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第63話 ドロン

 ──────目が覚める。オレは開けた視界に映ったのは、真っ白なタイルが敷き詰められた、純白の空間。照明も白かった。


 この部屋には見覚えがない。オレ、三上四季は目覚める直前まで地下にいたはず。気を失った覚えもない。だか、いつの間にか知らない場所にいる。確かさっきまでオレは…。


「起きたか、三上四季」


 気だるそうな声のする方へと視線を移した。視線の先にいたのは、椅子に座った、フード深く被った人物。顔は見えないが、声や服から、オレには誰なのか分かっていた。


「カミナリ…!」

「お、割と覚えてんのな」

「なんでお前がここにいる!」

「なんでも何も、ここはウチらの本拠地だ。お前が連れてこられた側なんだよ。分かるか?」

「オレが、連れてこられた…?」

「へへ、なんだよ。結構効いてんじゃねぇか、翔真の野郎ビビりやがって」

「…!そうだ、翔真!翔真がいたはずだ!」


 死んだはずの親友、高澄翔真が生きていた。ここに来る前、彼は傍にいたはずだ。どこへ?オレには聞きたいことが山ほどある。そう思い、立ち上がって駆け出そうとした。


「ストップ。どこ行く気だ」

「ここを出る。邪魔するなら容赦しないぞ」

「あァ?…翔真に会いたいんなら、ここでじっとしてろ。すぐ来るからよ」

「すぐ来る…?なんでここに翔真が来るんだ!」

「翔真はウチらの仲間だからだ」

「なっ……にぃ…?」


 あっけらかんと口にするカミナリに、オレは困惑した。カミナリと翔真が、仲間?オレの記憶が正しければ、カミナリは翔真を殺したと言っていた。だがしかし、翔真は本当は生きていて…。


 ガチャリ


 オレの思考を遮るようにして、扉の開く音がした。


「おっ、来た……ってお前かよ」


 扉から現れたのは、女だった。黒い長髪に切れ長の目が特徴的な彼女は、現れるなりぶっきらぼうに告げた。


「到着しました。三上四季、目覚めたんですね」

「おお。監視役を申し出たそうだが、翔真からのお達しだ」

「…?なんでしょう」

「今ここで、単独で三上四季を沈静化させろ」


 瞬間、女はキッとこちらを睨んだ。いつの間にか、その両手には1本ずつ短剣が握られていた。数秒、息が詰まるような沈黙が流れたと思うと…。


「──────無理です。勝てません」

「あ?お前から申し出たんだろうが」

「“ミノタウロスの斧”がある限り、私の攻撃は何も通りません」

「はぁ…分かった。“命令”アリで」

「それなら」


 すぐに向き直ると、女はオレの数歩先の場所まで歩き、止まった。突然攻撃することは無く、なぜだか彼女は黙って何かを待っていた。


「……。」

「…?あ、あの?」

「戦うから準備しろってことだ」


 椅子を逆向きにして座っているカミナリが、面倒くさそうに呟く。その間、女は無表情のまま、ただただ立っていた。


「なんで、この人と戦わなきゃならない」

「お前の都合は聞いちゃいない。こいつには、戦う理由があるんだよ。なぁ、(ススキ)

「……。」

「何も言わないけど」

「ちっ……じゃあ勝ったら、ここから出してやるから!戦えよ!」


 (ススキ)と呼ばれた女は、じっとオレが準備するのを待っていた。カミナリはともかく、この女はなんだか悪い人ではないように見えてきた。


「……分かった。“ミノタウロスのお──────」

「それはダメ、わよ」


 雪が呟いたと同時、オレの身体は動かなくなった。それどころか“ミノタウロスの斧”を生み出すイメージが、何故だか出来なくなってしまった。頭に浮かべても、靄がかかったみたいになって、顕現させるまでに至らない。


「……“鬼の拳(オーガフィスト)”」


 不本意だが、カミナリの解釈を使うしかない。オレの両手から肘にかけて、青い結晶がまとわりついた。


「ケッ、簡単にやりやがって……って、なんで不服そうなんだよ!!」

「準備できたぞ。どうすればいい」

「カミナリ様、合図お願いします」

「っ、お前らなぁ……」


 カミナリは深く息をつき、告げる。


「よおい──────ドン」


 手が振り下ろされると同時、オレより先に雪が走り出した。あっちの目的は“沈静化”。流石に殺しには来ないだろうけど…。


「ふっ!!」

「ちょっ、首元狙ってるけど?!」


 鋭く突き出された短剣を、硬質化した拳で受ける。ギャリギャリと音を立てて擦れるナイフは、腕の結晶に傷1つ付けられていない。


 ガン! ガギン ! ゴギガン!!


 次いで放たれる連撃を、全て腕で防いでみせる。雪の攻撃は、契約者としては単調そのもの。これが続いていけば、オレが負けることはないように思えるが…。


「──────じゃあ、これ」


 ひょいと、唐突に投げ出される玉。導火線の付いたその玉はジジジと火で紐を縮めていき…。


 ボ フ ン !!


 と音を立てると、辺りに煙を充満させた。雪の影は煙に紛れてよく見えないが、オレには問題ない。


「まあ──────音で、分かるよねっ!」

「……!!」


 背後から迫る短剣を、殴り砕いた。さらに返す二の太刀にすら、オレは反応し、伸ばされた雪の腕ごと掴み止めた。


「さて、ギブアップしたほうがいいよ」

「……やる、わね。三上四季」

「このままアンタの腕を握り潰す。ギブアップしてくれるなら、しない」

「それは、アナタが出来るなら、わよ」


 取ってつけたような女口調。内心やりたくないのを見透かしているように、雪はオレの顔を覗き込んでくる。実際、やりたくない。


「──────それでも、翔真のためなら」


 それでもと、めいっぱい、拳に力を込めた。


「“ドロン”」


 と、その直後に腕から掴んでいた感触が消え失せる。音すらならなかった。見ると、オレが握っていたのは1枚の木の葉だけ。


「甘い、わよ」

「っ──────!!」


 咄嗟に飛び退いてみたがもう遅く、雪による短剣の軌跡が、オレの体を数箇所切り裂いていた。途端に、オレの身体から力が抜けていく。そういう毒が、短剣に塗ってあったのだろう。


「……っ、から、だ、動かな、い」

「カミナリ様。沈静化しました」

「あー、ちょっと危なっかしいが、良しとするかー。後で、ウチから翔真の方に言っといてやる」

「ありがとうございます」


 雪は深くお辞儀すると、満足そうに息をついた。確か、オレの監視役を任せられるとかだが、彼女なりに何か思うことがあるのだろうな。


 ゴトォン!


 痺れた体で余計なことを考えていると、再び部屋の扉が開けられた。今度こそ、現れたのは高澄翔真。オレが探していた男の姿だった。


「……お前ら何やってんだ」

「別に。お人形同士で戦わせてただけ」


 対して、カミナリはイタズラに笑みを浮かべていた。

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