14
ノイジーはクオルドと対峙していた。
クオルドは強い。
ノイジーが両手で印を結んだ。
「ハッ!」
魔力が発動する。
その力は自らの力をアップした。
集中力、命中率、攻撃力のアップ。
ノイジーは剣を抜いた。
クオルドと物理攻撃で戦うつもりだ。
クオルドはクフフと笑った。
「魔人よ、お前の力で我に勝てると思うのか?」
「ふん、言うほど強いのかな?お前」
トン
ノイジーが飛んだ。
剣を構え、一直線にクオルドへと飛びかかる。
しかしクオルドはライオットとルルカを離して、両手でノイジーの攻撃を受けた。
キイイン!
甲高い音がする、クオルドの皮膚は硬い。
ノイジーは一旦体勢を立て直し、地面に降り立った。
クオルドはまだ笑っている。
「我はのぅ…お前のことが気に食わなかった…それがこうして直接手を下せるとは、笑いが止まらぬ」
「ふん、狩られるのはどっちかね」
ノイジーが剣に力を込めた。
ぼうっと紫の光が剣の刀身に宿る。
「さて、俺の一撃、喰らって無事に笑っていられるかな?」
トンっと、ノイジーはまたクオルドに向かって飛ぶ。
クオルドはさすがに今度は一撃を避けた。
刀身に宿る光を避けたのだ。
間髪入れずに、ノイジーは皮を薙ぎ払う。
クオルドの腕の皮膚に当たる。
ズバッ
そしてのそのまま左腕を切り落とした。
「グ、グアア!」
クオルドが絶叫する。
私たちは離れてその戦いを見ていた。
ミオンとルーンが骨を折られたライオットとルルカを治療していた。
「お姉ちゃん」
フェーンがフゥッと息をついた。
「ノイジー兄ちゃん強いね…!」
フェーンが戦闘モードの獣人の姿のままで言う。
「そうね…!」
私はうなづいた。
どう見ても押しているのはノイジーだ。
私から見てもノイジーは強い。
初めて会った時から、ノイジーの強さはずば抜けていた。
私はギュッと魔剣の柄を握りしめた。
私たちに立ち入れるような戦いじゃない。
魔人同士の戦い。
それはあまりにも壮絶で
ギィン!
ノイジーが再びクオルドの右腕を切り落とした。
「く、くそおおおお!」
クオルドが絶叫する。
このまま勝って…!
私はノイジーの勝利を祈っていた。
フェーンが叫ぶ。
「ノイジー兄ちゃん!危ない…!」
一瞬だった。
クオルドは自らの舌を伸ばしてノイジーを攻撃した。
ズバッ!
しかしノイジーの剣が一閃して、クオルドの舌を切り落とす。
「ぐああああ!」
クオルドはノイジーから離れた。
もうノイジーの勝ちは当確と思えた。
しかし
クオルドの姿が、シューシューと煙を出し始め、見えなくなっていく。
なにこれ…!?
なんとクオルドはメタモルフォーゼしている。
切られた腕が戻り、舌も戻っていた。
そして現れたのは人型の姿…
長い髪にフサフサのしっぽ
獣人だ。
フェーンが低くうめいた。
「グルル…あいつ、僕と同じ…!」
「フェーン…!」
私はフェーンを落ち着かせるために喉元を撫でた。
グルルとフェーンが喉元を鳴らす。
フン!とクオルドは吐き捨てるように言った。
「まさか貴様ごときの前に真の姿をさらすことになるとはな」
クオルドがうめくように言う。
私たちの前でクオルドは変身した。
人型の姿になり、頭には耳、尻尾も生えている。
狐の獣人のようだった。
その姿を見てノイジーはつぶやいた。
「獣人か…今までの姿はこけおどしか何かかな?」
「フン、なんとでも言え」
クオルドは牙を剥いた。
「我は貴様らごときに負けぬ」
「なんでラルトをさらったんだ?貴様の意思なのか?」
ノイジーが少し意味深なことを言うと、クオルドはグフフと笑った。
「人間の魔力が必要なんだよ、我々にはな」
「我々…?」
ノイジーがぴくりと眉を顰めた。
「お前、1人じゃないんだな」
ノイジーのつぶやきのような言葉にクオルドは薄く笑っていた。
ノイジーは今度は剣を縦に構える。
「言えよ、何を企んでる」
クオルドは笑みを浮かべたまま、戦闘体勢だった。
ぶるっとクオルドのしっぽが震えた。
「近々、我々は人間狩りを行う」
「なに…?」
クオルドの言葉をノイジーは聞き返した。
「人間の魔力を100人分集める。そして魔王様を復活させるのだよ」
クオルドはそう言うと、心底陶酔し切った顔をしていた。
「まず手始めにお前たちの魔力を得るために、その魔法使いをさらった、どうせこちらに来るとはわかっていたしな。仲間も合わせて手に入れるつもりだった」
舌なめずりしそうな表情、しかし、急に目を見開き、ぐっとノイジーを睨む。
「しかし、お前が邪魔をした!お前さえいなければ、簡単に魔力が手に入ったはずなのに!」
クオルドは怒りでノイジーを睨みつけていた。
魔王。
この世界を恐怖で支配しようとした存在。
遥か昔に滅んだとされる伝説の存在だ。
その昔、この世界に勇者と呼ばれる者がいた。
魔王は世界を我が物にせんとしていた。
しかしそれを勇者に阻まれ、勇者の前に倒れた。
勇者は仲間と共に世界を救った。
…と言われている。
これはただのおとぎ話だと思っていた。
しかし、実際に魔王を復活させようだなんて。
私はギュッとフェーンの腕を掴んだ。
「クゥン…大丈夫だよ、お姉ちゃん」
フェーンが私に語りかける。
私はフェーンの首にギュッと抱きついた。
魔王を復活させようだなんて…!
「そんなこと、出来るわけない」
私は小さくつぶやいた。
クオルドはノイジーと対峙しながら、陶酔した表情だった。
ノイジーはふむ、とつぶやき
「確かに、魔界の住人の中には魔王を復活させようとする一派がいることはいるが、まさかお前さんがとはな」
「そうだ、我々は魔王様を復活させることを希う者、我々の邪魔をするなよ、魔人」
「魔王を復活させて何をする気だ」
ノイジーの問いかけに、クオルドはまたニヤリと笑った。
「破滅…世界の破滅だよ」
私たちは言葉を失った。
征服ではなく、破滅?
どうして?
「どういうことなの!?」
思わず私は叫んでいた。
クオルドはニヤニヤ笑っている。
「世界を救ったとされる勇者の話、奴らの存在は我々にとっては邪魔なだけだ。下賤の者たちはまた勇者が救ってくれると思っている。伝説とされた魔王様が復活すれば、勇者もまたあらわれると」
クオルドは捲し立てる。
「そんな幻想を打ち砕く、徹底的な破壊。それが我々の求めるところだ」
ノイジーは冷静な面持ちだった。
「この世界を破壊し尽くす、それが我々の本来の姿だ。人間などに加担する、お前のような軟弱な奴らとは違う!」
ダンッとクオルドは一歩を踏み出した。
「魔人よ、お前はなぜ人間に味方する?実際お前も魔の者ではないか、理由はなんだ?」
逆にクオルドから質問され、ノイジーは一瞬黙った。
しかし、次の瞬間にらその顔に笑みを浮かべていた。
「大切な人がいるんでな、その魂の高貴さに惹かれた。俺はソウルイーターだ、魂の質がどんなものか、一目でわかる」
ノイジーはそう言うとチラリと私を見た。
私はドキッとして、思わずフェーンの毛皮にしがみついた。
フェーンは少しびっくりして、そして私の頭に手を乗せる。
「お姉ちゃん、どうしたの?怖くないよ…」
なでなでと私の頭を撫でる。
ワタシは涙が出そうになっていた。
私の周りの魔の者たちは優しすぎるのだ。
どうしてこんなに優しいんだろう
私はフェーンにしがみつきながらそう思った。
「とにかく、俺はお前たちにとっては敵対勢力らしいな」
「そうだな、邪魔をすれば…滅するのみだ」
クオルドは低く唸り、身を屈めた。
ノイジーはヒュンと、剣を振るった。
衝撃波がクオルドに向かっていく。
クオルドは地面を蹴って飛んだ。
衝撃波は避けて、鋭い爪でノイジーの喉元を狙う。
ノイジーはその一撃を剣で受けた。
ギィン!
甲高い音が響いた。
「ノイジー!」
私は戦うノイジーを必死で見つめた。
ノイジーは私を振り返って笑った。
戦闘中だというのに、私は不覚にもドキッとした。
「さぁ、魔人よ!我を倒せるか!?軟弱な人間どもとつるむような者に、我と渡り合える力などないだろう!」
「ふん、のぼせあがるなよ」
ノイジーは再び印を結んだ。
紫の魔法陣が
ノイジーの周りに浮かぶ。
それから無数の剣が飛び出してきた。
その剣はクオルドを狙って飛んだ。
クオルドはその攻撃をなんとかかわす。
「なんと!貴様、やるではないか!」
「ふん…お前もな」
ノイジーが腕を翻す。
刃は再びクオルドを襲った。
クオルドは素早く動き、その攻撃を全てかわした。
身体能力が変身前よりも上がっている。
クオルドはノイジーに向かって飛ぶと、拳の一撃を突き出した。
ノイジーはそれを全て避けた。
魔人同士の戦いは凄まじかった。
ケタがちかう。
私はポカンとしてその攻防を見ていた。
「お姉ちゃん…ノイジー兄ちゃんは強いけど、相手も強いね」
フェーンがぐるると喉を鳴らした。
私はフェーンの喉元を撫でた。
とても私たちに手を出すスキはなかった。
戦いは延々と続くと思われた。
しかし
クオルドは、一旦引いた。
ノイジーは前へと進むが…
ニヤリとクオルドは笑う。
「侮るなよ!魔人!」
クオルドの手から金色の魔法陣が現れる。
中から出てきたのは金色の甲冑が2体。
「我もなかなか楽しめたぞ!しかしお前らの相手をしている暇はもうないんだ、こいつらに遊んでもらえ!」
2体の甲冑は一体はノイジーに向かい
もう一体は回復しているルーンやミオンの方へ…!
まずい!
私は魔剣を抜いた。
そしてルーンとミオンを庇いながら、甲冑と剣を交えた。
ギィン!
金属音が響いた。
甲冑には生命の息吹は感じられなかった。
傀儡だ。
操られている2体の鎧武者。
ノイジーは再び剣を振るって、甲冑とやり合っている。
その隙に、クオルドは笑いながら姿を消していく。
「ふふふ!ではまたな!愚かな人の子たちよ、そして裏切り者の魔人」
「俺は元々お前らの仲間じゃねーよ!」
ノイジーは言い捨てると、鎧を一体、胴元を薙ぎ払って倒していた。フェーンが甲冑に襲いかかった。
ガラン
突然甲冑がバラバラになって地面に落ちた。
クオルドの姿はもうなかった。
また新たな敵が現れた…!
ってところね
私は魔剣を鞘に戻した。
「ルーン!ミオン!大丈夫!?」
私が言うと2人は手をひらひらさせていた。
「大丈夫だよ!お姉ちゃん!」
「ありがと、リリィ、もう回復もバッチリよ!」
すると2人の手元から、ライオットとルルカが立ち上がった。
「まさか、骨を砕かれるとはな」
「すごい回復魔法だったね、ミオンはともかく、ルーンもここまで出来るのね」
ルルカの言葉にルーンは照れくさそうにしている。
「とにかく、敵さんはまた退散していったけど、私たち、だいぶ敵が多くない?」
ミオンの言葉にライオットがうなづく。
「そうだな、これもまた冒険の醍醐味か」
ライオットが軽口をたたいた。
「そうね、とにかくラルトを救出する目的は果たしたし」
ミオンが言うとラルトとコルトが顔を見合わせた。
「ありがとうございます!皆さんのおかげです!」
コルトがぺこりと頭を下げた。
「本当に、救われた。ありがとうみんな」
ラルトも弱々しい笑みを浮かべている。
「さーて!みんな!そろそろ俺の城に帰るかい?」
ノイジーが
剣を納めて、のんびりと言った。
いつものノイジーだった。
こっちに来てからずっと真面目なことしか言わなかったのに。
私はくすりと笑った。
「リリィさん!笑った?俺のこと」
「違う違う!なんかいつも通りになってきたなって」
私が慌てて弁解すると、ノイジーは頭を掻いた。
「そうだな、ずっと仏頂面してるのも疲れたしね!リリィさんが笑ってくれるなら、本望さ!」
私に向かってウィンクする。
かわゆ…!
思わず呟きそうになって焦った。
かわいすぎかよ!
「じゃあ、魔界探索は終わりだね!みんな帰ろ!」
ミオンの言葉に一同の空気がさらに和んだ。
魔人ノイジーの住居の城に戻ってきた私たちは今回の戦闘を振り返っていた。
厳しい戦いだったけど、ノイジーが味方になってくれたおかげで、なんとか敵を退けることに成功した。
しかし…
私はむすっとむくれている。
なんと、ノイジーは人間界に行けないらしい。
魔力の使いすぎで少し休むそうだ。
「リリィさん、そんなにふくれっつらしないで」
「だって…」
私の態度にノイジーは少しタジタジとなっていた。
「そうだ、何か通信機械があれば、いつでも話せるよ」
ノイジーの言葉に私はハッとした。
そして荷物を漁る。
底から丸い水晶玉が出てきた。
「あ、これ…」
「ね、これでしょ、通信機械って」
私が言うとノイジーはうなづき
「これがあれば魔界の俺といつでも通信できるよ、リリィさん」
「本当!?うれしい!」
私が笑うと、ノイジーはほおを赤らめた。
「その不意打ちにかわいいの、反則なんですけど」
私たちのやりとりを仲間たちはニヤニヤして眺めている。
しかしフェーンだけが、ムッとした表情だった。
「確かにノイジー兄ちゃんは強いよ!でも僕だって強いもん!」
フン!とふくれて人の姿から犬の姿になると、フェーンは一目散にかけてきて、私の胸に飛び込んだ。
「わん!わんっ!」
「あら、どうしたのフェーン…」
「やきもちか」
「かわいいね」
ライオットとルルカがくすくす笑っている。
「リリィ、罪な女ね」
ミオンがフッと笑った。
「みんな仲良くー!!!」
ルーンがわーっと叫ぶ。
「本当に面白いパーティだな」
ラルトが吹き出しながらつぶやいた。
「でしょ?僕もそう思う」
ニコニコ顔のコルト。
こうして新たな魔界での戦いを終えた私たち。
ラルトを無事に救出できた。
ノイジーはすぐには人間界に来られないけど、必ずきてくれると約束してくれた。
こうして私たちは魔界を後にすることになった。
最初の扉を潜ってやってきたところから戻る。
「ノイジー!待ってるからね!」
「わかってるよ!リリィさん!」
やり取りする私たちの周りをフェーンがワンワンと駆け回っていた。
こうして私たちの魔界探索は終了した。
新たな敵も出来てしまったけど、ノイジーがいてくれるなら怖くない、と思う。
戻ってきた私たちはすぐに宿屋に駆け込み祝勝会だ。
お酒を飲みながら美味しいものを食べる。
きっとこんな風に冒険を楽しんでいくんだろう。
そう思っていた。
新たな脅威が迫っていることも知らずに。




