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第79話 脱出

 

 “あれ”からどれくらい時間が経ったのだろうか。目が覚めると、オレはやはり薄暗い空間にいた。鉄格子が立ち並ぶ、あの空間。そして、横たわっている1人の女性。


「……あ」


 自然と声が出る。触れると、彼女は冷たかった。息もしていない。彼女は、(すすき)はきっとオレをここに連れて行きたかったのだろう。オレをここから出す、一縷の望みにすがって。


「ありがとう、ございます。オレ…」


 “オレなんかのために”

 とは、言わなかった。言えばきっと、オレに託した彼女の思いをも踏みにじってしまうだろうから。そんなことはオレには出来ない。してはいけない。


 まだ定まり切らない、虚ろな瞳で道の先を見つめた。


「──────見つけたぜ」


 直後、走る音と共に後ろから声が投げかけられた。


「よお。結構手こずらせてくれたなぁ」

「あなたは…」

「あ…?ははっ!なるほどな。急に分身が消えたと思ったら。そうか、もうおっ死んでやがったか」


 オレの手元にあった亡き骸を見るなり、カミナリは笑った。手のひらで顔を覆い、指の間から覗き見るその目は怒りに満ちている。


「殺した。ウチが、殺したってことだよな…?はは、んだよ、大したことねぇ。こんなの苦痛のうちにも入らねぇよ。雪の野郎、バカにしやがって…く、くく」


 カミナリはどこか満ち足りた顔で歩み始めた。


「ふぅ…どうだ?落ち着いたか、式。何も悪いようにはしねぇよ。集まった九尾の片割れも最終的には──────」


 その達成感に満ちた表情に、オレは少しだけ苛立ちを覚えた。


「“ミノタウロスの斧”」


 ドズン、と金属の塊が床に突き刺さる音。手元に確かな重量の出現をを感じる。


「…は?お前、まさか」

「ちょっと、急いでるから邪魔しないでくれ」


 満を持して、その口を開く。カミナリの顔は驚嘆に歪んでいた。


 ──────実際、カミナリの脳内にはあらゆる可能性が思考されていた。“三上四季”の記憶は消しきれていなかったのか?それとも、“風間式”が己の身体の状態を理解した上で、“ミノタウロスの斧”を発現させただけ?


 だが、頭を巡らせていた疑問は目の前の存在が向けてくる眼差しによって、全て消え失せた。


「カミナリ…でしたっけ?名前」

「テメェその目…!クソ生意気なムカつく目ェ…!!“三上四季”か!!」


 途端に怒りに染まる。

 “三上四季”は消えていない。あろう事か、その身体を乗っ取ってしまっている。あれだけの苦労を台無しにされたのだと。


「──────“鬼の拳(オーガフィスト)”」


 その事実はカミナリにとって、許されざる現実であった。しかも、よりにもよってその全てを壊してみせたのが…。


「ウチら契約者はなぁ…生まれてからずっと、契約した象物(ヴィジョン)と、その生死を共にしてる」

「…?」

「どんだけショボイ解釈でも、それは今までその象物(ヴィジョン)と積み上げてきた“生き様”なんだよ…それを、テメェは軽々しく使いやがって…!」

「“生き様”…だからなんなんですか?」


 挑発するつもりはなかった。

 ただ、もう1本必要だっただけ。


「“ミノタウロスの斧”」


 もう一振りの巨斧がオレの手に握られた。


「っ、テメェ…!!」


 それを合図にカミナリは走り出した。なんの捻りもなく、ただ一直線に走った。


 ──────薄川帝誠ですら、二振りの斧を扱ったところは見たことがない。それをコピーキャットのコイツが、二振りを充分に扱えるわけがない。ハッタリ、もしくは付け焼き刃でウチに挑もうとしている。


 リーチは長いが、振り切るまでは遅い。それを見切った故の突進であった。近づき、懐に入ってしまえば後は殴殺するだけ。そのはずだった。


「──────っ?!」


 突如、カミナリはその身に走った悪寒に対して、結晶化した腕を構えた。


 ゴ ガ ッ !!


「っ、刃が伸び──────?!」


 ド ゴ ン !!


 横殴りの衝撃によってカミナリの身体は壁へと叩きつけられた。カミナリの瞳孔はグラグラと揺れ、オレの姿など捉えられていない。だが、そんなことに遠慮し、容赦などする必要は無い。


 もう一振りを振りかざす。


「なっ、待て!!」


 ガ ギ

 ゴ ン ッ!!


 カミナリは追撃をかろうじて両腕で受け止めていた。ギリギリと刃と結晶の間から音が鳴っている。


「な、ん、な、んだよ!さっきのは!」

「別に、何も…」


 斧は伸びていない。なんの形状変化もしていなかった。

 カミナリが斬撃を伸びたと錯覚したのは、振る速度の緩急によるもの。見切ったと感じていた斧撃が加速したことで、伸びたと錯覚したのだった。


「知ってることを、やっただけ」

「はぁ…?」


 ──────驚くべきは、技術を“三上四季”が使いこなしているということ。カミナリとて、多くの契約者を見てきている。能力に頼りきった者も入れば、能力を活かした技術を磨く者もいる。


 後者。

 カミナリが感じた、三上が纏っているオーラとも言うべき威圧感は、技術を持った“猛者”とも言うべき契約者の()()だった。


「さっき“生き様”がどうとか、オレに説教垂れてたね」

「っ!お前──────」


 オレは受け止めるので精一杯のカミナリに向かって、足を振り上げた。


「死んだら全部終わりだよ。“生き様”とか関係なくさ」

「──────だっ、()()。お前」


 微かに身震いしたカミナリ目掛けて、足裏を振り下ろした。


 〜〜〜〜〜〜


 轟音を最後に静まり返った、鉄格子の森。

 とある牢の一室に、ヒタヒタと近づくひとつの影。それは牢の中に入るなり、静かに喋った。


「帝誠さん、決断しに来ました。今度こそ」


 薄川帝誠は目の前に現れた青年を見るなり、目を見開く。そして、すぐにその表情を綻ばせた。


「聞こう」

「ここを出ます。力を貸してください」

「…それでいいんだな」

「いいんです。それと、オレを“四足獣”に入れてください」

「ふ…“四足獣”はいわゆる犯罪組織だ。“憑景”に戻った方が」

「犯罪組織の方が動きやすい。それに“憑景”にいたら、きっと皆に迷惑かけます」


 オレは決意に満ちた瞳で告げる。


「“四足獣”の力を使って、やりたいことがあります。協力してください」

「…!そうか、やはりお前が」


 帝誠は不敵に笑むと、繋がれていた鎖を素手のまま引きちぎって見せた。悠々とその巨躯を持ち上げ、オレの手を取る。


「歓迎しよう、三上四季。我ら“四足獣”に」


 この瞬間だった。オレが、自分の生きる意味を見出したのは。


 〜〜〜〜〜〜


「──────っ?!アカン。アカンアカンアカン」

「どうした杞憂(きゆ)。式になにが──────」

「薄川帝誠が牢から出てんで!!」

「はぁ?!」


 未だ回復しきっていない“対妖”の名家陣に衝撃が走る。


「アイツ、“三上四季”が出るって言うまで動かないって…」

「その“三上四季”や。カミナリちゃんが、“ミノタウロスの斧”でぶっ飛ばされとる」

「…?!そんな馬鹿な。ありえないだろ!完全に消したはず──────」


 そう言いかけ、翔真は頭を抱えた。

 視線の先は“黒尾”と呼ばれる、己の契約象物(ヴィジョン)。未だに札で拘束された彼女になら、出来ないことではなかった。


「…アカン。アジトが、迷宮化し始めとる」

「っ、!」


 ドゴン、と翔真の机を叩く音が鳴り響いた。


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