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第49話 問答

 

「は?一緒に行く?…女子供は大人しく帰っとれ」


 変わらず敵地、洞窟の中。

 茶誉は三上達に冷たく言い放った。


「女子供って…ちゃほ先輩オレと1つしか違わないじゃないですか」

「ちゃほ、見た目は私と同じ歳くらいに見えるの、自覚した方がいいわ」

「馬鹿者!わしは飛鳥家の次期当主じゃ。年齢とかそういうの関係なく、お主ら一般契約者を守る責任がある」

「でも、この先ちゃほ先輩1人じゃ危ないですよ。オレたちもついて行きます」

「わしを舐めとるんかー!!」


 両手を振り上げ、茶誉は叫ぶ。


 “白雪姫(スノウホワイト)”を撃破した後、シロを眠らせようとしていた毒は消え失せ、シロは万全の状態に戻った。なんやかんやありつつも、一息ついた三上がまず思ったのは、やはり飾音達の安否であった。救助に来たという茶誉について行き、自分の目で皆の安否を確かめたかった三上だが……。


「あのな、明光院飾音や桐緒の方にはもう恋花のやつが向かっとるんじゃ。ここに向かう道中で、どこにおるかは既に、ある程度把握しておった。今頃助けとるはずじゃ、安心せい」

「連絡は取れないんですか?」

「一応、スマホでメッセージは送ったがまだ返事が──────」


 カーッ、カーッ、とすぐ近くからカラスの声が聞こえた。すると、茶誉はおもむろにポケットから携帯を取り出した。


「恋花からじゃ」

「あ、着信音か…なんて言ってます?」

「“桐緒と飾音、あと一般人は見つけた。今から箱庭に送り返します”だと。な?安心じゃろ」

「桐緒くんと飾音……なっちゃんは?」

「は?誰じゃ」

「ここに一緒に来たクラスメイトです」

「“なっちゃんとか言うのはおるか”っと……」


 茶誉が慣れない手つきでメッセージを送信し終えると、すぐに返信は来た。


「……見当たらんのだと」

「そ、そんな…!じゃあ、まだ帰るワケにはいきません!」

「そーよ!なっちゃんも一緒に帰るの!」

「あー、待て待て待て!めんどくさくなってきよったなぁ!」


 踵を返し、先へと行こうとする三上達を、茶誉は止めた。


「緊張感がないのぉ!いいか、ここは敵地のど真ん中じゃぞ!お友達のために、お主のような素人がうろちょろしてよい場所ではない!」

「でも……オレには、シロがいます」

「私がいればシキは死なないわ」

「さっきまでピンチじゃったやつがよう言う。逆じゃ逆!」

「逆…?」


 茶誉は威圧するようにシロを指さした。

 驚いたのか、シロは唇を口に隠した。


「“白尾”が敵に奪われるかもしれんじゃろ!契約者のお主はまだ未熟!並の契約者ならまだしも、ここにおるのは犯罪者集団ぞ!」

「でも、今までもシロとなら、なんとか…」

「今まで好き勝手出来ておったのがおかしいんじゃ!いいか、困るのは恋花や周りの者なんじゃからな!」

「あ……す、すいません」

「はぁ…すまん、言いすぎたの。まあなんじゃ、その“なっちゃん”とか言うのはわしと恋花に任せておけ。桐緒もおるんじゃ。三柱揃えば百人力じゃ」


 そう言うと、茶誉は三上に1枚の御札を渡した。札に綴られている文言は三上には読めないが、何となく、渡された意図は伝わっていた。


「“転送札(ポータル)”じゃ。お主が通れるくらいの円なり空間なり見つけて、そこに向ければ“箱庭”に帰れる」

「ちゃほ先輩や恋花は……?」

「全員“箱庭”に送り返したら、すぐ帰る手筈じゃ」


 それじゃあの、と言うと、茶誉は三上達の方へは振り向くことなく、走っていってしまった。


 茶誉の背中が暗闇に溶けて見えなくなると、ふぅ、と三上は一息ついた。説教されたのなんて、いつぶりだろうか。後のことは任せて、大人しく帰ってしまおう。確かに、今まで死ななかったのが奇跡なくらい、色んなことに巻き込まれてきた、ような…。


「……あれ?」

「怒られちゃったね」

「う、うん」

「…?どうしたのシキ」

「い、いやなんでもない」


 三上が今までのことを振り返ろうとした時。

 何か、記憶にノイズのようなものが走った気がした。また、これだ。オレの記憶は“写し取る力”を使ってから、いつもおかしい。やはり、写し取った人の記憶と混合してしまっているのか。


「大丈夫よ。なっちゃんはすぐ見つかるわ」

「飾音達とはぐれちゃったのかな。捕まってないといいけど」

「……悔しいけど、あの暴力女も、ロン毛も結構強いわ。私ほどじゃないけど」

「うん……そうだね。ちゃほ先輩も、きっと凄く強い。こういう場所の戦いだってきっと慣れてて──────」


 一瞬だけ、翔真のことが頭を過ぎった。戦いの中で死んだ、親友のこと。きっと生きていれば、恋花や桐緒と同じ歳の……。


「っ、でももしかしたら……」

「負けちゃって、死んじゃうかも。なんて」


 高く、澄んだ声がその場に響いた。

 金の髪が揺れる。その人影は、目の前で座って、三上達を見つめていた。


「不安なのよね。本当に、皆が生きて帰って来れるか」

「君は……?」

「シキ、下がって」

「怖がらないで。私は、今触れようとしても、ほら」


 少女が伸ばした手は、シロの胸に触れたかと思うと、スルリとすり抜けてしまう。そして、地から足を離した彼女の体はフワリと浮く。まるでそこに実体はないかのように。


「追いかけたいんでしょ?行った方がいいわ」

「シキ、無視しよ。私たちは帰るって、ちゃほと約束したでしょ」

「う、うん」

「いいの?このままじゃ、あの子死んじゃうかもよ」

「……あの、子」

「なっちゃん、って呼んでた子よ。あの子、このままじゃ名家の3人に殺されちゃうかも」

「…!それは、どういう」

「シキ!」


 シロの声など無視して、少女は話を続ける。


「あの子ね“憑景”の契約者じゃないの。ここにいる人達と同じ、犯罪組織の一員なの」

「そんな、こと…」


 嘘だ。きっと嘘。

 そう考えていながらも、変なことばかり頭に浮かんでくる。何故、今日の名家の葬儀に、なっちゃんは行かなかった。何故、今の状況、なっちゃんだけが皆から離れてしまっている?


「きっと名家の3人はそれに気づく。そしたら、きっとあの子は──────」

「っ、黙って!!」


 シロの尾が少女を穿つが、少女の姿は雲のように揺らぐのみであった。クスクスと笑いながらも、少女はシロの方を見た。


「あなたにとっても、行った方がいいわ。“白尾”」

「嘘つきの言うことなんか聞かない」

「愛しい愛しい高澄翔真くんのこと」

「…!」

「この先にいる人は、知ってるわ。貴澄翔真と会う方法」

「翔真と、会う方法…?」


 ええ、と笑うと、少女は先へと続く道へ、ゆらりと移動した。妖しい笑顔で、三上達を見てきている。罠だ、間違いない、ウソに決まっている。三上もシロもそう感じていた。だが、自分にとって都合のいいウソというものは……。


「──────少しだけ、行ってみましょう。嘘だと分かれば、すぐ帰ればいいもの」

「……そう、かもね」


 容易に人の心を動かしてしまう。

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