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魔剣使いのリリィさん  作者: kano
11/14

11

その夜更け。

暗い紺色の夜空に月が浮かんでいた。

満月だ。

この月の下で今夜魔界への扉が開く。

私たちはグレイトフォレストの麓にいた。

夜風は初夏だというのに、肌寒い。

私は腕をさすりながら子犬姿のフェーンを抱っこしていた。

「ここで本当に大丈夫なのかな?」

私の誰に言うでもない問いかけにライオットが声を上げた。

「場所は合っているはずだぞ」

私たちは魔界遠征のために大荷物だ。

荷物に寄りかかっていたミオンが立ち上がった。

「大丈夫ー!きっとここで間違いないよ!」

「ミオン…その自信どこから」

ルルカはハーッとため息をついた。

ルルカとミオンはいつもこんな感じだ。

仲が良くて羨ましい。

「ふふ、私にはわかるのよ!このミオン様を信じなさい!」

ミオンの言葉に私たちの空気は和んだ。

なんだかんだ言って、このパーティのムードメーカーはミオンなのだ。

信じればなんとかなる。

ミオンの持論だが、プリーストらしいといえばらしい。

だが一歩間違えると怪しい宗教になってしまうのだが。

「皆さん、今回は僕の兄のためにありがとうございます」

ぺこりとコルトが私たちに頭を下げた。

私は大きく手を振った。

「何言ってんのコルト!水くさいなぁ」

「そうだぞ」

ライオットがうなづく。

「俺たちは仲間だからな」

「ライオットさん…」

コルトがぐすっと涙声になった。

「そうよーコルト!魔界に行くなんて体験、なかなか出来ないんだから楽しもうよ!」

ミオンの明るい声に私たちは笑った。

「魔界を楽しむ!?バトルしに行くのに随分のんきねぇ」

ルルカがふふっと笑って言った。

「しかし、魔界を楽しむなんて発想はなかなか出ないからな。それも貴重な体験だな!」

ライオットも笑っている。

私はそんなみんなの姿に心が晴れやかになるのを感じた。

これから魔界に行って、コルトの兄、ラルトを救う。

一見、悲壮な決意でもしそうなものだが、私たちパーティは違う。

みんなで冒険を楽しむ。

そんな感じで生き抜いてきた。

命がなくなりそうな場面も多かったが、私たちは乗り越えてきた。

その根っこにある考えが

『冒険を楽しむ』なのだ。

ルーンがぎゅっと私の手を握ってきた。

「おねぇちゃん、私たち大丈夫だね。みんな笑ってる」

ニコニコと笑顔のルーン。

「みんなとっても強いね」

「そうね…私もこのパーティだから勝てた戦いがたくさんあったと思うよ」

「そうだね、私もおねぇちゃんたちに会えてよかった」

ルーンはそうつぶやくと、すっと私に寄り添い、身体を預けてくる。

私はそんなルーンがとても可愛らしく、守りたいなと強く感じた。

「わんっ!」

フェーンが元気に鳴く。

その時だった。

急に陰っていた空が明るくなった。

満月が雲の間から姿を表した。

そして

その月の真下の方向に、光の筋が降りた。

ゆっくりと

そして大きな光に包まれて、巨大な扉が姿を現した。

「やった!出たぁ!」

ミオンがはしゃいだ声を上げた。

「よし!みんな行くぞ!」

ライオットが荷物を背負いながら言う。

「ルーン、私から離れちゃダメだからね」

「うん、おねぇちゃん」

私たちは連れ立って扉の方に歩み出た。

そしてミオンがゆっくりと扉に触れると

ギイイ…

軋んだ音を立てて扉が開いた。

「行こう!みんな!」

私の言葉にうなづいたみんなが、扉の奥の方へと一歩を踏み出した。





私たちが扉を潜ると、扉は私たちの背後で消えた。

深い森の中だった。

一見、魔界といえば恐ろしい場所に思えたが、なんのことはない。

私たちの世界とさほど変わらない印象だった。

「しかし、魔界の地図もないしな、こんな状態でラルトを探すのは少々厄介だな」

ライオットの言葉に私はうなづく。

「あのね、考えがひとつあるの」

私はみんなの前に一歩を踏み出した。

「魔剣に取り込まれたノイジーの本体がこの魔界にいるらしいの。まずはその人を探しましょ。きっと色々教えてくれると思うの」

「なるほど、それは一理あるな」

私の言葉にライオットがうなづく。

「その人に会って、ラルトのいる場所を聞くの」

何も知らない私たちにはそうするしかない。

あまりにも無謀な旅だとは思う。

しかしあまり時間をかけるわけにもいかないのだ。

結局のところ、冒険は決断の連続である。

すぐに決めなければチャンスを逃す。

「よし、ノイジーの本体を探そう、リリィ、どうやって探すんだ?」

「魔剣は知ってるよ」

急にフェーンが人型になって話し出した。

「魔剣の声を聞くといいよ」

「魔剣の声?」

私はそっと魔剣に耳をあててみる。

キイィン

高い共鳴音がする。

そして魔剣から光がすっと一筋放たれた。

光はどこかを指し示している。

「この先に行ってみましょう」

私たちは光の指す方向へと歩き出した。

ざっざっざっ

音のない森の中に、私たちの足音が響いていた。

「こっちでいいのか?」

「たぶん」

ライオットと私は前衛だ。

後ろにルルカ、ミオン、コルトと続く。

私のすぐ後ろには人型のフェーンとルーンがいる。

いつでも私が守れるように。

その時だった。

オオーッ

突然何かの叫び声がした。

獣のような声だ。

私たちは陣を組んで、辺りを見回す。

ギャーッギャーッ

突然目の前の茂みから魔物が飛び出してきた。

辛黒い姿をしている。

二足歩行、腕は長い。

右手に棍棒をもっていた。

ボサボサの髪、ギョロリとした目、大きく裂けた口。

口から舌が垂れ、乱杭歯が口元に並んでいた。

「戦闘だ!」

ライオットが剣を抜いて私たちを庇うように前に出る。

いつも思うがライオットは敵と戦う時に躊躇がない。

だからこそ私たちのパーティのリーダーで、頼れる前衛なのだ。

私たちはライオットに何度も救われたと思う。

「ミオン!呪文詠唱お願い!」

弓を構えたルルカの言葉に、ミオンは間髪入れずに詠唱を始めた。

「祝福よ!」

そして私たちにバフの魔法がかかる。

命中率アップ、防御力アップだ。

「皆さん!放ちます!」

コルトが最後尾から叫んだ。

彼は呪文の詠唱を必要としない。

魔法使いとしては天才的な存在だ。

「マジック・ミサイル!」

巨大な魔力の弾丸が何発も放たれた。

1発、2発、3発だ。

それを魔物はモロにくらった。

「ギャーッギャッ!」

ダメージがあったようだ。

魔物はくるりと背を向けると、茂みの中に消えていった。

「ふぅ、引いたか。思ったよりも怖くない相手だったな」

ライオットが息を吐きながら言う。

「そうね、魔界と言うからには覚悟していたけど」

私も抜き放った魔剣をしまった。

その時だった。

ギャーッ

再びあの魔物が戻ってきた!

ズシン…ズシン

しかも背後に巨大な姿を連れている。

「やばい!援軍を連れてきたぞ!」

ライオットは再び剣を構えた。

私もまた魔剣を抜く。

「援護を頼む!俺が出る!」

ライオットは叫ぶと剣を構えて飛んだ。

キィン!

そのライオットの一撃を、魔物は棍棒で受けた。

私はぐるりと体を捻り、その魔物の背後にいる影に近づいた。

「ぐえっ、ぐえっ」

その魔物は単眼だった。

巨大な姿、図鑑でしか見たことがない。

サイクロプスだ。

キィン!

剣の一撃が硬い皮膚に弾かれてしまった。

私は焦った。

「くっ!硬い!」

私は腰を落とし、再びサイクロプスに切りかかった。

ザクッ

腕に命中した。

硬い皮膚に阻まれて、魔剣は腕を切り落とせなかった。

「みんな!気をつけて!こいつ硬い!」

「わかった!私に任せて!」

ルルカが少し離れた距離から矢を放った。

狙いは単眼の目だ。

ドシュッ

矢が飛んだ。

何発か目に向かったが、サイクロプスは腕で目を庇った。

腕に矢が刺さる。

「もう一撃行きます!」 

コルトが叫ぶと同時に、私たちは中央のスペースを開ける。

魔法の通り道をあけたのだ。

「ウィンド・シックル!」

風の刃が飛んだ。

刃は最初の魔物とサイクロプスの体に当たった。

「ギャーッ」

腕を一本切り落とされ、魔物が鳴く。

サイクロプスは片足を一本切られていた。

「今だ!リリィ!」 

ライオットが叫びながら魔物に飛びかかる。

私はサイクロプスに向かって飛んだ。

ガラ空きになった単眼の目を狙う。

ドシュッ

「ぎゃーっ!」

サイクロプスの目に私の魔剣が深々と突き刺さった。

そしてライオットの剣は魔物の首をはねた。




ハァハァ…

私たちは息を荒く吐き出していた。

私たちは戦闘に勝利した。

2体の魔物を倒せたのだ。

魔界で初めての戦闘だった。

私たちは顔を見合わせる。

「とりあえず無傷で倒せたのは大きいね、良かった」

「そうだな、こんなところでダメージを受けると後が怖いからな」

私とライオットは剣についた血を振り払い、さやに納めた。

「思ったより固かったね」

「ああ、だかなんとかなった」

「コルト、魔力消費は大丈夫?」

私が聞くと、コルトはこくりとうなづいた。

「大丈夫です、あまり疲れていませんし」

「そっか!じゃあ回復は今はいいね」

ミオンがぐーんと身体を伸ばす。

「とりあえず!大勝利!ってことで!」

「相変わらずゆるいな」

ミオンの声にライオットが苦笑いする。

確かに最初の戦闘はなんとかなった。

しかし、このレベルの魔物だけじゃないはずだ。

もっと高位の魔物たちもいるだろう。

それを想定してみると、簡単に喜べる状況でもなかった。




魔物を倒した私たちはとりあえず野営をすることにした。

少しひらけた場所に、浅い洞穴をみつけた。

「とりあえず少し食べておく?」

ルルカが鍋を用意する。

「そうね、軽く何か食べよっか」

私の言葉に従い、みんなで食事をすることにした。

鍋でスープを作るルルカ。

ミオンはナイフでパンとハムを切っている。

私たちは軽く食事を済ませた。

先に食べ終わったコルトが、見張をしていたライオットと交代した。

そしてライオットが奥に来て、パンを齧った。

「魔界という場所は恐ろしい場所を想定していたが」

もぐもぐと食べながらライオットが言う。

「ちょっと、食べるか、しゃべるか、どっちかにしてよ」

「意外と口うるさいよな」

ミオンが嗜めると、ライオットはごくんと食べ物を飲み込み、話し始めた。

「割と普通の森のようだぞ。魔物も見た目ほど強くもない」

「それはまだわかんないよ」

ルルカの言葉にわたしはうなづいた。

「確かにね、まだどれほどか判断は難しいかも」

私が言うとフェーンが口を出してきた。

「魔物はね、さっきのは最弱レベルだよ〜」

フェーンからの魔界情報だ。

私たちはふむふむと耳を傾ける。

「僕でも勝てるレベルだったからね」

「フェーン、この魔界の魔物ってどれほど強いの?」

「とりあえず、妖精界で戦ったあいつレベルが普通だよ」

フェーンの言葉にみんなが黙る。

そして顔を見合わせた。

あれが普通のレベルか、なかなかなものね。

ということはまだまだ油断できないほど強い魔物もいるってことね…。

「俺からの提案だが、戦闘はなるべく避けて進まないか?」

ライオットが言った。

「あまり体力を使いたくない…全部倒していたらこっちがバテる」

「そうだね、それがよさそう」

「私もどれほど回復魔法使えるかわからないし」

「索敵して、逃げながら進みましょう」

ルルカの言葉にその場にいた全員がうなづいた。

「それがいいだろう」

「ねぇ、フェーン…ここって魔界のどこらへんかわかる?」

私が聞くと、フェーンはぱたっと尻尾を振った。

「ここは最上層だよ!」

フェーンの言葉に私たちは納得した。

そうだと思った…

「多分だけど、魔剣の本体は多分第三層くらいにいると思う」

パタパタと尻尾を振るフェーン。

「なんでわかるの?」

「魔剣が言ってるよ」

「えっ!?言葉がわかるの!?」

「うん」

フェーンの言葉に私は絶句した。

そっか、フェーンは魔剣の意思がわかるのね。

「じゃあフェーン、他の魔物に会わないように進める?」

「出来るよ!僕が先頭に立つ!」

フェーンはすっくと立ち上がった。

「僕が索敵して、いなそうな場所を教えるよ。第三階層にいけばいいんでしょ?」

「ちなみにだけど、フェーンの住んでた場所はどこなの?」

私の言葉にフェーンは尻尾を足の間に挟んだ。

心なしか怯えているように見える。

「僕は第4階層の出身だよ」

さらに強い魔物のいる場所なのね。

「ラルトを助けたら早く魔界は出たほうがいいよ」

びくびくとした表情のまま、フェーンが言った。

「ん?」

「だって、とても人間が敵う相手じゃないのもいるもんね」

フェーンはぷるぷると震えていた。

そっか…

確かに

私はフェーンを抱き寄せるとぎゅっと抱きしめた。

ぽんっとフェーンは子犬の姿に戻ってわたしに甘えて鼻先をほっぺたにおしつけてきた。

「ありがと、フェーン、心配してくれて」

「わんっ!」

相変わらずの元気な鳴き声だった。

しかしすぐに私から離れてまた再び人型に戻った。

洞窟の入り口から満月の光が差し込んでくる。

光を背にして立ったフェーンはどことなく寂しそうな顔をしていた。

「僕たちは仲間だから…みんなに死んでほしくないよ!」

フェーンが泣きそうな声でつぶやいた。

「ありがと、フェーン…大丈夫よ、無理はしないから」

わたしの言葉にフェーンは顔をくしゃっとさせて笑った。

こうして私たちの魔界探索が始まった。

この先何が待ち構えているのか。

私たちはまだ知らなかった。





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