第62話 代わりの力
「高澄、翔真…!!」
驚嘆の声が、辺りを響き渡る。分かりやすく動揺している和氣の表情に、現れた男は余裕の笑みを作った。虚ろに泳いでいた三上の意識は、やがて我に返ると、その現れた男の姿をハッキリと捉えた。
「──────え?翔、真」
「……久しぶりですね和葉さん。少し老け込みましたか?」
戸惑う三上には構うことなく、男は和氣の方を向く。三上から見る彼は、間違いなく高澄翔真であった。ボサボサの金髪といつも付けているロケットペンダントは、間違いなく彼であった。
「その名を知っているか。やはり君は…!」
「ネタバラシですよ。ふふ、てっきり自分の名前忘れたから、“和氣龍馬”なんて名乗ってるもんだと思いましたよ」
「っ、“K-16”!彼を殺せ!!」
「御意」
K-16はキッと表情をきつく締めると、その身から一本の“尻尾”を顕現させる。予備動作もなしに、一気に飛びかかった。対する翔真はポケットに片手を突っ込んだまま、軽い調子で告げる。
「イチ、“うろこ”」
「……!!」
突き出されたK-16の尻尾は、翔真の目前で止まっていた。その先には何も無いように見えているが、見えない壁があるかのように、尻尾はその先に進めないでいた。
「なるへそ。“一つ尾”はずっと傍にいたワケだ。悪いけど今日はクロ連れてきてないから、しっぽ合戦はまた今度」
「ぎ、ぎぎ……!!」
「でも、その代わり──────おい、三上四季」
呼んだと同時、三上の目に宿っていた光が消え失せる。
「お前、どこまでやれる?見せてみろ」
「あ──────はい」
虚ろに揺れる瞳孔が、目の前のメイドに向けられる。弾丸に貫かれたはずの三上の脚は、何も無かったかのように、立ち上がった。
「解釈拡大“ミノタウロスの斧”」
「おう。薙ぎ払え」
三上は何の躊躇いも見せず、手に持った巨大な斧をK-16に向かって振り下ろす──────次の瞬間には、鳴き声に似た小さな悲鳴と共に、K-16の体は後ろの巨大なカプセルに突っ込んでいた。
「なっ…!K-16!まだ戦えるか!」
「ぐっ、あ、はい。まだ、なんとか…」
「うっひょー……“一つ尾”とはいえ、やっぱ帝誠さんのえげつないな。良い誤算だよ、お前がこれ盗んできたのは」
「──────あ、あれ?オレ、何を」
再び、三上の意識は元に戻った。いつの間にか握っている斧、吹き飛んでいるK-16に、三上はやはり困惑していた。
「なんでこれ…いや違う!翔真、お前、なんで生きてんだ」
「はぁ…やっぱ完全に操れるようにはなってねぇか。何とかなるとは思うが」
「おい!話、聞いて……」
と、そこで三上は言葉を紡ぐのを止めた。上手く喋れなかったから。呼吸が上手く出来なかったから。涙が、瞳から溢れていたから。
「お前、生きてたんなら…早く言えよ!」
「……」
三上の必死に涙ぐむその姿を、翔真はあろうことか蔑むような目で見ていた。
「…ここまでいくと気味が悪いな」
「え?なんのこと」
「前を向け。“一つ尾”が来る。お前が相手をしろ」
「──────はい」
瞳が暗く沈み、斧片手に跳び立っていく三上を満足そうに眺めると、翔真は嘆息と同時に和氣の方へと歩み寄って行った。和氣は拳銃を向け、警戒した表情を表に出している。
「そんなもの、俺には効かないっスよ」
「そんなこと、分かっている」
「大丈夫ですって。今日は挨拶に来ただけです。あと、アイツの回収」
「……なんなのだ。アイツは」
薄川帝誠の解釈“ミノタウロスの斧”を片手に、“九尾”の片割れでもあるK-16と渡り合っている三上を見て、和氣は恐れ、翔真は鼻で笑った。戦況は、三上が優勢である。
「アイツは元々ウチの者ですよ。貴方を炙り出すためにそちらに送り込みました」
軽い調子で話された言葉に、和氣はワナワナと震え出した。瞳には、怒りが宿っている。
「他人の息子の顔を使って…貴様には人の心は無いのか?!」
「その息子を生け贄にした親が言えることではないっスよねぇ!!」
「っ…!!何も知らない子供が、好き勝手に言ってくれる!」
「別に、何も知らないわけじゃないっスけど…アンタらがそんなだから、今色々知ろうとしてるんですよ。邪魔しないでくださいね」
「なんだと…?それだけの為に、人間の顔を弄り回して、私の心を、弄んだと…!」
「ははっ、“人間”じゃないっスよ。アイツ」
ド ゴ ォ ン !!
巨大カプセルが横に倒れ、地面へと激突する。
カプセルは衝撃によって崩壊し、蛍光色の液体が地面へとぶち撒かれる。割れたカプセルには、意識を失ったK-16と、その上に立つ三上四季の姿があった。
「あらら、勝っちゃった。ま、安心してください、あの“一つ尾”、今日は奪いませんから」
「バカな…!確かに、人間ではない…!今の彼と契約している“白尾”は、まともに代力を供給出来る状態ではない……それで、K-16を倒すなど」
「他人の解釈と同じ力を使う力。あの力に、シロは関わってませんよ」
「……!?」
動かなくなったK-16の首根っこを掴み、三上はカプセルの破片を押しのけ、重い足取りで翔真の方へと戻って来る。
「アイツは、三上四季は象物です。オレ達が丁寧に育て上げた最高の、ね」




