表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/109

第69話 何者

 

 打ちっぱなしのコンクリートに囲まれた、静寂に満ちた空間。そこには、オレと(すすき)の足音だけが響いていた。歩き続けてしばらくもすると見えてくる、目当ての人物。規則正しく立てられた鉄棒の向こうに、彼は居る。


「帝誠さん、何してるんですか」

「三上四季と、“狸”か……見ての通りだが」


 薄川帝誠は手足を鎖に繋がれたまま、壁にもたれかかっていた。いつも通り険しい顔のまま、目だけでこちらを見てくる。


「いつまでそうしてるつもりですか」

「お前が決断するまでだ。私と共に“四足獣”に来るか、ここで“風間式”にその身体を渡すかをな」


 まるで、今の自分の状態など見えていないかのように。帝誠はそれなりの危機に瀕しているはずだが、そんな自分など、どうでもいいと思っているみたいだった。


「……雪さん、帝誠さんはここからどうなるんですか?本人は余裕みたいに見えるんですけど」

「鎖に繋がれているが、あんなもの薄川帝誠にとっては何の拘束にもなっていない。こんな鉄の檻くらい、簡単に出て行ける」

「それはそうですよね…」

「今この牢屋は杞憂様によって監視されている。薄川帝誠が出ようとするなら、すぐに分かるだろう。が…」

「が…?」

「薄川帝誠に打ち勝てる契約者が、ここには数人しかいない。“獣の巣窟(ラビュリントス)”を使えば、コイツは簡単にここを脱出できる、わよ」

「それが分かってて、こうやって鎖に繋ぐだけで済ましてるんですか」

「……嫌味っぽい言い方をするな」

「あっ、いやそんなつもりじゃ…」


 雪は腕を組み、嘆息した。困らせてしまっただろうか。


「薄川帝誠は今、代力を全て己の防御に回している。こうなったコイツを倒せるのは、もうここには一人しかいない」

「1人だけ…?じゃあその人に」

「その1人が、今は手が離せないくらい忙しい状態だ、わよ。だから、ここの連中はコイツのことを指を咥えて見ているしか出来ない」

「はあ…大変ですね」

「他人事のようだが、お前のせいでもある」

「ああ…そう、ですか」


 チラリと視線を投げてみると、帝誠はやはり無言でオレのことを見てきている。雪と同じく、早く決めろと言わんばかりに。


「そうだぞ。早く決断しろ」

「っ……言っときますけど、オレはいざとなれば、消える覚悟はできてますからね。そのためにオレは生まれたって言われてますし」

「それは覚悟ではない。他人の命令を黙って聞いているだけだ」


 オレの考えていることなんて知りもせず、帝誠はずけずけと言ってくる。


「私は決断しろと言っている」

「オレは、貴方よりも翔真の役に立つことを望みます」

「だったら行けばいい。その翔真とやらに、“オレを消してください”と、頼み込めばいい」

「…!そんなこと、言われなくても…!」


 どうせこの男も、本当のオレなど見ていないのだ。シロか、それか別の何かのために、オレを自分の手中に収めようとしているに過ぎない。ふざけるな。


「オレは、貴方の思いどおりにはならない!!」


 思わず捨て台詞を吐いてから、走り去ってしまった。くだらない。何もかも。オレのために世界は回っていない。世界はオレに優しくない。


 〜〜〜〜〜〜


「──────翔真!!」


 気づけば、雪に案内されるまま、オレは翔真のいる部屋に向かっていた。到着すると、翔真は高そうな座椅子に気だるそうに腰掛けていた。


「……なんだ、三上四季」

「オレを“風間式”にするんだよな?いつするんだ。やるなら早くやった方がいいだろ」

「ああ?…なんか俺らの計画に随分と前向きだな。お前、俺らにそんな協力的だったか?会って1日も経ってないだろ」


 翔真は変わらず蔑むような目で、オレのことを見てくる。それもそのはず、翔真にとっての親友は恐らく“風間式”のことであり、オレではない。彼にとってオレは自分を“風間式”だと思い込んだ象物(ヴィジョン)なのだから。


「計画とか、そういうのよく知らないけど、翔真の役に立つならって…」

「ケっ…お前、キモいくらいお利口ちゃんに育ったな。よう雪、お前なんかしたんだろ?」

「いえ、私はなにも…」

「そうか?お前がそう言うんなら、そうか……まあいい。まだ完全とは行かないが、準備はある程度出来たからな」


 翔真は手を高く掲げ、強く柏手を打った。


 パン パン


 乾いた音が部屋を響き渡る。しばらくすると、ペタペタと裸足で駆ける音が部屋に近づいて来た。


「──────翔真、呼んだ?!」


 扉を開けて現れたのは“九尾”の片割れ、クロだった。


「…雪にシキまで。なんで翔真と一緒にいるの」

「気にすんなよ。アレやるから、力貸してくれってだけの話だ」

「えっ…!本当に、やるの」

「おうよ。半分くらいはいけそうだろ?」

「イヤ!なんでシキを消しちゃうの!あんなに、あんなに大事にしてたじゃない!!」

「大事に…?」

「半分じゃ三上四季は消えねーよ。いいから来い」


 不服そうな顔で、嫌がりながらもクロは翔真の傍まで近づいた。翔真がパチンと指を鳴らすと、クロの後ろから黒い尾が2本這い出てきた。


「三上四季。いつもやってるみてぇに、クロの力を写し取れ」

「えっ…?」

「それだけでいい。そうすれば、お前は“風間式”に近づく」

「それ、だけで…?」


 言われるがまま、不安そうな顔をしたクロの顔を、その全体像を見つめる。覆っているその強大な代力さえも、自分のものにするように。


「解釈、拡大」


 戸惑うように、告げた。


『──────起きて。起きて、シキ』


 聞こえてくる、流れ込んできた声に、オレの意識は連れ去られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ