第91話 W頭領
ジャラ…
どこか聞き覚えのある鎖の音が、ジメッとした空間に響き渡る。オレは苦い表情で顔を横に向けた。
「あの…帝誠さん?」
「なんだ」
「ここに来れば、しばらくは安全って話してましたよね」
「言ったな。実際安全だ」
「いや、安全かどうかは置いといて…なんで帝誠さんまで鎖に繋がれてるんですか」
「私がこの組織の頭領だからだ」
「頭領だからおかしいんですよ」
「頭領ゆえに、だ」
相変わらず帝誠ら無機質に答える。
オレと帝誠は2人して“四足獣”のアジトにて囚われていた。オレがこういう扱いを受けるのは分かるのだが、何故だか帝誠も一緒になって鎖に繋がれている。相当信用を失っているようだが、本人は特に気にしていないようだった。
「まぁでも、殺されないだけマシですかね」
「私のおかげだ。感謝しろ」
「そう言われましても」
この人が原因でこうして捕まっているのだから、素直に感謝できない。
「オレの立場から言うのもあれですけど、組織の本拠地に見ず知らずの人招くのは、頭領としてどうなんです?」
「お前をここに連れてきたのには理由がある」
「…と言うと」
「お前の力が必要なのだ。“九尾”の力をも引き出せるその力が」
“霊樹”から“風間式”として認識されているオレは、実質的に“霊樹の契約者”になっている。曰く、“霊樹”はこの世の全ての象物を生み出した神的な存在なため、オレはその気になれば全ての象物の力を引き出せるという…。
「何でもできるわけじゃないですけどね」
「いいや。今のお前には契約者としての練度が足りないだけだ。経験を積めば、お前は文字通りなんでも出来る」
「オレを引き入れたのもそれが理由ですか」
「……蘇らせたい人がいるんだ」
初めて、戦い以外の場で無表情だった顔を強ばらせた。
「誰なんです?知らない人でしょうけど、オレに分かるように教えてくださいよ」
「それが…私にも分からない」
「えぇ…」
「“主”だ。私の“主”だった人物。今は、出雲翔真によって消されたことしか、分からない」
「あ…そういえば言ってた、気がしますね」
帝誠は深刻そうな表情で続ける。
「黒い“九尾の片割れ”が消した。奴の力で消した者は記憶からも、記録からも消え失せる」
「だから何も覚えていない、と」
「それをお前がなんとかするんだ。三上四季」
「無理難題ですよ」
「無理難題を何とかするのがお前の力だ。“九尾”の力にはある程度慣れてるだろう?」
「まぁ、一応シロの力を“呼び出す”?ことくらい出来ますけど」
「なら後は簡単だ。消した人間を復活させは出来なくとも、消した記憶くらいはなんとかできるはずだ」
帝誠は自信満々にそう言った。
だいぶ適当なことを言われている気がする。確かにこの人が組織のリーダーだとするなら、周りも不安がるんじゃなかろうか。
「手がかりもないんですよね?そんなフワッとした感じで出来ちゃうんですか?」
「手がかりなら、ある」
そう言って顎で示した。
「この依代、とかいうやつですか」
「その依代の欠片は“憑景”の箱庭で手に入れた物だ」
「そんな物いつの間に。“憑景”の中ってことは、探してる人は“憑景”の人なんですかね…?」
「それは分からない」
「じゃあなんでこれが手がかりって分かったんですか」
「それも分からない。強いて言うなら直感か」
「コイツ…」
不明瞭すぎるヒントに、思わず悪態をついてしまう。
だが、この“依代”が本当に帝誠の“主”へと続く手がかりだとすれば、まず行くべきは“依代”の大元である“ケロベロス”のいる場所だろう。
「あの、帝誠さん。ケロベロスって」
と、口を開いたその時だった。
「──────みいつけた」
突然、少女の猫なで声がオレの耳元で囁かれる。
「っ?!な、え?」
「三上四季、久しぶりね」
顔を向けると居たのは、ここに居るはずのない少女。青と白のエプロンドレスに小さなリボン。長い金髪で、前髪はぱっつんと切りそろえられている。いわゆる姫カットの彼女の名は…。
「…確か、アリスって人」
“四足獣”と同じ、契約者の犯罪組織“童の足跡”、その頭領である。
「人じゃないわ。どちらかというと象物よ」
「“童の足跡”の頭領が、ここに何しにきた」
「……ねぇねぇ三上四季。この鎖、窮屈でしょう?切ってあげましょうか?」
「え、やめて下さい」
「ええー、なんでよ」
「どこから入った。“童の足跡”頭領よ」
「……ここジメジメしてて嫌ね」
「あの、帝誠さん。多分無視されてますよ」
「むぅ…」
突然現れたアリスは帝誠が言葉を紡ぐ度に、顔を不機嫌そうにしかめている。何故、なにゆえに彼女がここにいるのか分からないが、どうやらオレや帝誠を襲いに来たわけではないらしい。
「三上四季。こいつに何しに来たのか聞け」
「…アリス、さん。何しに来たんですか」
「アリスって呼んで♡あと子供らしくタメ口でいいのよ♡」
「アリス、何しに来たか教えて」
「なーんにも。アナタが死んでないか見に来ただけよ」
「…どういうことだ三上四季」
「いや、オレもさっぱり」
「ちょっと。クソ大人。三上四季に触れないで。汚れる」
「…触れてはいない。それとこの鎖は希少な物だ。切るな」
「じゃあ息しないで」
「無理だ。嫌ならお前が出ていくといい」
何やらオレを無視して口論を始める頭領の2人。完全にオレを蚊帳の外に、ヒートアップし続ける2人を見てオレは思った。
この人たちをトップでも、組織って成り立つんだな。




