。

「私たちも行きましょう!ルルカはミオンとフェーンとルーンをお願いね!」

「わかった!気をつけて!」

私、ライオット、コルトの3人が店を出た。

それは街の広場にいた。

黒い虫の様な無数の足。 

赤い複眼の目玉。

そして…

魔物の頭部に人の姿があった。

確かに取り込まれている。

真っ暗な広場に魔法の灯りの玉がいくつも放たれた。

その魔物の姿が暗闇の中から見えて来た。

その時、コルトが杖を落とした。

「コルト、どうしたの?」

コルトの顔面は蒼白だった。

「う…うそだろ…」

震える声でつぶやく。

「コルト!?」

「嘘だ…なんで…兄さんが…」

私たちはその言葉に驚愕した。

そして魔物に取り込まれた人の姿を見た。

確かに、コルトと同じ顔をしていた。

双子の兄だったはず。

コルトと同じ顔をした青年は魔物に取り込まれて呻き声を上げていた。

「た、助けてくれ…!」

「兄さん!」

コルトが叫んだ。

私たちはこの状況に、何も出来ないでいた。

魔物を放っておいては危険なのに。

でもどうすれば??


街での戦闘が始まった。

しかしあまりにも残酷な、現実。

この状況で何が出来るのか、私は考えを巡らせることしかできなかった。

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