第50話 真っ赤なウソ
「ねぇ、知ってる?」
「何のこと」
走る。駆ける。
三上とシロは、宙に浮かぶ、まるで童話から飛び出してきたような格好の、謎の少女による誘導へと従うまま、岩の道を進んでいた。足早に駆けていく2人に、少女は飛びながらついて来る。
「“象物”のこと」
「まだ知らないことの方が多いよ」
「シキ。ソイツとあんまり喋らない方がいいわ」
「……あら、道案内までしてるのに、なんで私こんなに嫌われてるのかしら」
「アナタの言うことが嘘だったら、許さないから」
口に手を当て、ほほほと少女は笑う。シロはやはり彼女のことを信用していないようだった。
「“象物”にはね、元になった願いが、解釈の軸があるの」
「……」
「カマイタチは風を起こして、カッパは川を泳いで、スモウをとる」
無視する2人のことなど気にせず、少女は話を続けた。
「どんな“象物”にも、軸となる解釈はあるの。それはね、そこの“白尾”も例外じゃないわ」
「……!」
「ね、“白尾”ちゃん」
ビュオ、と宙に浮く少女の姿に向けて、尻尾が飛ぶ。が、やはり少女の実体はそこにはないようで、映し出された映像かのように、ユラユラと揺れているだけであった。
「シロの解釈は“何でもできる”…とか?」
「何でもできるのはその子が宿してる膨大な代力のおかげ。彼女にはちゃんと、得意技があるの」
「得意技…?」
「心当たりくらいはあるんじゃないかしら?三上四季」
「……なんでオレの名前を」
「アナタ、最近有名人だから」
少女は三上を見つめ、不敵に笑う。
三上の頭を巡ったのは、これまでの戦い。
シロの得意技……と言われても、シロが戦う時にすることと言えば、2本の尻尾を用いて攻撃することだけである。
「……“尻尾を操る”かな」
「そんな解釈、“白尾”の力のほんの一部よ」
「いや、でもシロは他に……ねぇ?」
「私知らない」
「きっと解釈は、三上四季、アナタを通してされているはずよ」
「オレを、通して?」
三上四季は、今まで戦ってきた相手の解釈を真似ることで、コピーすることで戦ってきた。それは、三上自身による解釈から生まれたものだと、シロの力とは何も関係ないものだと思ってきた。その膨大な代力によって実現しているものだと、そう思ってきた。それはもしかして……。
「“人を真似る”……?」
「……!」
「“人を真似る”こと、それがシロの解釈の軸なのか?」
少女は息を呑み、一呼吸置いてから、口を開いた。
「何を言ってるの?」
「……え?」
「本当に、本当に知らないの?三上四季、アナタは何も知らずに──────」
ふと、少女は何かに気づき、シロの方を見る。
シロはその視線に対し、少し怯えたような表情を見せた。
そこで、三上は確信する。シロは、己の“解釈の軸”がバレることを恐れている。何かをオレに隠している、と。
「ねぇ、オレは……」
「──────先へ進んで」
「え?」
「アナタが知りたいというのなら、進みなさい、三上四季。私はその先で待ってるから」
突然、少女の姿は揺らぎ、消え始める。
その表情には、嘲笑うかのような笑みは消え失せている。彼女はじっと、真剣な眼差しで、2人を見つめるのみ。
「私は“童の足跡”の頭領。“アリス”よ。ここを真っ直ぐ走った先で、アナタのお仲間と待ってるから」
そう言い捨てると、宙に浮かんでいた彼女の姿は虚空の中へと消えていってしまった。
三上はその言葉に困惑しつつも、足は止めなかった。
「──────待って」
だが、シロは止まった。
「……シロ」
「もう、帰りましょう。あの人はやっぱり敵のボスだったわ。きっと言ったことも全て嘘」
「でも、なっちゃんが」
「なっちゃんは……ちゃほが何とかしてくれる」
「翔真のことも、何か、もしかしたら知れるかもしれない」
「そ、それもウソ。アイツは、敵。私達をおびき寄せようとしてるだけ」
シロの瞳に“恐れ”が色濃く滲んでいる。
この先に進むことを拒んでいる。やはり、シロはオレに隠していることがあるのだ。三上は意を決する。
「何を隠してるの」
「……!な、なにも」
「昨日から……いや、多分、ずっとそうだ。シロは何か──────」
ずっと。出会った時か、ら、な、に、か。
出会った、時……?
「…?オレ、シロとどこで出会ったんだっけ?」
「……!シキ!ダメ!!」
「あ……れ」、?
乾いた音が、聞こえていた。
その時は、オレは、黒服に。
撃たれた……?死んだのは、誰──────?
「大丈夫」
「あ…………あ、あ、あ、」
“白い尾”に包まれると、何もかもがどうでもよく、有耶無耶になっていく。そこにあったはずの何かが、どこかへ。オレは、何を思い出そうと。
「──────避けてっ、!!」
どこからか響く、布を裂くような叫び。
その声に、三上は意識を覚醒させる。
「オレ、何を……シロ?何してるの?」
「っ……!な、何も」
「今の声……恋花の声だ!早く行こう!」
「あ、待ってシキ!!」
三上は駆け出す。声の主は、間違いない、親友の恋花の声だ。ただならぬ切迫した様子で、その声は発せられている。岩の道を走り抜け、開けた空間へと出た先、そこで三上が見たものは──────
「いやああっ!!ちゃほ先輩!!!」
獣の腕によって腹を貫かれる、飛鳥茶誉の姿であった。
咲いた鮮血の花と飛び散る赤の花弁。
その赤に濡れた姿で、獣は叫んだ。
「──────グウオォォォォォォ!!!」
赤い頭巾のバケモノは、その咆哮で辺り一帯を揺らしていた。




