第82話 鬼退治
雪山の箱庭内。城のある階層にて。
「…?!ヒゲメガネ!ちゃほパイセン!」
明光院飾音は混乱していた。雪の勢いが増したと思えば、いつの間にか室内に立っていたとなれば誰だってそうなる。おまけに先程まで周りにいた者も見当たらない。
「迷子、なのは私の方なのか…?それとも今度こそ幻術だったりして」
室内から見える外の景色は豪雪により真っ白に覆われていた。
「…ここから出ることは出来んだが如何せん、他の連中がどこにいるかが問題か」
指を鳴らし、契約している象物を呼び出した。
“野衾”
飾音が唯一、自分の意思で契約した象物。姿はまんまコウモリであり、翼やその声帯から発する超音波を駆使した“解釈”が可能。また、“魔法くノ一カザネン”のコウモリ使い魔である“Bバットくん”としての“解釈”も飾音にのみ可能である。
「Bくん──────“反響空域”」
“野衾”の放った超音波の反響によって、城ないの大まかな情報が飾音に流れ込んでくる。
「13層…?!デタラメな作りしてやがるなこの城。さて人の気配は…ざっと10人くらいか?」
象物や代力で作られた類の存在では無い。実体のある存在が約10人。共に来た仲間たちは全員この城にいると考えてもよさそうだと、思った矢先。
「…近づいてくる」
ドッ ドッ ドッ
何者かが、遅めのテンポで近づいてくる。そして音だけの情報だった存在は、直ぐに飾音の目の前に姿を現した。
「あ?誰だテメェ」
「…お前こそ」
鋭い犬歯に切れ長の瞳。深く被ったフードからはボサボサの長髪か覗いている。会ったことは無い。だが、飾音はその印象からすぐに1つの人名を思い浮かべた。
「たしか、カミナリ…とかいうやつ」
「その反応“憑景”のもんだな」
互いに素性を把握し合うと、途端に押し黙った。襲いかかるその前に、聞き出すべきことがあったからだ。
「「三上四季──────」」
と、互いに同じ名前を口に出し、すぐに口を噤む。
「……なるほど“憑景”の方には行ってねぇと」
「……そっちでもないんだな。てっきりお前らが拉致したのかと思った」
「お前知ってて言ってんのか?」
「は…?何が」
「いや、知らねぇならいい──────」
カミナリは嘆息すると、赤い結晶を両腕に纏わせた。
「──────黙って死ね」
「うわ、怖っ」
対する飾音は目の前の女から発されている威圧を感じ取りながらも、戦闘態勢をとった。いつか四季から聞いた話──────奴には恐怖を感じている相手の解釈を鈍らせる力があるという。
「恐怖、感じなきゃいいってことだよな」
辺りを羽ばたいていた“野衾”達が一斉に飾音へと群がり始める。数秒もすると、漆黒のカーテンは消え、中から忍び装束の少女が現れる。
「魔法くノ一カザネン!悪い鬼さん退治に、ただいま見参☆」
「…は?お前ナメて──────」
思わず首を傾げるカミナリ。その一瞬の隙を突き、漆黒のクナイが赤の結晶へと突き刺さる。
「“共・振・爆”☆」
「っ、てめっ」
ド ゴ ン ッ !!
正体不明の衝撃がカミナリを襲う。与えたダメージは薄い。しかし、よろけた体を追い打つようにして次撃、また次撃のクナイが次から次へと放たれていた。
「これがマジカル・クナイ・バーストよっ☆」
「なにがっ、マジカルクナイだ!!爆弾投げまくってるだけじゃねぇか!!」
「そーれそれそれっ☆」
「くっ、あっ、クソ!!“鬼の劣角”!」
叫ぶと同時、カミナリの頭から赤い結晶で形作られた角が現れる。これこそが、相手の恐怖心を増大させ、解釈を鈍らせる力であるのだが…。
「乾坤一擲よーっ☆」
今の飾音にあるのは異様なまでの羞恥心だけであった。
「ちぃっ、このやろ、いい加減に──────」
痺れを切らし前へと出たその時、カミナリの足元にあったのはいつ間にか撒かれていた、まきびし…否、それは“マジカル☆まきびし”。
「“共振爆”☆」
「ふざけんなこのっ」
ヂ ガ ッ !!
上に乗った足ごと吹き飛ばす爆発がカミナリを吹き飛ばした。木の破片とホコリに紛れながらも、カミナリはイラついた表情でその“マジカルまきびし”地帯から離れた。
その姿にやはりダメージは見えない。
「ゴホッ、ゴホッ…遠距離、設置、“野衾”ってことは飛べもできんのか…?クソめんどくせぇ!」
「私のことをもっと知りたかったら、“魔法くノ一マジカル☆カザネン”ブルーレイBOXを買うことをオススメするわっ☆」
「るせぇ死ねっ!!ちっ、しゃーねぇ、このまま付き合ってやってもいいが、今は合流が優先。一旦ここは退いておくか」
「レッドオーガ☆退治」
「黙ってろ!いいか!今だけだからな!三上四季とっ捕まえて、全部済んだらまずテメェを殺しにいく!」
「ウフフ☆……あっそ、気長に待っといてやる」
下の階層へと降りようとしているカミナリを、飾音は遠い目で見守る。今いる階層より下には誰もいない。そのことを飾音は知っていた。カミナリという脅威が仲間から離れてくれるのであれば、これ以上の得はないだろう。
「はー、助かった」
カザネンの“変身”を解き、一息ついた。恐怖を煽る“解釈”というのは、飾音にとって不都合な力ではあったが…。
「アイツが女で助かったな」
「──────あ?」
その一言がカミナリの逆鱗に触れた。
「女で?テメェ、ウチが女だから助かったって、そう言ったか?」
「え…?」
「男だったらヤバかった。けど女だから勝てたって、そう言いてぇのか?あ?」
走り去ろうとしていた体がグルリと、飾音の方へ向き直った。腕にだけ纏っていた赤い結晶が、みるみる彼女の全身を侵食していた。
「気が変わった。テメェは今ここで殺す。絶対に、確実に、グチャグチャにすり潰して、あのクソ野郎の前に出してやるよ」
結晶がカミナリの全身を覆うと、怒気のこもった声で彼女は告げる。
「解釈拡大“鬼に金棒”」
凶器が、その手に握られた。




