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第7話 疑念

 

「避けてミソ?」


 空気が──────収束する。

 埃や木くずを巻き込み、風はその姿を現し、


「っ、やば…!!」


 放たれた。


 ギ ュ ガ ガ ガ ガ !!


 サメのヒレが海を走るが如く、風刃は床を抉り、何もかもを押しのけながら三上目掛けて突き進む。

 三上は咄嗟に横へと飛び退くことで、その一撃をやり過ごした。


「…やるね」


 そして、静寂。

 嵐が立ち去った後のような静けさ。

 何事も無かったかのような綾児の様子に、三上は不気味さを覚えた。

 威力は風の傷跡が物語っている。

 間違いなく、三上を殺せる攻撃であった。


「あ、あの…?」

「上からの命令さ。白尾を連れてて、外部の人間なのに、長から容認されてる君が怪しいってね」

「長が許してるなら、いいんじゃないですか?」

「ウチも一枚岩じゃないんでね。そもそも今の長は代理みたいなもんでね、相応しい人間がいなくなったから代わりにやってるようなもんさ」

「他のお偉いさんはオレを認めていないと」

「そ。だから真意を探れって…僕はやりたくないんだけどさぁ」


 発言の割には無表情に、綾児は2本の指で三上を指し、次撃の準備を始めた。

 空気が凝縮されているのを感じる。


「オレを殺したら、先生がシロに殺されます。止めてください」

「ここはさっきまでいた道場じゃない。僕がフーちゃんを呼んだ時点で、実は別の場所に転移してあるんだ」


 三上は窓の外を見た。

 目に映った窓の景色には、動かない雲。

 確かに違和感のある風景であった。


「心配せずとも、今すぐ君を殺したところで僕が死ぬ心配はない…ちなみに、さっきのは意図的に当たらないように攻撃したからね」

「今当てようと思えば、当てられると」

「物分りがいい。君はやはり優秀だ」


 強く吹いていた風が止まる。

 だが、カマイタチは三上から目を離さない。

 攻撃の準備が完了したことを示しているようだ。


「だから、死にたくなかったら、今から聞くことに嘘偽りなく答えて欲しい」

「…はい」

「素直だなぁ…年齢と本名、あと職業」

「18で、三上四季。今年の4月から大学生です」

「へぇ…翔真との関係、あと最後に連絡を取ったのはいつ?」

「翔真とは生まれた頃から友達で最後に連絡を取ったのは高校の…今から2年前くらいですかね」

「シロちゃんとはどこで出会った?なんでそこにいた?」

「シロとの出会いは…ちょっと曖昧です。翔真の両親から留守を頼まれたので、それまで翔真の実家にいました」

「…?両親はなんで君に留守を頼んだの」

「通う大学が、翔真の実家の近くなんです。翔真の両親は海外に旅行に行くので…オレにとっても都合が良かったから」

「なるほどなるほど…好きな食べ物は?」

「え…お、お茶漬け…」

「…よっし。じゃあ、質問終わり」

「…!?」


 突然、気の抜けた表情になると、綾児は突然その場にへたりこんで見せた。

 それと同時にカマイタチも、凝縮させていた空気を解くように解放させた。

 三上はその姿を見て、ポカンと口を開けていた。


「悪いね。安心して、マジでもうなんもしないから」

「最後の質問は必要でした?」

「報告書の空欄を僕が埋めれる。文章は長い方が上の方々は納得するんだよね」

「じゃあ、オレは、死ななくてもいい…?」

「上からは君のことを探って、怪しかったら殺すよう言われてるけどね。そもそも僕に人を殺す度胸なんてないから」

「先生から見て、オレは怪しかったですかね」

「いんや、恋花や翔真と関わってる時点で、マジでただの学生なんだろうなって思ってたよ。実際そうだ」


 三上はほっと、肩を撫で下ろした。

 先程まで殺気を纏わせていたカマイタチは、目を細めて綾児にじゃれついている。


「その、フーちゃんは喋れないんですか」

「そうだね。力を持っている象物(ヴィジョン)ほど、知能が高くなる。でも、長いこと一緒にいれば、意思疎通くらいは取れるようになるさ」


 ふわりふわりと浮いているカマイタチを、綾児は優しく撫でた。


「さて、そろそろ戻ろうか。今頃、三上が消えたことで2人とも大騒ぎしてるぞ?」

「恋花、怒ってるんじゃないですか?」

「その時は一緒に謝ってくれない?三上の言うことなら彼女聞くだろうから」

「ふふ、いいですよ」


 綾児が指を鳴らすと同時に、周りの空気が変化したのを感じる。

 止まっていた窓の景色は動き出し、外もなんだか騒がしいような気がしていた。


「…なんだ?」


 気ではなく、かなり騒がしい。

 誰かが大声を張り上げている。

 何かの異変に気づいた綾児はすぐに教室から廊下へと出ていく。


「は…?あら?」


 三上もその後を追い、その光景を目にする。

 割れた窓ガラス、穴だらけの廊下。

 道場は崩壊していた。

 そして、その原因も、なんならそれに至るまでも経緯も想像できるくらいの存在がすぐ向こうに見えていた。


「シキィィィィ!!どこいったのおぉぉぉぉ!!」


 尻尾を振り回しながら大暴れするシロと、それを必死に止める恋花の姿がそこにはあった。

 突然の光景に、三上は何も言えず、綾児はガックリとその場で膝を折るしかなかったのだった。


 〜〜〜〜〜


 数日後、とある薄暗い部屋にて。


「と、言うわけなんスよ」


 静寂に包まれた部屋で、綾児は軽い調子で話をする。

 受け答えをしている人物は、ふざけているようなその調子に、眉間にしわをよせていた。


「道場や白尾のその後は」

「三上が戻ったので白尾は大人しくなりましたね。道場は今、復旧作業に入ってます。すぐには戻らないっスね」

「あの青年について、貴方の見解を」

「クロではないっス。報告した通り、嘘は言ってないみたいで、和氣龍馬が何かしてる感じでもないっス。ただ…」

「ただ、なんです?」


 綾児はあー、と呻きながら天井を仰ぎ見る。

 言うまいか、言わぬべきか迷っている様子でもったいぶっていた。


「いや気のせい?気のせいかもしんないんスけどね」

「いいから話しなさい」

「僕が放った一撃目。あれ()()()()だったんスよ。避けられることも想定して()()()()してました」

「…それを避けられた、と」

「避けられた、っていうか()()()()()?でも、何かされた感じじゃないんスよね」

「その場にカマイタチ以外の象物(ヴィジョン)はいなかったのでしょう?」

「そう、本当に白尾と契約していないのなら、あの場で三上ができることは何も無かったはず。実際、彼は白尾と契約していませんでした」

「彼自身にやはり何かあると」

「どうッスかね。白尾も白尾で謎が多い象物(ヴィジョン)ですし、三上から何かができるような代力は感じられませんでしたから…」


 数秒、綾児は考える仕草をしてから言う。


「“保留”っスね」

「はぁ…分かりました。ありがとうございます。また何かあったらお願いしますので」

「あっ、ちょっと!それもう頼まないやつ!マジなんですって!」


 ため息と共に、ドアが閉められる音が部屋に響いた。綾児以外の人間がいないのを確認して、カマイタチが綾児の影から出てきた。


「フーちゃんだけだよ、僕の悩みを分かってくれるのは」


 呟き、綾児は始末書の記入を続けた。

 未だ彼の三上に対する疑念は晴れていない。


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