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第92話 誤解


 一方その頃…。

 場所は“憑景”。なんてことの無い契約者の住む寮、その一室。カーテンを締め切り、真っ暗な部屋の中で空木恋花はうずくまっていた。


「……誰か来た」


 鼻を鳴らし、近づいてくる何者かに気づいた。

 近づいてくる足音、微かな匂いから、恋花はすぐにそれが誰なのか理解した。


「義牙。開けてあげて」


 義牙が扉の鍵を開けると、来訪者は陽の光と共に姿を現す。


「お嬢。いつまでそうしてんだよ」


 明光院飾音は部屋に入ると同時にうずくまっている恋花の下までのしのしと歩いていった。


「もうこうやって1週間は経つだろ。もういいんじゃねぇか」

「……」

「見たんだろ。お知らせ」


 それは任務から帰投した後、星衛桐緒によって報告をもとに、“憑景の衆”から通達されたことだった。


 ・石川家次期当主、石川綾児を敵性象物(ヴィジョン)への加担および組織の契約者を殺害した者とし、“憑景の衆”から追放、および石川家から除名処分とする

 ・特別認定契約者“三上四季”を“憑景の衆”から追放。契約者は見つけ次第速やかに捕獲することを命ずる

 ・飛鳥家当主“飛鳥茶誉”が名称不明の犯罪組織に拉致されたことを確認。見つけ次第保護することを命ずる。


 携帯端末に記された液晶上の文字に、飾音は顔をしかめる。


「ちなみに、石川先生が殺したって契約者は飛鳥のとこのパイセンのお付きの2人だ」

「それって、幸奈ちゃんと、太助くん?」

「ああ、そうだ」

「なんで…なんで…」

「色々大変なんだよ…協力してくれねぇか?」

「なんで飾音は平気なの?!」

「平気じゃねぇよ。ただ、私は──────」


 飾音は何も変わっていなかった。

 見知った顔の人間が死んでも。見知った顔の人間が敵になっても。彼女だけは依然変わらず、気丈に振舞っていた。


「“巫女”だから。“霊樹”の声を聞いて、“憑景”の契約者が少しでも助かることをしなくちゃいけない」

「巫女…?飾音が?」

「そうだ。隠してきたつもりは無かったけどな」


 ため息混じりに呟き、飾音は手を差し伸べた。


「手伝ってくれお嬢。全部丸くおさめなきゃなんねぇ。四季も、“対妖の衆”も、“九尾”も全部」

「……分かったわ」


 決意を固めた飾音の表情に呼応するように、恋花は立ち上がる。四季への罪悪や自責は、今は置いていく。


「今だけでも、私は貴女を守るための犬になる」

「いや別にそこまでは」

「それくらいの気概ということよ…」


 ──────そして、いつか皆で笑っていられるように。


 〜〜〜〜〜〜


「味方に…?」


 帝誠とアリスのほとぼりが冷めてきた頃、オレ達はそこでようやく本題に入った。


「そう、味方よ」

「誰が?誰の」

「この“アリス”が。貴方、三上四季の、味方になるってこと!」


 どういう風の吹き回しなのか、“童の足跡”の頭領であるアリスはオレの味方をするのだと言う。どう考えても何か裏があるに決まっているだろう。


「な、なんで?」

「私たち“童話”はいつだって子供の味方をするわ。アナタは子供。だから、ね?分かるかしら」

「オレは子供じゃない」

「いいえ。私は見たの。アナタの中の記憶。アナタという意思は生まれて、まだ5年も経っていないってことを私知ってるわ」

「……オレの中身は5歳児ってこと?」

「そう。大丈夫よ安心して!“童話”はいつだって貴方の味方だから」


 多分、アリスの言っていることは正しい。

 翔真が“風間式”の代わりとして、オレという存在生み出して間違いなく五年すらも経っていない。

 だが、だからと言って子供扱いされたくはない。


「む?待て、お前は人の記憶を見ることが出来るのか」

「ふーん知らなーい」

「三上四季。コイツに私の記憶を見るように頼んでくれないか」

「…あっ、そうか。それで帝誠さんの“主”との記憶を探そうってことですか」

「嫌よ絶対イヤ。あなたみたいな汚い大人の記憶なんて絶対に見ない」

「そこをなんとか、と言ってくれ三上四季」

「…そこをなんとか」


 何故わざわざオレを経由するのか。アリスもアリスで、何故かオレからの言葉だけを待っている。


「私の“うさぎの穴”は、その人の記憶を“追体験”するの。その人そのものになるの。ジャバウォックみたいにデカいあなたにはなりたくない」

「…らしいですけど」

「むぅ…」

「そんなに私の力を使いたいんだったら、私と契約するといいじゃない」

「…!そっか。ていうか、オレならそもそも“アリス”の能力自体を扱えるじゃないですか」

「無理だ」


 オレが帝誠の方へと向くより早くきっぱりと告げられら。


「受肉した象物(ヴィジョン)と依代に宿った象物(ヴィジョン)は、完全に“霊樹”の制御から独立する。そこのアリスの力はお前に扱えない」

「なるほど…じゃあ契約すれば使えるんですよね」

「ああ…もちろんそうだ。だが」

「…?」

「今お前はいくつの象物(ヴィジョン)と契約している?」

「シロと“霊樹”、あとこの“ケロベロス”ですかね」

「“霊樹”と“ケロベロス”はいい。依代を介しての契約は、契約者に負担を与えない」

「…何が言いたいんですか?」

「“アリス”と契約するなら、お前は“九尾”との契約を断ち切らなくてはいけない」

「…!」


 帝誠は呆れたように息を吐いた。

 突然現れた選択肢に、オレは黙るしかなかった。“九尾”、シロとの契約を断ち切ること、オレには選べなかった。


「…まぁ、そういう訳だ。コイツの手を借りるというのは、保留にするとしよう」

「ごめんなさい」

「何を謝る。元よりこの状況は想定されていなかったものだ」

「なに子供に謝らせてるのかしら」

「三上四季が勝手に謝ったのだ」

「そんな言い方はないんじゃない?」

「……シロ」


 今でも彼女の顔、声を思い出す。

 彼女がいてくれたから、今のオレがあるのだと言える。そんな彼女との繋がりを無くすこと、オレには──────


「──────何を話しているのですか」


 と、オレの思案を打ち切るように法子の声が響いた。遠くからツカツカと歩く音が聞こえ、やがてその姿が見えたと思うと。


「…!?そこにいるのは、“童の足跡”の…?!」

「あら、見つかっちゃった」

「……待て、法子。別にコイツとは味方でもなんでも」

「──────裏切り者っ!!!」


 布を裂くような叫びが、辺り一帯を埋めつくした。

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