第85話 仕組み
中心城、吹雪が景色を遮る最上階。
出雲翔真はかつての恩師である石川綾児、そして青髪の少女と相対していた。翔真は険しい表情なのとは対照的に、向かいの2人は笑みを浮かべていた。
「私のことはアオと、そう呼びなさい。出雲翔真」
「その人に何をした…!」
アオは何気なく視線を綾児の方へと移す。
「綾児のこと?少し、記憶を与えただけよ」
「それだけなことがあるか…!テメェは信用ならねぇんだよ!」
「翔真。あまりこの子を悪く言わないでくれ。僕は本来の僕の使命に気づいただけさ」
「っ…!」
立ち塞がる綾児の瞳には光が宿っている。それも爛々と。彼とて人並みに希望を持った人間ではあった。だが、今の彼の瞳には気味が悪いくらいに光が宿っている。天啓を得た何かの信者のように──────その様子に翔真は嫌悪感を覚えていた。
「イチ!来い!」
呼び声に応え、象物“一目連”が姿を現す。
「はっ!洗脳されてようと“対妖”にとって邪魔な存在には変わらねぇ…!諸共ぶっ飛ばしてやるよ女狐ぇ」
「む?貴様は九尾を連れていないのか?」
「ああ?今は近くいねぇだけだ。ふん縛って全部聞き出してから、それから取り込んでやるよ」
「聞き出す…?そうか貴様、まだ何も知らんか」
アオは身構える綾児を手で制し、不敵な笑みで前へ出た。
「“対妖”が消えるように願ったのは和葉だ。そして、それを実行したのは“九尾”。つまるところ妾だ」
「な…!」
「これだろう?貴様の知りたいことは」
突然のカミングアウトに翔真は面食らった。
和葉という名は、現在“箱庭”を管理する権力者である和氣龍馬の実名であった。“風間和葉”風間式の父親である。
“対妖”にとってそれは、何よりも知りたかった情報であった。そんな重要なことがあっけなく出てきたことに、翔真は困惑する。
「う、そをつけ。そんな簡単に教えるわけが」
「妾には隠す理由がない。事実だよ。貴様ら“対妖の衆”は和葉の願いによって無くなり、ほとんどの人間の記憶からも消え失せた」
「それが本当だとして、なんで和葉さんがそんなことをする!」
「我が子を殺した者への復讐だな。式が“霊樹”に取り込まれよう強行したのは“対妖の衆”、お前らの組織だ」
「…は?そんな話聞いた事が」
「ある時“霊樹”は“風間式”を生け贄として捧げるよう、契約者達に告げた。和葉は断固としてそれを拒否したが、“霊樹”に逆らうことを恐れた“対妖の衆”は強行策として式を拉致、そして告げられた通り“霊樹”へと、捧げたのだ」
アオは青い尾を揺らしながら、おとぎ話を読み聞かせるように話す。スルスルと滑らかに紡がれていくアオの言葉は翔真の耳へと流れることはなく、渋滞し続けている。敵を目の前にして、翔真は何の行動も起こせない状態になっていた。
「当時12歳だった貴様らにそんなことが知らされるはずもない。そして、先程言った通りその怨みから和葉は“対妖の衆の消滅”を願い、人々の記憶からも、記録上からも“対妖の衆”は消えた」
「…!」
「だが、一際強い象物と契約していた契約者。また、比較的“対妖”と繋がりの薄い契約者達は消滅せず、中途半端に記憶を失った──────」
アオは得意げな顔で、翔真を指さす。
「それが今の貴様ら“対妖の衆”残党というワケだ」
「なるほど…お前は最初から全部分かってたんだな」
「いや?今貴様を見て、そう確信しただけだ」
ワナワナと震える翔真に一目連は心配そうに擦り寄る。しばらくもすると翔真は“一目連”を払い除け、アオに怒りの眼差しを向けた。
「他に、知りたいことは?」
「ある。だが、俺はお前の知っているあらゆることを知りたい──────」
代力が溢れ出る。常人とは比べものにならない量のエネルギーは、彼を“出雲家”当主たる所以を感じさせるほどに。
「──────再起不能になってもらう。テメェをクロに取り込ませて、それから全部聞き出してやる…!」
「相変わらず“対妖”のくせに血の気の多い小僧だな」
「…アオ。僕が」
「よい。妾がやる」
青い尾が2本、アオの背後で蠢動を始める。
「下品で野蛮なクセして、貴様はあの時から式に好かれておったからな。ずっと気に入らなかった」
「そりゃ、象物か人間かなら、人間の方を好くに決まってんだろ」
「…!死ね貴様ァ!!」
怒号と共にアオの攻撃が放たれた。暴力的なまでの代力の塊は、研ぎ澄まされた槍のように標的を追い求める。
「イチ“うろこ”」
一言告げると、翔真と尾の間を遮るように無数の鋼鉄の小片が並び出す。
尾と鱗は触れ合うと同時、互いに削り合う音を響かせた。
ギャリギャリギャリギャリッ!!
飛び散る火花に、翔真は目を細めた。
「気持ちわりぃんだよ。そうやって1人の人間に固執する感じ」
「式にはなんの罪もなかった。貴様こそ、“対妖”のした真実を知って、なおも“対妖”のために動くか…!」
「ったりめぇだろ」
無感情に。
「お前ら象物共さえいなけりゃ、こんなことになってねぇんだから」
「…!貴様のような人間がいるから…!」
「象物がいなけりゃ、“対妖”はいなかったよ」
ガ キ ィ ン ッ!!
尾が弾かれ、火花が消えると互いの姿はハッキリと視界に映った。
「「…!!」」
怒りの眼差しが交差する──────
「お、い。俺抜きに、盛り上がってんじゃ、ねぇ」
そんな相対する場に、這い上がってくる一つの影があった。




