表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/109

第55話 顛末

 

 数日後、事の顛末(てんまつ)を聞いた石川綾児は、いつもの薄暗い部屋で、こう語る。


「あの後どうなったか、ですか?いやーそりゃもうピンチピンチ。大ピンチですよ」


 軽い調子で、他人事のように喋った。彼にとっては間違いなく、他人事ではある。だが、彼の話し方は自分の請け負っている生徒の話をしているとは思えないほど、歯牙にもかけないものだった。


「シロ…“白尾”は当然、戦闘不能。空木恋花が命懸けで助けた三上四季も、その瞬間で意識を失っていました。あの場でまともに動けたのは、片腕が使えなくなった空木恋花だけだったでしょうね」

「勿体ぶらないで、早くその先を報告なさい」


 綾児の上司は苛立ち混じりに言った。

 その時点では、無事とは言えずとも、三上四季含めた全員が生きて“箱庭”に戻れていることが分かっていた。どれだけ危機的な状況であろうと、そこにいる彼らは、その結果を知っていたのだ。


「その後、三上四季と“白尾”はどうなったのです」

「そう怖い顔しないでください……更年期ですか?」

「給料カットしますよ」

「すんませんすんません……ほら、あの、その後に来たんですよ。“アレ”が」

「“アレ”?」

「あぁ、なんて言ったか。あれですよ、“時枝”のとこの」

「……“アレ”ですか。そう簡単に動く連中ではないはずですが」

「名家の三柱の当主候補が死にかけてるんです。そりゃ動きますよ」

「候補、でしょう?それに“アレ”は三柱のために動くことは無いはず…」


 しばらくの沈黙。

 次いで、嘆息したかと思うと、その場にいた二人はそれ以上の追求を止めた。“アレ”の動向など、考えたところで分かるものではないからだった。


 〜〜〜〜〜〜


 それは、いつの間にかそこに立っていた。


「「……!!」」


 シロが尾に貫かれ、三上四季が気を失ったそのタイミングで、彼女は現れた。


 その場にいた全員が、息を呑む。

 姿を目撃したのは3人、“アリス”と“赤ずきん”、そして空木恋花である。その者が誰なのか、そこにいた誰もが分からない。だが、それが放っていた異様な雰囲気は、全員が感じ取れていた。


「──────そう見てくれるな。照れる」


 影は、透き通った声で話す。

 黒い眼帯と金髪のポニーテール。酒瓶片手に、眼帯に隠れていない眼球であちこちを見ている。


「“時枝”からの命令だ。“白尾”を守り、三柱の当主を守れ、と」

「“時枝”から…?貴女は、一体」

「“守り人”だ。空木の。そこのガキと“白尾”連れて、さっさと下がってくれ」

「守り、人…」


 恋花は、女が言ったその言葉を、噛んで含むように言った。


 聞いたことがある。“霊樹”をあらゆる契約者から守るために編成された、少数精鋭の契約者集団が“時枝”にはあると──────


 ジーンズに黒いタンクトップ姿の彼女は、敵を前にしながら、持っていた瓶から酒をあおった。


「無くなった……早く帰りたい」

「“守り人”?だったらなんでしょう。貴女1人で私たちに……勝テルトデモ?」


 レッドはその身を再び大狼へと変化させる。

 シロすら圧倒したその力を前に、“守り人”を名乗る女は少しも怯まなかった。


「疲れるから、あまり力を使いたくない。大人しく退いてくれないか?」

「退ク?ココハ私タチノアジトデス」

「他にも住処があるだろ?調べはついてる。どこにでも逃げ帰ってくれよ」

「ブッ殺シマショウカ?」

「殺す…?それは、誰が死ぬんだろうね」


 守り人は虚ろな瞳で、“アリス”と目を合わせた。攻撃も、象物(ヴィジョン)の気配もない。女はなんのモーションも見せていないにも関わらず…


「っ……!!ウ、ゥボェ…!!」


 “アリス”は嘔吐した。


「…?!ボス?!」

「な、なんなの貴女。歪で、気持ち悪い…!!」

「気持ち悪いって…傷つく」


 “アリス”は青ざめた顔で、再びその顔を見る。常人から見れば普通の人間……否、むしろ美人なくらいのその顔に、“アリス”は言いようのない不快感を覚えていた。“アリス”は口を拭うと、吐き捨てるように言う。


「……帰る。こんなやつ、もう1秒たりとも見たくない」

「ボ、ボス!ボス?!待ってください!」

「仲間を連れて私たちは出るわ。後は、ご勝手に──────」


 “アリス”は霧のようにその姿を消したと思うと、その場に残ったレッドは、洞窟の奥へと走って行ってしまった。


 何ともあっさりと去った危機。

 恋花は、ほうと胸を撫で下ろした。


「あ、あの」

「……」


 恋花は、お礼を言おうと声をかけたが、守り人は振り向くこともせず、先へと歩く。


「あの!すいません!」

「……どうした、空木の」

「その辺に捕まってる知り合いがいると思うんですけど」

「ああ確か…牟田茶知菜だったか」

「そうです、その人を……」

「殺すよ。今から」


 守り人は当たり前のように言うと、指から数回、音を鳴らした。


「は…?!ま、待ってください!なんでそんな」

「なんか“憑景(ウチ)”の術者じゃないらしいな。殺す。どうせどっかのスパイかなんかだろ」

「な、え、は…?」


 恋花も今知ったことだった。

 茶知菜は憑景の者ではない。どこの、誰で、どうやってここに、なんて考えている余裕はなかった。


「待ってください!何かの間違いです!」

「いや間違いない」

「殺、殺さなくても、まずはどこの契約者か聞くところからでも!」

「必要ない。殺す」

「いや、そんな、そんな……」


 と、恋花はふと閃いた。

 “守り人”が“時枝”の人間なら。


「牟田茶知菜は“巫女”の友人です!殺したら、“巫女”が悲しみます!!」


 その瞬間、守り人は即座に恋花の方を向いた。

 さっきまで虚ろだった目を大きく見開き、必死の形相で、遠くの恋花を見つめる。


「巫女様が……そうか、それは、しない方がいい。殺したらダメだ。あの子が、泣いてしまう」


 ブツブツと、俯いた顔で何かを呟く。やがて何かを確信すると、刀を収め、恋花に札を1枚手渡した。


「“転送札”だ。ここにいる全員連れて、もう帰れ」

「えっ、私1人で?!あの!」

「私も帰る。巫女様の容態が気になる」


 ポツリと呟いたと思うと、踵を返し、守り人はどこかへ走って消えていってしまった。


「なん…なんなのよ……」


 1人残された恋花は、辺りに散らばる計5人の人間見て、泣き言をこぼした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ